ニッポン放送「飯田浩司のOK! Cozy up!」(1月7日放送)に慶応義塾大学教授・国際政治学者の細谷雄一が出演。アメリカ政治専門の政治学者・慶應義塾大学教授の岡山裕を電話ゲストに招き、米大統領選でバイデン前副大統領の当選を確定させる上下両院合同会議が行われていた連邦議事堂に、トランプ大統領を支持するデモ隊が侵入したニュースについて解説した。
米大統領選挙、連邦議会にデモ隊が侵入~バイデン大統領当選の審議が中断
現地1月6日(日本時間7日)、アメリカの連邦議会では上下両院の合同会議が開かれ、バイデン次期大統領の当選が確定する見通しだったが、その手続きが行われていた連邦議会議事堂内に、抗議するトランプ大統領の支持者とみられる人たちが侵入し占拠した。アメリカのメディアは白人女性が撃たれたと伝えている。議会は手続きを中断しており、アメリカ史上異例の混乱となっている。またバイデン次期大統領は6日、東部デラウェア州で演説し、「アメリカの民主主義が前例のない攻撃を受けている」と批判している。
飯田)ジョージア州の選挙は2議席が争われていましたが、2つとも民主党になったということで、上院と下院、それから大統領と、3つをすべて民主党が獲ることになったという速報も入っています。この現状について、アメリカから現地の様子を伺ってまいります。アメリカ政治ご専門の政治学者、慶應義塾大学教授の岡山裕さんと電話がつながっています。岡山さん、おはようございます。
岡山)おはようございます、よろしくお願いします。
飯田)いま、どのような状況になっていますか?
きっかけはトランプ大統領の演説~その後ツイッターで「法と秩序が大事だから家に帰ろう」
岡山)きょう(現地時間6日)の正午過ぎから、トランプ大統領がホワイトハウスの前で演説を行いました。そのときに「自分は選挙に勝ったのだ。みんなで連邦議会議事堂まで行進しよう」と焚きつけたのがどうも始まりで、デモ隊は議事堂のなか、さらには議員のオフィスにまで侵入しているということです。銃や催涙ガスまで使われていて、ワシントン市長の要請で軍隊も投入されている模様です。
飯田)そうですか。
岡山)いまお話があったように、バイデンさんは緊急に演説をしたのですけれども、その後、トランプさんがツイッターを経由して動画を流して、それまでは「警察に協力しよう」としか言っていなかったのが、デモ隊に呼び掛ける形で「これは間違った選挙だ」、「自分は、本当は勝ったのだけれど、君たちの気持ちはよくわかるけれども、平和が大事だ。法と秩序が大事だから家に帰ろう」という少し間抜けなメッセージを出しています。ニュース映像などを見ていると、いまは外側は落ち着いているようです。
飯田)バイデンさんは、「トランプさんも、デモ隊の前に立ってなだめに行った方がいいのではないか」という発言をしたというようなことが言われていますけれど、実際にそんなことはあったのですか?
岡山)「自分も議事堂まで行くかも知れない」とトランプさんは言っていたのですが、まったくそうではなくて、バイデンさんは「せめてテレビ演説をしろ」と言っていたのですけれど、結局ツイッターで動画を流すという形に留まりました。
飯田)一方でジョージア州の補選は2つとも民主党が取ったことも報じられていますが、その辺りも刺激した部分はあったのですか?
岡山)結果の確定自体は暴動が起きたあとなので、直接のきっかけではありません。
飯田)むしろ、トランプさんが出て来て演説したというのはかなり大きなファクターになったわけですか?
岡山)計画性があったかどうかというのは、まだわかりませんが、経過から見てそのように見えますね。
飯田)スタジオには細谷雄一さんもいらっしゃいます。
細谷)アメリカ政治は動いて来て、いままでになかったような事態になっています。目の前で起きていることを1歩引いて、「これはどういう意味があるのか」ということを考えながら見ないと、次々と新しいことが起きていて、理解することが難しいかも知れません。
二大政党の分極化という事態~さらにトランプ大統領が対立を煽った
飯田)岡山さん、「分断」と言われますが、歴史的な経緯等を見て、これは新しい事態なのですか? それとも、例えば南北戦争のときと似た部分があったりするのでしょうか?
岡山)ここ半世紀ぐらい続いている「二大政党の分極化」という事態ですね。二大政党の間で、イデオロギー的な違いがもともとはあまりなかったのが、ここ半世紀ではっきりして来たということが1つのきっかけだと思います。
飯田)日本から見ると、「共和党は白人の政党なのか」というようにも見えますけれど、それほど単純なものではないわけですか?
岡山)共和党がかなり白人の政党になっているというのは間違いありませんが、政治的な分裂や社会的な亀裂というのは、どこの国でも多かれ少なかれあります。けれども、「あの人とは経済については意見が合わないけれど、人種については合う」というように、どこかでわかり合える、共感できる部分があると思うのですが、今世紀に入ってからのアメリカ政治の特徴は党派対立と、イデオロギー的対立……例えば人種の間の分裂がきれいに対応して来てしまっている。ですので、対立している相手と共感する余地も妥協する必要もない。互いに、ただの敵に見えるようになってしまっているのです。そこへ、さらにトランプさんが対立を煽りに煽ったというのが、いまの状況なのだろうと考えています。
トランプ支持者には逆効果になっているバイデン氏の発言
飯田)そこで今回はバイデンさんの演説があったわけですが、これが癒す方向に行けるのかどうか。バイデンさんが優等生的なことを言っても、トランプさんの信者たちは「何を言っているのだ」などと思うような気もするのですが、その辺りはどうですか?
岡山)そこは重要なポイントです。バイデンさんは、これまで選挙戦でも「多様性が大事だ」と、「お互いに寛容であるべきだ」と、いろいろな価値観を認めるべきだと言っています。それに対してトランプさんを支持するような人たちは、「そんなことを言っても自分たちの旧来の伝統的な価値観は、どんどん相対的に比率が下がっているではないか」と捉えてしまうところがあって、逆効果になっている面もあるのではないでしょうか。
政治的な混乱状態にまで進む可能性も
飯田)そうすると、この先も前途は多難ですか?
岡山)正直言うと、あまり明るい展望は見えない感じがします。二大政党とそれぞれの支持勢力が、いまお話ししたように分極化して互いに睨み合っているわけです。
飯田)はい。
岡山)もう1つの特徴は、いまこの2つの勢力が全国で拮抗しているのです。そのためにいろいろな立法も進まない。日本風に言うなら「決められない政治」が10年以上続いていると言えます。これをどうにか乗り越えようとして、両方の党から互いを叩くということになっていて、共和党側では、例えば有権者の投票を難しくするなど、民主主義の手続きを崩すのではないかという動きまでしています。これだけでも十分深刻な感じはするのですが、その上に今回のような暴力沙汰まで発生したとなると、ただの政治的な膠着状態ではなく、混乱状態にまで進んでしまわないかという心配があります。
南北戦争以来、最もアメリカが分裂して対立が深まっている
飯田)岡山裕さんと電話をおつなぎしました。細谷さん、この状態のアメリカと我々は付き合って行かなければいけないということです。
細谷)これは第2次南北戦争という言葉を使う人もいて、おそらく南北戦争以来、最もアメリカが分裂して対立が深まっていると。お互いにまったく対話が不可能になっている状態ですから、答えがないという状態が実情なのではないですかね。
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