【Tokyo cinema cloud X by 八雲ふみね 第947回】
シネマアナリストの八雲ふみねが、いま、観るべき映画を発信する「Tokyo cinema cloud X(トーキョー シネマ クラウド エックス)」。
今回は、Netflixで独占配信中のオリジナル映画『Mank/マンク』をご紹介します。
名作映画『市民ケーン』が生まれるまでの壮絶な舞台裏とは……
『ゴーン・ガール』以来6年ぶりとなる、巨匠デヴィッド・フィンチャー監督の新作『Mank/マンク』。
タイトルにもなっている“マンク”とは、オーソン・ウェルズ監督・製作・主演の『市民ケーン』で共同脚本を担当し、アカデミー賞脚本賞を受賞した脚本家、ハーマン・J・マンキウィッツの愛称。
『市民ケーン』が生まれるまでの壮絶な舞台裏と、ハリウッド黄金期の実相に迫るヒューマンドラマが誕生しました。
『Mank/マンク』のあらすじ
1930年代のハリウッド。歯に衣着せぬ発言も多いが、脚本家としての才能はハリウッド随一の男、ハーマン・J・マンキウィッツ。
彼はいま、アルコール依存症に苦しみながら、新作「市民ケーン」の脚本の仕上げに追われていた。社会を鋭く斬り続ける機知と風刺に富んだ彼の視点から、ハリウッドの光と闇が浮き彫りになって来る……。
『Mank/マンク』のみどころ
脚本家“マンク”役は、高い人気と知名度を誇る名優ゲイリー・オールドマン。皮肉屋だけれど憎めないマンクの人間性を魅力的に体現し、その圧倒的な演技力で観客を魅了します。
また新聞王ハーストの愛人で女優のマリオン・デイヴィス役に、アマンダ・セイフライド。マンクの口述筆記を担当するリタ・アレクサンダー役には、リリー・コリンズ。日本でも大人気の女優たちが顔を揃えています。
『市民ケーン』の主人公のモチーフとしても知られている“新聞王”ウィリアム・ランドルフ・ハーストを、チャールズ・ダンスが演じているのも見逃せません。
本作の元となる脚本は、デヴィッド・フィンチャー監督の父であるジャック・フィンチャーが生前に書き上げていたものを使用。以前から本作の映画化を望んでいた父の遺志を受け継ぎ、息子であるデヴィッド・フィンチャー監督が見事に映像化しました。
1930年代に製作された映画を思い起こさせる、モノクロームの映像とレトロなサウンドが印象的な本作。
主人公のケーンがウィリアム・ランドルフ・ハーストをモデルにしていたことから、ハーストによる上映妨害運動が展開され、第14回アカデミー賞では作品賞など9部門にノミネートされながらも、脚本賞のみの受賞にとどまった『市民ケーン』。
しかしパン・フォーカスや長回し、ローアングルなどの多彩な映像表現により、その評価は年々高まり、現在では映画史に燦然と輝く大傑作として知られています。
そんな『市民ケーン』へのオマージュを散りばめながら、『市民ケーン』とリンクさせて行く演出の巧みさには唸らされるばかり。そして、現代のアメリカ社会への風刺とも取れる展開は、実にシニカルで興味をそそられるものとなっています。
フィンチャーファンならずとも、必見の1作です。
<作品情報>
■Netflix映画『Mank/マンク』
Netflixにて独占配信中
監督:デヴィッド・フィンチャー
脚本:ジャック・フィンチャー
出演:ゲイリー・オールドマン、アマンダ・セイフライド、チャールズ・ダンス、リリー・コリンズ、アーリス・ハワード、トム・ペルフリー、サム・トラウトン、フェルディナンド・キングズレー、タペンス・ミドルトン、トム・バーク、ジョセフ・クロス、ジェイミー・マクシェーン、トビー・レナード・ムーア、モニカ・ゴスマン
原題:Mank
公式サイト https://www.netflix.com/jp/title/81117189
連載情報
Tokyo cinema cloud X
シネマアナリストの八雲ふみねが、いま、観るべき映画を発信。
著者:八雲ふみね
映画コメンテーター・DJ・エッセイストとして、TV・ラジオ・雑誌など各種メディアで活躍中。機転の利いた分かりやすいトークで、アーティスト、俳優、タレントまでジャンルを問わず相手の魅力を最大限に引き出す話術が好評で、絶大な信頼を得ている。初日舞台挨拶・完成披露試写会・来日プレミア・トークショーなどの映画関連イベントの他にも、企業系イベントにて司会を務めることも多数。トークと執筆の両方をこなせる映画コメンテーター・パーソナリティ。
八雲ふみね 公式サイト http://yakumox.com/