トヨタの「街づくり」……危機意識のなか、歩を進める

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「報道部畑中デスクの独り言」(第235回)

ニッポン放送報道部畑中デスクのニュースコラム。今回は、トヨタ自動車が計画する先端技術都市「ウーブン・シティ」について---

「ウーブン・シティ」の地鎮祭が2月23日に行われた(トヨタ自動車HPから)

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トヨタ自動車が静岡県裾野市にある工場跡地に計画している先端技術都市「ウーブン・シティ」、2月23日には地鎮祭が行われ、「未来の街づくり」が着工しました。

跡地は約70万平方メートル、東京ドーム15個分に相当します。跡地にあったのはトヨタ自動車東日本・東富士工場。かつては関東自動車工業という車体メーカーの工場で、トヨタが資本参加したあとは、最高級車、センチュリーなどを生産していました。

2012年、関東自動車工業は同じくトヨタグループのセントラル自動車、トヨタ自動車東北を吸収し、トヨタ自動車東日本となって宮城県に拠点を移し、現在に至ります。

センチュリーも生産していた職人気質の工場の変貌は、クルマ好きにとっては感慨深いものがありますが、装い新たとなる街の「住民」は2000人以上を想定しており、自動運転、AI=人工知能や通信を活用した実験を行うということです。

ちなみに「ウーブン」とはWoven=織られたという意味。トヨタによると、網の目のように道が織り込まれ合う街の姿を示しているということですが、トヨタ自動車の源流である「織機」に由来するという説もあります。

トヨタ自動車が目指す未来の街「ウーブン・シティ」のイメージ(トヨタ自動車HPから)

トヨタ自動車が目指す未来の街「ウーブン・シティ」のイメージ(トヨタ自動車HPから)

豊田章男社長はあいさつで、東富士工場を「たゆまぬカイゼンの精神」などと称えた上で、今後について「『ヒト中心の街』『実証実験の街』『未完成の街』というウーブン・シティのブレない軸として受け継がれて行く。地域の皆さまとともに未来に向けた歩みを進めて行く」と述べました。

トヨタがここまでの動きに出るのは、自動車業界「100年に一度の大変革」に対し、強い危機感を持っているからに他なりません。「CASE(コネクテッド、自動運転、シェアリング、電動化)」が次世代自動車のキーワードと言われて久しいですが、その次世代自動車には自動車メーカーだけでなく、さまざまな業種の参入が予想されます。

例えば上記4要素の普及には、ビックデータによる運用が欠かせません。電動化によって部品の構成も大きく変わって行きます。

アメリカのGAFA(グーグル、アップル、フェイスブック、アマゾン)、中国のBAT(バイドゥ、アリババ、テンセント)などの巨大IT企業や電機メーカー、新たな発想による新興企業が主導権を握り、既存の自動車メーカーが「下請け」的存在に甘んじてしまう可能性もあるのです。

地鎮祭であいさつする豊田章男社長(トヨタ自動車HPから)

地鎮祭であいさつする豊田章男社長(トヨタ自動車HPから)

ならば、そうしたIT、電機、インフラなどの各要素を包含する「街」をつくり、主導権を守ろうというのがトヨタの狙いと言えます。かつて手掛けていた「トヨタホーム」という住宅事業を、パナソニックとの共同出資で統合しましたが、これらも事業の核になって行くことでしょう。

また、あいさつで豊田社長は「決めたことを決めた通りに進めるということは、簡単なことではない」とも述べました。新型コロナウイルス感染症の影響で、各社イベントの開催自粛、新車スケジュールの見直しが相次ぐなか、関係者を限定しての開催にこぎつけるあたり、変革のスピードの前に一時の躊躇も許されないという意思を感じます。

投資費用や完成時期は明らかにされていませんが、NTTと提携を決めている他、企業や個人に参加を呼びかけ、現状で3000件を超える応募があったということです。次世代自動車だけでなく、将来の産業構造がどうなって行くのか、トヨタの試みはその試金石の1つと言えます。(了)

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