賃上げの“モメンタム”は? コロナ禍のなか、春闘スタート

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「報道部畑中デスクの独り言」(第231回)

ニッポン放送報道部畑中デスクのニュースコラム。今回は、コロナ禍で始まった春の労使交渉・春闘について---

画像を見る(全4枚) 連合との会談にオンラインで出席し、あいさつする経団連の中西宏明会長(中央)。上は連合の神津里季生会長=2021年1月27日午前、東京・大手町の経団連会館 写真提供:共同通信社

新型コロナウイルス感染拡大で緊急事態宣言が発令されているなか、1月26日に経団連労使フォーラム(以下 フォーラム)、27日に経団連と連合の懇談会(以下 懇談会)が相次いで開かれ、春闘=春の労使交渉が始まりました。

経済界と言えば、年始の賀詞交換会が中止になりましたが、これらは働く人の生活に関わる重要な会合。感染防止策を施し、さまざまな形で開催にこぎつけました。

フォーラムは経団連の会員企業……大企業と、各産業も含めた労働組合の代表同士が一堂に会する会合。しかし、オンラインによる開催で会場は閑散としたものに。コロナの影響に加え、経団連の中西宏明会長が病気療養中のため、あいさつ文を事務方が読み上げました。

一方、翌日開かれた懇談会は、中西会長本人がオンラインで参加する形となりました。

労使フォーラムはオンラインで開催された(中央は経団連・久保田政一事務総長 中西会長のあいさつを代読 1月26日撮影)

焦点の賃上げについて、経団連の中西会長は懇談会で「日本の賃金水準がOECD=経済協力開発機構のなかでも下位になっていて、政府に賃上げを要求される前から危機感を持っている」という認識を示しました。

そして連合の神津里季生会長は2014年の春闘以降、賃上げの流れが続いていることを指摘した上で、「デフレ脱却、経済好循環に向けた取り組みは緒に就いたばかり。賃上げのモメンタム維持をもっと社会全体で共有することが不可欠だ」と述べました。

賃上げのモメンタムという意味では、両者が向かっている方向はそれほど違っていないように見えます(ちなみに「モメンタム」とは「勢い」「流れ」「方向性」などと訳されます。経済界ではこのようなカタカナ言葉がよく出て来て、初めて聞いたときは「新しい塗り薬か」と思いました。閑話休題)。

しかし、細かいところでは両者に温度差がみられます。それはあたかも双方が賃上げという山の頂上に向かうも、その“登山口”が違うかのようです。

連合は「2%程度のベア=ベースアップ」を目標とし、定期昇給分を含め、あわせて4%程度を要求。一方、飲食や宿泊、航空など業績の厳しい業種があることに配慮し、「それぞれの産業における最大限の“底上げ”に取り組む」という表現を盛り込んでいます。

連合の神津会長はフォーラムでの講演で、「日本が危機的状況にあったときにコロナが襲って来た」と現状を分析した上で、「コロナの危機にあって(賃上げの)モメンタム(勢い)をどう維持するのかが最大のテーマ」と述べ、2%程度のベアについては、「経済好循環の流れを何とか維持しようというのが、2%に込められた思い」と強調しました。

懇談会終了後のぶら下がりはメディアと距離をとって実施(経団連・古賀審議員会議長 1月27日撮影)

これに対し、経団連は労働運動としては認めつつも、経営環境が悪化するなかで「一律の賃上げは難しい」と難色を示します。その上で経営側の指針を示す報告書では、収益が増えている企業に対しては、定期昇給やベアも選択肢とする一方、業績が悪化している企業に対しては事業の継続と雇用の維持を念頭に、ベアなどは「困難」としています。

このように企業の業績を考慮し、指針を区別して記すのは初めてということです。業績が「まだら模様」のなかでの交渉は厳しく、かつ複雑になることが予想されます。これまでの「横並び」の賃上げ交渉はますます難しくなりそうです。

まだら模様と申し上げましたが、確かに賃金交渉はコロナの影響で全般に「厳しい」……働く立場でこのような認識を持っている人は多いと思います。ただし、業種のなかにはテレワークの促進などで「特需」が起きているところもあるでしょう。

各社によってまちまちですが、例えば、JEITA=電子情報技術産業協会によると、昨年(2020年)のノートパソコンの国内出荷台数は894万5000台と、前の年より25%以上も増え、過去最高を記録しました。金融緩和でお金がだぶついていると言われていますが、そのお金を持て余しているところもあるでしょう。

業績好調なところに関しては働く人に報いるべきで、「コロナだからしょうがない」という空気が醸成されるのは好ましいこととは言えません。

連合の神津会長は懇談会で「賃上げをできるはずの企業が消極的になるなら、合成の誤謬(個々のレベルでは正しい対応をしても、全体で見ると悪い結果をもたらすこと)に陥り、不毛の数十年を余儀なくされる」と危機感をあらわにしていました。

懇談会終了後の連合・神津里季生会長(1月27日撮影)

この他、経団連と連合の懇談会では出席者からさまざまな意見がありました。経団連からは、コロナ終息後の産業構造の変化に備えた準備を訴える声がありました。

「コロナの悪い雰囲気のなかでも払えるところはしっかり払え。そういうことを忘れるなよ、というのが経団連のメッセージ」

「在宅勤務普及のなかで、時間の概念にとらわれない枠組みの構成を」

「成長産業への労働移動も大事だが、安心して転職できる環境が必要ではないか」

「労働者の教育が大事。社会変容に合った人材育成を」

一方、連合からはコロナ禍で、足元で起きている現状を訴える声が目立ちました。

「(女性に多い)対面型サービスにはコロナの影響が出ている。正当な職務評価に基づいて賃金が支払われるべき」

「交通観光産業は厳しい。物流は“巣ごもり需要”で好調だが、(配達員がアルコールを)噴霧されるという嫌がらせもある。適正な運賃、労働環境の改善を」

「エッセンシャルワーカーを大事にする社会に。処遇の改善を」

「派遣労働者の雇用維持を、雇用の“調整弁”的な発想はやめて欲しい」

賃上げに限らないさまざまな意見は、日本という国の姿を多面的に映し出しています。春闘は来月(2月)中旬ごろに大手企業の組合が経営側に要求書を提出し、3月中旬ごろの集中回答日でヤマ場を迎えます。(了)


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