月面探査に向けて……宇宙飛行士のさまざまな発言
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「報道部畑中デスクの独り言」(第220回)
ニッポン放送報道部畑中デスクのニュースコラム。今回は、相次ぐ宇宙に関するニュースから、それぞれの宇宙飛行士が語った発言について---
新型コロナウイルス感染下のなか、日本の宇宙開発分野がこのところ慌ただしく動いています。宇宙飛行士の発言も相次ぎました。
アメリカ・スペースXの新型宇宙船「クルードラゴン」で国際宇宙ステーションに向かった宇宙飛行士の野口聡一さんは、宇宙滞在から約1週間が経ち、日本時間の11月24日夜、JAXAの東京事務所を結んで記者会見に臨み、現在の心境などを語りました。
「宇宙に来るのは3回目、それぞれのミッション、違った趣がある。初心に返って、任務にまっさらな気持ちであたりたい」
今回も“新鮮な気持ち”で宇宙滞在に臨んでいるようです。「滞在して1週間、宇宙に慣れるには体も心ももう少し時間がかかる」という発言からも、それが読み取れました。
「地球が恋しくて毎日家に電話している。単身赴任でがんばっているお父さんと一緒で、家のことを思いながら任務にまい進するという感じ」という発言は笑いを誘いました。
また、食事については、ステーションで最初に食したのがカレーだったとのこと。打ち上げ前最後の食事はカツカレーでしたから、カレーが続いたことになります。「いろいろな宇宙食を順番に試して行くのが楽しみ」とも語っています。
10年ぶりの宇宙ステーションは、前回に比べて物が増えたと感じたそうです。ステーション内には今回、最多の7人が滞在しており、「ぶつからないようにすれ違うシーンが1日に何度も見られる」と、内部の活気を表現していました。マイク・ホプキンス船長がクルードラゴンの貨物室を個室にして使用していることも明かされました。
クルードラゴンの乗り心地についても言及しました。
「乗り心地はきびきびしているというか、ぐいぐい宇宙に行く感じがあった。いろいろな意味で若々しい乗り物だと思った」
一方、野口さんはドッキング直後に「訓練の間、打ち上がった後もさまざまな困難に直面した」と話していました。私はそのことを思い出し、「打ち上がった後の困難」とはどんなものだったのかを尋ねました。
「訓練ではカバーしきれないさまざまな事象があった。細かいことは今後、NASAとスペースXの間で詰めて行くと思う。ドッキングもまだほんの始まりの一部なので、これから起こって来る新しい事象に立ち向かって行くことになるだろう」
野口さんの表情が一瞬硬くなったように感じました。発言からは運用1号機ならではの“想定外”があったことがうかがえます。詳細は明らかになりませんでしたが、それが“致命傷”にはならず、無事に宇宙ステーションに到着することができて、本当によかったと思います。
到着するだけでも大変な技術だと思いますが、今後、さらに改良が加えられて行くことになるのでしょう。
野口さんはおよそ半年間の宇宙滞在で、さまざまな実験を行います。以前小欄でもお伝えしたiPS細胞を使った実験の他、宇宙での火災を想定した燃焼実験などが予定されています。これは将来の月面探査も視野に入れたものとされています。
一方、11月20日には日本人宇宙飛行士に関する情報が明らかになりました。若田光一さんが2022年ごろ、古川聡さんが2023年ごろに、それぞれ宇宙に長期滞在することが発表されたのです。若田さん、古川さんはその日、オンラインによる記者会見を行いました。
現在、若田さんは57歳、古川さんは56歳、現在宇宙に滞在している野口さんは55歳で、実現すると日本最高齢の宇宙滞在を大幅に更新することになります。
会見で若田さんは、「ベテランの宇宙飛行士として臨む。これまで習得した経験を生かして、最大の成果を挙げることに尽力して行くのが私たちに課せられた使命」と語りました。
また、古川さんの宇宙滞在は約9年ぶり。野球部出身ということで、「ベンチ裏でバットの素振りを約9年間続けて来た。再び将来の試合が見えて来て、背番号をもらえて素振りにますます熱が入っている。心は30代のつもりで挑戦したい」と意気込みを語っています。
ちなみにJAXA職員の定年は60歳ですが、宇宙飛行士の定年はありません。仮に滞在計画が遅れて両者が60歳に達したとしても、招聘職員として「安心して飛行していただける」(JAXA担当者)とのことです。
また、日本は2024年に人類が月を目指すアメリカ主導の「アルテミス計画」への協力を決めています。若田さん、古川さんからは明確に将来の月面探査を視野に入れた発言もありました。
「月探査においても、日本が重要な役割を担うことが世界各国からも期待されるという状況に至っている。日本のプレゼンスをさらに高め、月面探査へシームレスにつなげて行くことが、私に課された重要な任務と認識している」(若田さん)
「宇宙に滞在していると、無重力による骨格筋萎縮、閉鎖環境による体内リズムの不調……、さまざまなリスクがあることがわかっている。それらは人類が再び月を目指し、さらにその先の火星を目指すときに解決すべき課題である」(古川さん)
日本側は2020年代後半、アメリカ人以外で最初に月面に降りたいと考えています。前述の宇宙火災を想定した燃焼実験や、先日発表された新たな宇宙飛行士募集もその路線に沿ったもの。
宇宙開発の軸足が地球低軌道から月・火星へと移る端境期のいま任務を全うすることで、日本人の月面探査につなげたいという強いアピールを感じます。
10月23日、新しい宇宙飛行士募集の発表で若田さんは、「私は地球低軌道の宇宙飛行士としてミッションを遂行したいと思っている。先輩が築かれたものを私たちがつないで、次の世代につなげて行くことが重要だと思う」と話していました。
思えば、この時点で若田さんの長期滞在は決まっていたのかな……そんな“邪推”をしています。
最後に、宇宙滞在から次の宇宙滞在までの間の過ごし方について語った、若田さんの発言をご紹介します。私が最も印象に残ったことでした。
「自分が何をすべきかを考え、目標をしっかりもって時間を過ごすことは、それが単純に見えるような期間であったとしても、振り返ってみれば進歩の期間になると思う」
50代の方々が活躍している姿は、同世代の私にとって大変勇気づけられるものでもあります。新型コロナウイルス感染拡大のなかで、なかなか難しいとは思いますが、誰もが若田さんのような気持ちをもって時を過ごすことは大切だと思います。
そして、自分にはそれができているだろうか……思わず自問自答してしまいました。(了)