与野党の体制一新、さて今後は?
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「報道部畑中デスクの独り言」(第207回)
ニッポン放送報道部畑中デスクのニュースコラム。今回は、9月に入り慌ただしく変化した国内の政治情勢について---
安倍総理辞任、菅内閣発足、そして野党は新党代表選と結党大会……9月に入ってから政治の“景色”が一変し、メディアも取材に追われました。慌ただしかった9月前半を振り返りながら、今後を展望して行きます。
2020年9月14日、東京都内のホテルで開かれた自民党総裁選挙。菅義偉氏377票、岸田文雄氏89票、石破茂氏68票で、菅氏が第26代の自民党総裁に決まりました。
主要7派閥のうち、5派閥が菅氏を支持したことでおおむね結果は予想通りでしたが、国会議員394票については菅氏288票、岸田氏79票、石破氏26票。地方票141票は菅氏89票、岸田氏10票、石破氏42票という結果でした。
岸田派は47人ですから、岸田派以外の30人前後が岸田氏に流れたことになります。地方票ではわずか10票だっただけに、岸田氏を2位にしたいという力学が働いたのは明白と言えます。
私は決定の瞬間を会場の別室で見ていましたが、菅氏はまず右手を、そして両手を控えめに挙げて拍手に応え、一瞬はにかむような笑みを見せました。一方で眼は「死んだ表情」をしていました。この「死んだ眼」というのは、表情を殺し、相手に手の内を悟らせないという、ある意味、政治家に必要な資質の1つともとれます。
40年以上の政治活動のなかで、菅氏が身に着けたものと私は考えます(掲載した写真では、できるだけ笑顔の菅氏を集めてみました)。菅氏はあいさつで「政治の空白は許されない。安倍総理の取り組みを継承し、進めて行かなければならない。私にはその使命がある」と演説し、安倍政権の継承を明確にしました。
ちなみに、先の自民党総裁選では、後方にいる議員でスマホを操作している人がいましたが、新型コロナウイルスの影響で間隔を空けたことから、壇上が見にくかったとみられます。総裁選のリアル動画を見ている人が目立ちました。この辺りにも、いつもとは違う政治の“景色”が広がっていました。
そして、9月16日午後、衆参両院で首班指名選挙が行われ、自民党の菅総裁が第99代の内閣総理大臣に指名されました。大変読みにくい表情を、私は「菅さん基準」と放送では申し上げましたが、菅総理はわずかに口角を上げてにこやかに、しかし両手はまっすぐ下に伸ばしたまま、礼を5回……重い責任を背負った覚悟を感じました。
その後の組閣ではご存知の通り、再任8人、横滑り3人、再入閣4人、初入閣が5人という布陣。菅総理は「国民のために働く内閣」と謳いました。
注目は河野太郎行政改革担当大臣と、平井卓也デジタル改革担当大臣。河野大臣は菅総理が指示した「縦割り110番」→「行政改革目安箱」を自身のホームページに設置しました。しかし、意見が殺到して目安箱が一時停止されることに。それだけ、行政への不満が内外問わず、マグマのように膨らんでいるということでしょうか。
一方、平井大臣は、以前IT担当大臣を歴任したこともあり、内閣も本腰を入れて来た感があります。連休中には早くも「デジタル庁」の設置に向けて、検討する会議を開くというスピーディぶりです。
かつては、名前は敢えて言いませんが、パソコンを使ったことのない、USBも知らないと公言していたサイバーセキュリティ担当大臣がいました。また「はんこ議連」の会長だったかつてのIT担当大臣は、副大臣以下が必死に支えて何とかもっていたと聞きます。そういう意味では隔世の感と言えるかも知れません。
「特別定額給付金」のオンライン申請の混乱は記憶に新しいですが、私たちの生活に直結する行政サービス・手続きの向上につながれば好ましいことです。
ただ、デジタル庁設置の本質は総務省、経済産業省、内閣官房などにまたがっているIT担当部署の統合、省庁をまたいだ縦割り組織の見直しにあります。当然、各省庁の反発が予想されるなかで、平井大臣1人ではなく、河野大臣、菅総理を含めた官邸全体でバックアップして行くことになるでしょう。また、ここで新たな利権が生まれないようにチェックすることも重要です。
一方、私は菅内閣を「現状維持、権力維持、したたか内閣」と名付けました。早期の解散総選挙の噂がくすぶるなか、「解散したらこの内閣はどうなるのだろう?」と考え、前回(2017年)の衆議院選挙の結果を調べてみました。
