巨人・松原殊勲の “ライトゴロ” 年間3度達成した選手は?
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話題のアスリートの隠された物語を探る「スポーツアナザーストーリー」。本日は、8月27日のヤクルト戦で外野守備の際、珍しい“ライトゴロ”を成立させた巨人・松原聖弥選手のプレーと、過去の達成者にまつわるエピソードを取り上げる。
「(ライトゴロは)想定していました。強い打球が来たので、落ち着いてイメージ通りのプレーができました」(松原)
8月27日、神宮球場で行われたヤクルト-巨人戦。4回、2-0と巨人が2点リードした場面で、ヤクルトは2死三塁のチャンスを迎えました。しかし、打者は投手の高梨なので無得点かと思いきや、高梨は巨人・戸郷の149キロ真っ直ぐをライト前へ。
誰もがタイムリーヒットと思いましたが、ライトを守っていた松原は打球を捕球すると、すばやく一塁へレーザービーム送球。高梨がベースを踏む寸前で、ボールは一塁手・中島のミットに収まり、珍しい“ライトゴロ”が成立しました。もしセーフなら1点入っており、2-1なら試合はどう転んでいたかわかりません。
この好プレーの直後、巨人は5回に岡本の二塁打、丸の2ランで3点を追加し、5-2でヤクルトに3連勝。貯金を「13」に戻し、戸郷は7勝目を挙げました。原監督は松原のプレーについて「ビッグプレーだね。満塁ホームランに値するぐらいのワンプレー。流れというものが、逆にこっちに来たと言うんでしょうかね」と絶賛。指揮官がそう言うだけのことはある、非常に価値あるプレーでした。
このライトゴロについて、試合後、後藤野手総合コーチが興味深い話をしています。「松原が事前に、一塁・中島に対して『ライトゴロ行きますよ』と伝えていた。準備ができていた松原のファインプレーです」。……そう、このライトゴロは「たまたま」ではなく、松原ははじめから「狙っていた」のです。
強肩の外野手にとって、ライトゴロは「ぜひやってみたいプレー」の1つです。本来ヒットである打球を、自分の肩でアウトにする爽快感。捕球してすぐ送球体勢に入り、かつ一塁に矢のようなストライク送球をして、ギリギリ間に合うか? というタイミングなので、一塁手の協力も欠かせません。
今回、中島は松原から「ライトゴロ行きますよ」と聞かされていたので、しっかりベースにつき、捕球体勢を整えていました。まさに「してやったり」です。18日の阪神戦から、9試合連続でスタメンに抜擢されている松原。レギュラー獲りに向けて、大きなアピールになりました。
ところで、過去のライトゴロの事例を調べてみると、今回の高梨もそうですが、「打者が投手」のケースがけっこう多いのです。たとえば、昨年(2019年)4月21日の阪神-巨人戦。阪神・西勇輝は、今年(2020年)の開幕戦で巨人・菅野からホームランを打ったように、打撃も得意なピッチャーです。
3回1死ランナーなしの場面で打席に立った西は、ファウルで粘った後、フルカウントからの8球目を叩いてライト前へ。ところが、ライト・亀井は西がヒットを打ったときのことを想定して、あらかじめ前方で守っていました。
西は全力疾走したにもかかわらず、亀井の送球のほうが早く、間一髪アウト。阪神・矢野監督がリクエストを要求しましたが、判定は覆らず、みごとライトゴロが成立しました。「亀井コール」が沸き起こったライトスタンド。亀井にとっては、まさに外野手冥利に尽きる瞬間でした。これも「準備していた」ケースです。
また、これはちょっと気の毒なケースですが、現在DeNAで先発投手として活躍する平良拳太郎も、巨人時代にライトゴロを食らっています。2016年4月7日の巨人-阪神戦、この試合は平良の一軍デビュー戦で、しかも「プロ初登板・初先発」という記念すべきゲームでした。
3回、平良に「プロ初打席」が回って来ます。平良は、阪神・メッセンジャーの投じた146キロをとらえ、ライト前へ。投手がプロ初打席初ヒットの快挙!……かと思いきや、相手が悪かった。前進守備を敷いていたライト・福留は、猛チャージで捕球すると、すかさず一塁へ送球。平良は一塁のはるか手前でアウトになってしまいました。
プロ初ヒットをフイにされた平良にとっては、まさに天国から地獄でしたが、これには巨人ベンチも大爆笑。これで気落ちしたのか、直後の4回、福留から先制ソロホームランを浴び、攻守で“往復ビンタ”を食らうと、さらに投手のメッセンジャーにも2点タイムリーを打たれKO。平良にとっては厳しい、プロの洗礼となりました。
調べてみるとこの他にも、打席に立ったとき、ライト前ヒットを「ライトゴロ」にされた投手がけっこういます。実は、ライトゴロを狙う外野手にとって、「打撃のいい投手」は絶好のターゲットなのです。頭を越すような長打がないため前進守備を敷ける上に、そういう投手は総じてボールを芯でとらえるのがうまく、打球が速くなる傾向があるからです。
この「打撃のいい投手」を狙って、1シーズンで何と3度も「ライトゴロ」を記録した選手がいます。2013年、当時巨人(現広島)の長野久義です。まずは5月15日、ロッテとの交流戦。2回、2死満塁の場面で、打者はロッテ先発・グライシンガー。ここでグライシンガーはライト前へ抜ける当たりを放ちますが、長野はホームではなく一塁へ送球しライトゴロに。
実は、当時の一塁手・ロペス(現DeNA)と「打者が投手のときは、即、一塁へ投げるかも知れないからよろしく」と事前に打ち合わせがしてあったのです。ロペスは打球の速さを見てすかさず一塁ベースに入り、この好判断もあってライトゴロが成立しました。
2度目は9月12日のDeNA戦で、主砲のブランコが“餌食”にされました。足が遅く打球が速い外国人選手も、絶好のカモになります。同点の3回、2死二塁のピンチに、本来なら勝ち越しタイムリーの当たりをライトゴロにした、長野-ロペスコンビのファインプレーでした。
3度目は10月2日、ヤクルト戦で3回1死から、松岡健一のライト前の打球を、これまた絶妙の連係プレーで一塁アウトに。やはりこのときも、打者は投手でした。
いまは2人ともチームを離れてしまいましたが、巨人時代は普段から仲がよく、息もぴったりだった長野とロペス。「ライトゴロ」は強肩だけに目が行きがちですが、一塁手と右翼手の阿吽の呼吸もあってこそ成立する「チームプレー」なのです。