金正恩氏が肩書を「総書記」にした理由
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ニッポン放送「飯田浩司のOK! Cozy up!」(1月19日放送)にジャーナリストの有本香が出演。北朝鮮の現状について、国連安全保障理事会・北朝鮮制裁委員会・専門家パネル元委員の古川勝久を電話ゲストに招いて解説した。
北朝鮮最高人民会議開催
北朝鮮の国営メディアは1月17日、最高人民会議が開かれ、閣僚人事や新たな経済5ヵ年計画などの関連法案を採択したと報じた。金正恩総書記は出席しなかったとみられている。
飯田)ここへ来て北朝鮮が軍事パレードや党大会を行い、動いております。この北朝鮮の動きについて、国連安全保障理事会・北朝鮮制裁委員会・専門家パネル元委員の古川勝久さんと電話をつないで詳しく伺います。おはようございます。
古川勝久)おはようございます。
飯田)北朝鮮がこのところ動いているように見えるのですが、古川さんはどうご覧になりますか?
核兵器の進展を止めない姿勢を提示~~バイデン新政権は北朝鮮とどう向き合うのか
古川)この前の党大会では、経済政策がもっぱら議論されてはいたのですが、今回は核ミサイル分野でも、核兵器を小型化、軽量化、また多弾頭化するなど、大胆で野心的な計画が提示されています。そして、「これを俺たちはできるんだぞ」ということを軍事パレードで示しているようでした。そういう意味では、今後も北朝鮮が核兵器の進展を止めない姿勢を見せたわけです。日本にとっては非常に懸念すべきことだと思います。
飯田)トランプ政権との間では、一定のパイプがありましたが、これがバイデン氏に代わると北朝鮮はどう反応しますか?
古川)トランプ政権のときの米朝間のパイプというのは、当時の金委員長とトランプ大統領の1対1のやり取りでした。これはどこにも行きようのない、あまり意味のないパイプだったわけです。今度、バイデン政権が誕生するにあたって、まず、バイデン政権は北朝鮮と向き合えるようにならなければなりません。いまアメリカ国内が大変な状態です。共和党と民主党の支持者の間の対立が激しい。さらに就任したら2月5日には、まずロシアとの新戦略兵器削減条約が失効されますが、この失効を遅らせるべく交渉しなければならない。また、イランの核問題もあります。こういう問題をクリアしながらも、きちんと北朝鮮と向き合う、これが重要であると思います。1度向き合い始めたら、しっかりした北朝鮮との交渉になり得る、そういう人材が揃っている政権になると思います。
オバマ政権時との違いは北朝鮮の核ミサイル能力が圧倒的に向上していること
有本)アメリカの次の政権は、まず北朝鮮と向き合うことだとおっしゃいましたが、向き合いさえすればいい成果が出ると。しかし、顔ぶれを見ると、オバマ政権のときに戻って行くのではないかという懸念もあります。実際、トランプさんのときは成果も望めなかったし、トップ同士のパイプであったということで、逆に厳しい面もあったのかも知れませんが、次のアメリカの政権が制裁を緩めずに、北朝鮮から何かを引き出すことは可能なのでしょうか?
古川)北朝鮮と話し合いさえすれば、いい成果が出るというような容易な交渉にはなり得ないと思います。非常に難しい国を相手にした交渉です。オバマ政権のときといまのバイデン政権の決定的な違いは、北朝鮮の核ミサイル能力が圧倒的に向上しているということです。北朝鮮はいまアメリカ本土を狙える核の広域能力を持っています。これは明確にバイデン政権にとっても脅威であることは間違いありません。問題は、これをどう抑え込むかということです。いま中国とロシアは北朝鮮に対する制裁を緩めています。いまはコロナ政策で中朝国境を封鎖していて、経済が酷くなっていますが、この国境が少し緩めば、核ミサイルの関連物資の密輸が活性化します。中国はそれを止めません。そんななかで、どのように制裁を強化して行くか。その過程で、まず北朝鮮側とパイプをつくる必要があります。バイデン政権側も政府高官が任命されて着任しなければなりません。まだ、これからしばらくは交渉を始めるための下準備に取り掛かる可能性が高いです。
有本)そうですね。人事の着任にも、少し時間がかかるかも知れません。
古川)トランプ大統領が敗北を認めなかったということで、本来であれば、すでに閣僚人事の指名された人物の議会における公聴会などが終わっていなければいけないのが、すべてずれ込んでいるわけです。この出だしの失敗が後々どれくらい尾を引くか、非常に懸念される点です。
コロナ対策が北朝鮮の外交政策に影響
飯田)北朝鮮としては、このタイムラグを最大限に利用してプレッシャーを強めるということですか?
古川)アメリカの中央情報局(CIA)の分析によりますと、北朝鮮は30年ほど対米交渉を行って来て、アメリカ大統領が4年ごとに代わってしまうので、前の大統領と約束した内容が次の大統領に反故にされてしまうかも知れない。だから「新しい政権が誕生したら、できる限り早く交渉を始めるべきだ」という教訓を学んだということです。北朝鮮は、まだコロナ対策が非常に厳しい状態ですので、コロナの蔓延防止に一定のめどがつけられるかどうか、「緩めても大丈夫だ」という確信を金総書記自身が持てるかどうか、ここが大きな試金石になると思います。このコロナ対策が、北朝鮮の外交政策にも大きな影響をもたらすのではないかと観察しています。
肩書を「総書記」にした理由
飯田)権力構造についてですが、今回「総書記」という父親の金正日氏が持っていた肩書を世襲するかたちになりました。これに関して、権力構造が確立したから名乗るようになったという説と、親の威光を使わないと抑えられないという説がありますが、どうご覧になっていますか?
古川)いずれも正しいような気がしています。金総書記自身、今回の党大会の演説のなかでも、現在の北朝鮮を取り巻く状況は、建国以来最も厳しいという見通しを示しています。明らかにこのコロナ対策、あるいは昨年(2020年)の自然災害による度重なる打撃、それから国連制裁の打撃が相当なものなのだと思います。また、父親及び祖父の金日成氏も使っていた肩書ですが、まさに彼らの権威を借りてでも自分のリーダーシップを確立する必要がある。もちろん、彼は北朝鮮における唯一絶対の指導者でありますので、リーダーシップそのものは強いため、総書記という肩書を使ったからといって、彼のリーダーシップが一斉に変わるというものではないと思います。彼はいろいろな派閥を競わせながら、北朝鮮国内を管理する体制を取っていますので、求心力を高めるという上で借りることができるものは、父や祖父の威厳でも何でも借りるというような立場であることは間違いないと思います。
北朝鮮に対して日本がすべきこと
飯田)最後に、そんな情勢のなかで日本としてやれることは何でしょうか?
古川)北朝鮮のミサイルが進歩を遂げているなかで、日本のミサイル防衛システム、または敵基地攻撃能力をどうするかという議論がありますね。整備するのに最低でも10年ほどかかりますので、日本はできるだけ早く方針を決める必要があります。加えて、対北朝鮮対策として日本がまずすべきは、バイデン政権へのアプローチをしっかりと固めるということ。バイデン政権が他の地域に気を取られ過ぎないように、しっかりアジアに向いてもらう。その上で日朝間の交渉のチャレンジを確立する。このプロセスが必要になると思います。
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