すると、参議院の2人を除く18人全員が各選挙区でトップ当選、しかも16人は次点に2倍以上、あるいは2倍近くの大差をつけて圧勝しています。比例復活、比例単独の議員は1人もいない……つまり、解散しても簡単には崩れない内閣、言い方を変えれば「いつでも解散できる」というメッセージにも取れます。
菅総理は総裁選での記者会見で、解散総選挙について「コロナの状況が大きく影響する」と答えました。また総理就任の会見では、「1年以内に解散総選挙がある。時間の制約も視野に入れながら考えて行きたい」と述べました。
コロナの状況は解釈次第だと思います。安倍前総理はコロナ対策パッケージを発表したときに、「新体制に移行するのであれば、このタイミングしかないと判断した」と話しています。これを1つの区切りと考えますと、早期の解散があるんじゃないの? という解釈も成り立つわけです。
総理就任翌日の9月17日朝、散歩の後に近くのホテルへ移動。会食した最初の人が、選挙プランナーの三浦博史氏だったことも、さまざまな憶測を呼んでいます。
内閣の仕事ぶりを見ると、早期の解散総選挙の風はやや収まったかに見えますが、発足直後の内閣支持率は軒並み60~70%前後と高水準にあります。先の内閣のスピーディぶりも、解散を前にした実績づくりという見方もあり、年内解散総選挙の可能性はまだ消えたわけではないと感じます。
野党が合流を急いだのも、そうした早期の解散総選挙の観測があったからに他なりません。「総選挙が近いから1日でももったいない」……立憲民主党の小沢一郎議員は、記者団にこのように述べ、合流新党の代表選さえ反対していました。
その合流新党は、立憲民主党として新たなスタートを切りました。9月15日の結党大会で合流した議員は、衆議院107人、参議院43人、きっかり150人となりました。
野党第1党が衆議院で100人を超えるのは、およそ8年ぶり。枝野幸男代表は大会のあいさつで「政権交代の発射台」と位置付けました。
結党大会は冒頭、旧立憲民主、旧国民民主をはじめとする2党・2グループの幹事長がそろい踏み、合流への象徴を演出しました。枝野代表のあいさつは当初15分ほどの予定が、30分近くに膨らみ、熱弁をふるいます。「いよいよ、ついに、ようやく、こうして新しいスタートを切ることができた」……1年近くの「産みの苦しみ」が実った心情が垣間見えました。
しかし、来賓としてあいさつした連合の神津里季生会長は、「今回、合流に至らなかった皆さんとも連携を強化し、けん引していただきたい」と、完全合流が実現しなかった無念をにじませていました。
新たな執行部ですが、幹事長には立憲民主党の幹事長だった福山哲郎氏。政調会長は国民民主党の政調会長を務め、代表選にも出馬した泉健太氏。そして平野博文氏が、代表代行と選挙対策委員長を兼ねます。国会対策委員長は、立憲民主党の安住淳氏が“続投”という形です。
代表選後の会見で、枝野代表は人事について「奇をてらったことはしない」と話していたので、想定内という感じがしました。人によっては、むしろ「いつか来た道」のような「先祖返り」がないだけ、まだ「まし」だと思うかも知れません。
準備不足が否めない野党ですが、1つ活路があるとすれば、私は消費税の扱いだと思います。菅総理は総裁選の間、消費税について「将来的には引き上げざるを得ない」とテレビ番組で述べましたが、その後、記者会見で「今後10年ぐらいは上げる必要がない」とトーンダウン。また、「消費税は社会保障のために必要なものだ」と、減税にはいまのところ否定的な考えを示しています。
一方、野党からは消費税減税について言及する声が出ています。立憲民主党の枝野代表はテレビ番組で、「消費税を選挙の道具に使ってはいけない」と、争点化に否定的な見方をしています。
法律改正が伴うため、実現は簡単ではありませんが、消費税減税に対する与野党の見解が分かれれば、当然、総選挙の大きな争点になる可能性が出て来ます。
かつての大平政権、竹下政権、細川政権、橋本政権、菅直人政権……消費税に対する発言のブレが、選挙の大敗や倒閣につながる可能性があることは、歴史が証明しています。いまは与野党「にらみ合い」の状況に見えますが、政権が一転「消費税減税」を目玉にするのか、野党が争点化に動き出すのか……解散総選挙の時期を含め、注目すべきポイントかと思います。(了)