みずほ銀行の会見にみる、謝罪コミュニケーションの不変の法則

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フリーアナウンサーの柿崎元子による、メディアとコミュニケーションを中心とするコラム「メディアリテラシー」。今回は、危機対応について---

みずほ銀行の会見にみる、謝罪コミュニケーションの不変の法則

会見冒頭、システム障害に関して謝罪、頭を下げるみずほ銀行の藤原弘治頭取=2021年3月1日 写真提供:産経新聞社

お詫びの言葉ばかり?

最近のニュースと言えば、謝っているものばかりだな……という印象があります。国会でさえ「国民の皆様にご迷惑をおかけして申し訳ありません」と、NTT社長も衛星放送関連会社の社長も、そして菅総理本人の口からも謝罪の言葉でした。

トップが頭を下げることの意味がとても重かった時代は、「申し訳ございませんでした」の音声をカットして、ニュースの冒頭で使用するのが鉄則でした。当事者の生の声を公にすることが最も説得力があったからです。

しかし最近は謝る場面が多くなったせいか、「深くお詫びいたします」といった言葉が機械的に発せられているようにも聞こえます。むしろそのあとに続く理由や責任の所在などの一字一句から、言質を取ろうと必死になっているメディア側の姿勢が目につくようになっています。

みずほ銀行は2月28日、3月3日、3月7日、3月12日と、合わせて4回のシステム障害を起こしました。特に最初の障害では復旧に30時間かかり、全国で通帳やキャッシュカードが機械に吸い込まれたまま出て来ませんでした。利用者は寒空のなか、その場所に留まることを余儀なくされました。

これを受け、みずほ銀行の藤原頭取は2回の会見を行いました。両方の会見を見比べた人は多くはないかも知れませんが、企業のクライシス対応(危機対応)という観点から見ると、大きな違いが見て取れます。

みずほ銀行の会見にみる、謝罪コミュニケーションの不変の法則

写真撮影:柿崎元子

会見を危機対応の面から考える

最初の記者会見は3月1日(月)の午後に行われました。藤原頭取は冒頭で、「システムトラブルとお客様への不十分な対応について、お客様、社会の皆様全般に深くお詫び申し上げます。今回の事態を大変重く受け止め、再発防止の徹底に全力を尽くしてまいりたいと思います」(ニッポン放送取材音声より)と頭を下げました。

こちらを危機対応の面から考えてみます。危機が起こった際、会見ではまず当事者からの説明があり、そのあとに質疑応答の時間が設けられます。最初の説明で必要なポイントは、以下の4つ。謝罪、危機に対する会社の想い、再発防止策、被害者への対応です。もしこのなかで何かが欠けると、その後の質疑応答で記者の格好のネタになってしまいます。

みずほの場合は、お詫びの言葉のあと、事件の概要と対応の詳細などをうまく盛り込みました。声の大きさや態度も謙虚でした。第一段階は無難に乗り切ったと言えるでしょう。

次は質疑応答に移ります。記者の質問にどう答えるのか。クライマックスの時間です。何かの事象をニュースにする際、記者はあらかじめ批評的なストーリーを考えています。そのストーリーに沿い、補完する答えを引き出そうと質問をします。

今回のみずほの場合は、「3回目のシステム障害」と「なぜみずほ?」のいずれかに焦点が絞られていたと思われます。会見に出席していたニッポン放送の畑中記者は、「我々記者たちはシステムが復旧したこともあり、顧客への対応を糾弾するイメージを持っていなかったと思う」と話してくれました。

これは記者たちがイメージしていた見出しが『まずかった顧客対応』ではなく、『またシステム障害』だったと予測できるものでした。恐らく藤原頭取もそのことを予想していたのではないでしょうか。

みずほ銀行の会見にみる、謝罪コミュニケーションの不変の法則

写真撮影:柿崎元子

システム面から視線をそらす

そう書かれるのを何とか阻止しようとする気持ちを反映したやりとりを、3月2日の朝日新聞朝刊で見てみます。

---10年周期でトラブルが起きる。なぜみずほで繰り返し起きるのか。

~『朝日新聞』2021年3月2日記事 より

……という質問に対し、藤原頭取は……

「過去2回のシステム障害の教訓は、システム構築、運用、リスク管理についてしっかり対処してきたつもり。だが今回、事前のテストを行って、システム負荷の影響も把握していたが、結果として想定以上の負荷がかかった。運用面を含めていま一度、みずほ固有の要因も含めて点検して行く必要がある」

~『朝日新聞』2021年3月2日記事 より

……と答えました。

これにより“システム”自体が問題ではなく、認識の甘さを含めた“運用”が追い付いていないだけとした印象をつくり出したと、私は考えています。「長年、改善に取り組んで来たシステムに問題はない。3回目の障害はシステムではない。それは皆さんの杞憂です」と言いたかったのではないでしょうか。

みずほ銀行の会見にみる、謝罪コミュニケーションの不変の法則

みずほ銀行のATM、システム障害ほぼ復旧。稼働したATM=2021年3月1日午後、東京・大手町 写真提供:産経新聞社

歯切れが悪かった再度の会見

登壇者の誠意や熱意が信頼感へとつながって行けば、会見は成功します。藤原頭取は毅然と運用面への課題を口にし、今後は真摯に向き合うとして、この問題は一旦収束すると思われました。

しかし、残念なことに4回目のトラブルを起こしてしまいました。12日夜に再び会見を開いた藤原頭取の口は重く、歯切れの悪いものになりました。読売新聞の13日朝刊の見出しは……

『みずほ 失態続き 2週間で4回 機器故障  切り替えも失敗』

~『読売新聞』2021年3月13日記事 より

……というものでした。

「ハードの要因、システム運用面について抜本的に点検する必要を痛感している」と認めざるを得ない状況となりました。そして「4件それぞれ要因があり、因果関係は見出せていない」「これだけ続くことは重く受け止めている」と話すのが精いっぱいだったと思われます。

そしてこの5日後、みずほフィナンシャルグループの坂井社長もメディアの前に立つことになりました。しかし、もはやみずほグループの本気度を示すしかありませんでした。「4月1日に予定されていた、みずほ銀行頭取の交代人事を取り消す」とし、システム障害の原因究明と再発防止策を策定し終わるまでは続投するとしました。

メディアを前にして、通常の心持ちで話すことは簡単ではありません。ですから企業のトップは、発信することへのリスクを減らすためにトレーニングしています。その成果もあり、言質を取られないテクニックを、政治家をはじめ経営者は身につけて来たと感じます。

逆に記者は、これまでとは違うスタンスや深堀りの方法を考える局面になって来たのではないでしょうか。しかし、どんな環境の変化においても謝罪会見の重要な点は、ウソをつかない、隠さない、そして真摯な姿勢、毅然とした態度であることに変わりはないと思います。(了)

連載情報

柿崎元子のメディアリテラシー

1万人にインタビューした話し方のプロがコミュニケーションのポイントを発信

著者:柿崎元子フリーアナウンサー
テレビ東京、NHKでキャスターを務めたあと、通信社ブルームバーグで企業経営者を中心にのべ1万人にインタビューした実績を持つ。また30年のアナウンサーの経験から、人によって話し方の苦手意識にはある種の法則があることを発見し、伝え方に悩む人向けにパーソナルレッスンやコンサルティングを行なっている。ニッポン放送では週1のニュースデスクを担当。明治学院大学社会学部講師、東京工芸大学芸術学部講師。早稲田大学大学院ファイナンス研究科修士
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