中国は経済の肺を失うことになる~香港で国家安全法が施行されれば
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ニッポン放送「飯田浩司のOK! Cozy up!」(6月5日放送)に外交評論家・キヤノングローバル戦略研究所研究主幹の宮家邦彦が出演。香港で開かれた天安門追悼集会について解説した。
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4日夜、香港島中心部の公園で敢行された天安門事件31年の追悼集会=2020年6月4日 写真提供:時事通信
天安門事件から31年、香港で1万人が追悼集会
中国で民主化運動が武力弾圧された天安門事件から31年となる4日、香港では警察当局が新型コロナウイルス対策を名目に追悼集会を禁じていたが、およそ1万人の市民が中心部の公園に集まった。参加者はろうそくを灯し、集会を敢行。事件の犠牲者に黙祷を捧げた。
宮家)これが最後の集会になるかも知れませんね。国家安全法が施行されると、香港は中国と基本的に同じスタンダードを使うということになります。今回はコロナのせいにされましたけれども、今後はコロナがあろうがなかろうが、基本的に「これは国家反逆だ」と弾圧の対象になり得るわけです。それは香港の終わりの始まりです。
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28日、台北中心部にある香港政府の出先機関前で、国家安全法の香港導入に抗議する香港と台湾の学生ら=2020年5月28日 写真提供:時事通信
香港から海外投資家が去る~経済の肺を失うことになる中国
宮家)もし仮に中国経済が人間の体だとしたら、香港は肺です。中国経済に必要なのは人体なら酸素、経済に必要なのはお金、特に外貨です。しかも、中国の過去30年の発展を考えると、外国投資で発展して来ているのです。中国の外国投資はどこから来るかというと、香港からです。上海や北京にもグローバルな金融センターはあるけれど、そこには自由がないし、透明性も、ルールもない。危なくてお金を投資する気にならない。だけど香港には、アメリカによる特別措置があるから、ドルペッグ制だし、自由貿易ですからね。アメリカがいま中国に課している貿易の関税もありません。そして、ビザも実質的に必要がない。そうすると、アメリカの一部のような形で、中国国内で商売ができるということで、香港は中国経済にとって重要な役割を果たしています。現在、外国の投資の6割は香港から来ているという報道もありました。
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香港の繁華街で行われた、国家安全法導入に対する抗議デモ。抗議者たちは中国共産党の滅亡を求めて「天滅中共」のポスターや「香港独立」の旗を掲げながらデモ行進した=2020年5月24日 写真提供:産経新聞社
中国企業のアメリカでの上場が厳しくなる~これからは金融での米中対立が始まる
宮家)逆に中国の対外投資も、香港経由が多いと言われています。このように、香港は酸素をやり取りする肺の役割をして来たわけですね。もしこれがなくなると、外国の投資家の人たちは中国のどこで投資するのか…北京や上海には行きませんよ。もう1つ、大きく報道されてはいませんが、いまアメリカでは中国の企業が上場する場合、その基準が甘いので、透明性を高めて、より多くの情報を開示させようとしているのです。そうなると、実質的に中国の企業はニューヨーク等で資金調達ができなくなります。ということは、香港のような6割近い酸素を吸収する肺がなくなってしまい、北京や上海では皮膚呼吸しかできないわけだから、中国経済に全然酸素が足りなくなる。しかも、今度は外国に行って酸素を取り入れようとしても、それもできなくなってしまうのです。もちろん、アメリカも香港で多くの企業がビジネスをやって来た。特に金融業、ファンドもそうですが、それは今後、苦労することになると思います。しかし、トランプ政権には中国はけしからんと思っている人たちがいるので、そこはもう目を瞑らないというわけです。米中どちらも我慢比べになるのですが、中国も相当苦しいのではないかというのが、いまの私の仮説です。中国がどの程度厳しく国家安全法を施行するかにもよるだろうし、トランプ政権の対応次第では、状況はそこまで悪くはならないかも知れませんが、ここがせめぎ合いです。いままでは、モノの貿易の世界で喧嘩していたけれども、これからは金融の分野で喧嘩が始まるわけです。