休業支援金の拡充~その後の菅総理のビジョンが見えない“不安”
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ニッポン放送「飯田浩司のOK! Cozy up!」(2月5日放送)に元内閣官房副長官で慶應義塾大学教授の松井孝治が出演。大企業の非正規労働者を休業支援金の対象とする方針を菅総理が表明したニュースについて解説した。
休業支援金、大企業の非正規労働者も対象へ
衆議院予算委員会は2月4日、2021年度予算案に関する基本的質疑を行い、実質審議に入った。菅総理大臣は新型コロナウイルスの感染拡大に伴う休業支援金について、大企業で働く非正規労働者を対象にする方針を表明している。休業支援金は感染拡大を受けた雇用対策の一環で、現在は中小企業の従業員向けに支給されているが、総理は「厚生労働省に検討させている。早急に具体的な対応策をとりまとめたい」と述べた。
飯田)雇用調整助成金というものがありますが、これは企業が申請するもので、休業支援金の方は企業が申請しない場合などの救済措置として、個人としても申請できるシステムであるということです。町場への影響は相当厳しいものがありますからね。
松井)厳しいですね。先日も近所の食堂に行きましたが、私を含めてお客さんが2人だけでした。大企業でも同じようなことが起こっていますから、このように拡充するという判断はいいことだと思います。財政的なことはいろいろ心配がありますけれども、とりあえずここまで緊急事態が続いているわけですから、まずは安心感を与えるという面で、こういうことをしたのはけっこうなことだと思います。
支援金の拡充は安心感を与える~菅総理のその後のビジョンが見えない
飯田)2020年度第3次補正予算と合わせて15ヵ月予算だとも言われます。経済対策30兆円パッケージが出ていますが、その中身についてもいろいろありますけれども、松井さんはどうご覧になりますか?
松井)中身はいろいろ考えられて、工夫されていると思います。財政的なことを考えずに言えば、もっといくらでも突っ込めという話もあるのですけれども、他の国と比べた日本のいまの感染状況を見れば、相当財政的には頑張っているのだと思っています。
飯田)頑張っている。
松井)ただ、皆さん、「これ、本当に続くのか」という不安も抱えていますよね。この1ヵ月はいいですけれど、ここから先はどうするのか、ということを考えたときに、「お金を貰えるからといって、店を閉めてしまったら、あとが続きませんよね」ということを言っているサービス業の方が多いです。菅さんはデービッド・アトキンソンさんと親しいではないですか。アトキンソンさんは、「日本の中小企業の非効率なところを温存しているのが、日本の生産性の低いところだ」という考え方です。そういう人を経済ブレーンにしている菅さんが、どこまでこういう政策を続けられるのか。「どこかで淘汰しなくてはいけない」という発想になるのか、その辺は見えないですね。菅さんがどんなビジョンを持っているのかが見えないので、とりあえず、このように拡充をするのは安心感を与えるのだけれども、このあとどうしようとしているのか。構造改革はどのように手をつけようとしているのか。国会などでもそういうビジョンが見えて来ない。
野党との対立軸が見えない~でき試合の国対政治
松井)「コロナを頑張る」ということをおっしゃっているのだけれども、「日本の中小企業政策、あるいは非正規雇用などをどうして行こうとしているのか」ということは、きちんと語っていただきたいです。そして、野党もどちらを向いているのかわからない。リベラルと言われている方が、「緊急事態だから」と言って、規制に対して積極的で、「本当にそれでいいのか」という勢力があまり見当たらないですから、国会論戦も、もう1つ対立軸が見えないというところはありますね。
飯田)確かに、特措法の改正などの議論も、罰則を少し緩めるというところだけ。
松井)そうです。バナナのたたき売りのような。言ったら悪いですけれども、国対政治ですよ。自分たちはこれで「やったぞ」と。最初からでき試合ですよ。
飯田)与党が高めの球を投げて、それに対して野党が「ここまで下げたのだ」という余地を残しておくと。
新たな55年体制なのか
松井)そうです。「新たな55年体制」と言ってもリスナーの方はわからないかも知れませんが、戦後の1955年にできた自民党と社会党が結託するという、「乱闘しているように見せかけて、すべて落としどころは決めている」という時代があったのです。
飯田)落としどころは議論で決まるのではなくて、国会が始まる前から決まっていたという。
松井)そうですね。あと昔によくやっていたのは、料亭政治ですね。自民党の国対委員長と社会党の国対委員長は実はツーカーで、一緒に北朝鮮に行ってしまう、そういう時代がそう遠くはない昔にあったのです。
飯田)金丸訪朝団というものですね。
松井)そういうものはどうかということで、1990年代にいろいろな政治改革が行われて、もっと政権、政党で競い合うようなものをつくろうとやって来た30年が、昔に戻っているようですね。いまの森山さんや安住さんという国対委員長はそれぞれできる人ですけれども。
飯田)それにこぎつけるくらいですから、手腕はあると。
松井)あるのですけれども、やり方が古いように思います。ですから、国会があまり面白くない。党首討論をやらないでしょう。
飯田)党首討論は確かに出て来ませんね。
松井)入れ替わり立ち替わり総理大臣を追及して、ボロが出るようにやっているのだけれども、実は出口は決まっていて、「ここら辺が落としどころ」という。いまの時代は料亭で話し合うというようなことはないと思いますが、時計の針がずいぶん巻き戻ってしまったような感じがしますね。
「営業の自由や個人の自由を制限するのはどうあるべきか」という議論がない
飯田)私権の制限をするなら、有事と平時の切り分けなどのきちんとした議論になるのだと思っていたら、すごくグズグズになった感じがあります。
松井)第一に、むしろ野党の方が緊急事態宣言を早く出せと。野党も世論調査の数字を見ながら、「ここで自民党を突いたら人気が取れるのではないか」というような考えでやっている。そもそも国家の役割とはどういうことなのか、営業の自由や個人の自由を制限するのはどうあるべきか、どういうときにどういう条件でやるべきかという議論がなくて、どうも「こちらを言ったらうけるのではないか」という議論がされている。その結果、国民は我慢しているから、特権階級の人だけ我慢していないのではないかとか、無症状でも入院できるのではないのかというような怨嗟の声が起こり、若干、行動の監視社会のようになって来ています。
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