【Tokyo cinema cloud X by 八雲ふみね　第869回】

『劇場』

シネマアナリストの八雲ふみねが、いま、観るべき映画を発信する「Tokyo cinema cloud X（トーキョー シネマ クラウド エックス）」。

今回は、7月17日から劇場公開、そしてAmazon Prime Videoにて配信がスタートした映画『劇場』をご紹介します。

『劇場』

芥川賞作家・又吉直樹による初めての恋愛小説を、行定勲監督が実写映画化

「火花」で芥川賞を受賞した又吉直樹の2作目にして、自身初の恋愛小説を映画化した『劇場』。

当初は4月17日から全国200館規模で公開される予定でしたが、新型コロナウイルスの影響で公開延期に。紆余曲折がありましたが、いよいよ満を持して、全国20館のミニシアターとAmazon Prime Videoでの同時上映がスタートしました。

『劇場』

『劇場』のあらすじ

友人たちと立ち上げた劇団「おろか」で、脚本家兼演出家を担う永田。しかし彼の生み出す前衛的な作風は上演ごとに酷評され、客足も伸びず、ついに劇団員からも見放されてしまう。

劇団は解散状態となり、その現実と演劇への理想の狭間で思い悩む永田は、言いようのない孤独を感じていた。

ある日、自分と同じスニーカーを履いている沙希を見かけた永田は、彼女に声をかける。沙希は女優になる夢を抱いて上京し、服飾の学校に通っている学生だった。

こうして2人の恋は始まった。自分の夢を重ね合わせるかのように永田を応援する沙希。そして永田もまた、自分を理解してくれる沙希を大切に思いながら、ますます演劇にのめり込んで行く……。

『劇場』

『劇場』のみどころ

主演を務めるのは、いまもっとも輝く俳優、山﨑賢人。近年、幅広い役どころに取り組んでいるのが印象的ですが、本作ではさらなる新境地を開拓。

ボサボサの髪に無精ヒゲという出で立ちで、自らの才能を信じて演劇の道を突き進む危うい男を好演しています。

そしてヒロインを務めるのは、若き実力派女優、松岡茉優。恋愛における幸せと背中合わせのどうしようもない葛藤や矛盾を体現し、ヒリヒリとした痛みの伴った恋愛映画が誕生しました。

『劇場』

本作に登場するのは、演劇で這い上がってやろうという若者たち。その姿は、夢を追い続けることの過酷さを浮き彫りにし、自分の才能と向き合うことがいかに熾烈かを物語っています。

そして彼らが抱えるやり場のない想いは、コロナ禍で活動を制約されているエンターテインメント業界が抱える苦しみのようにも感じずにはいられません。

映画とは、“時代”を映し出す文化。このタイミングで映画館とデジタル配信で同時上映という日本初のスタイルで公開された本作は、間違いなく日本映画界に一石を投じる作品となることでしょう。

映画館で観るもよし。自宅で楽しむもよし。本作には、映画館という“劇場”の持つ魔力と魅力が潜んでいます。

『劇場』

＜作品情報＞

『劇場』

2020年7月17日（金）から公開／配信
監督：行定勲
原作：又吉直樹「劇場」（新潮文庫）
脚本：蓬莱竜太
音楽：曽我部恵一
出演：山﨑賢人、松岡茉優、寛一郎、伊藤沙莉、上川周作、大友律、井口理（King Gnu）、三浦誠己、浅香航大
(C)2020「劇場」製作委員会
英題：Theatre
公式サイト　https://gekijyo-movie.com/