ヨーロッパから中国へ~大きく変化した米・外交政策の“優先順位”
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ニッポン放送「飯田浩司のOK! Cozy up!」(3月26日放送)に内閣官房参与で外交評論家の宮家邦彦が出演。バイデン大統領がEU首脳会議にオンラインで参加するというニュースについて解説した。
EU首脳会議にアメリカのバイデン大統領がオンラインで参加へ
欧州連合(EU)が開催中のEU首脳会議に、アメリカのバイデン大統領が3月25日夜、オンラインで参加した。アメリカの大統領とEU加盟国全首脳らの会合は、2009年4月にオバマ大統領(当時)がチェコでの首脳会議に参加して以来、12年ぶりだ。
飯田)チェコの首脳会議以来ということです。
外交政策の優先順位が大きく変化しているアメリカ
宮家)もちろん米大統領がEU首脳会議に参加することも大事なのですが、この数年間、特に5~6年間で、アメリカの外交政策の優先順位が大きく変わっている感じがします。一昔前であれば、新しい大統領の初の外交行事は近隣のカナダかメキシコとの首脳会談、もしくは「ヨーロッパが大事だ」などと言ってヨーロッパにも行ったものです。しかしいまは違うでしょう。
飯田)変わって来ています。
宮家)昔は冷戦の名残もあってロシア、欧州が大事だった。その後、テロがあって中東が大事になった。以前は、アジアは大事だけれど、「少しね」という状況が続いていた。その間に中国が台頭した。そして急激に状況が変わってしまった。これはトランプさんの時代からわかっていたことだけれど、その対応は必ずしもうまくやっていなかった。しかし、バイデン政権はプロの集団ですから、「これはヤバイぞ」ということになったのだと思います。
飯田)まずいぞと。
宮家)資料を見ていたら、欧州理事会の議長が「米国とヨーロッパの同盟の再構築をするときだ」と言っていますよね。「再構築するときだ」ということは、未だ構築されていない、壊れているということですよ。
飯田)現状は。
ヨーロッパへも訴える中国の問題
宮家)それから、アメリカとEUが「高官級の対話の再開を発表した」と書いてあるのですが、ということは、これまで対話をしていなかったということ。それはそうですよ。トランプさんはNATOにまったく関心がなかったのです。メルケルさんと大喧嘩をしているぐらいだから、ほとんど付き合いがなかった。ヨーロッパとアメリカの関係は、トランプさんの時代に壊れてしまったのです。ですから、その意味では今も欧州方面はプライオリティが高まっていない。アメリカの国務長官、国防長官の最初の外遊先が日本での2プラス2会合になるのは、ある意味で自然の流れなのです。これは日本にとってはいいことなのですが、より大きな問題は、「アメリカの外交政策の優先順位、もしくは関心が明らかに変わりつつある」ということですよ。それをヨーロッパ人はよくわかっているからこそ、何とか昔の状態に引き戻そうとしているのです。しかしアメリカからすると、「中国の問題を欧州の皆さんにもわかって欲しい」ということ。今やアメリカにとってはこちらのほうが大事なのだからということです。
飯田)中国の問題が。
宮家)ですから、バイデン政権の外交政策の大きな流れを考えるときに、まず日本に行って、韓国に行って2プラス2をやって、そしてアンカレッジに帰り、中国を呼びつけて「ガツン」とやったら、「ガツン」とやり返された。その前に4ヵ国のクアッドでの首脳会談もありましたよね。それらをやった上で欧州に行って、中国の問題をヨーロッパ人にも働きかける、こういう流れになっている。日米2プラス2の合意事項というのが、一貫性のあるメッセージとして今後も続いていくと見るべきだと思います。ずいぶん時代が変わったという気がしますね。
中国を民主化することはできなかった
飯田)日米での2プラス2の合意文書のなかで、中国の明示もしましたし、台湾についての言及もありました。
宮家)以前台湾については、慎重だった時期もありました。アメリカもそうでしたし、日本もそうでした。その最大の理由は、中国に投資をし、中国を資本主義国家にすることで、中国が豊かになり、中国社会を変えるのだと。中産階級が出て来て、市民社会が出来て、いずれ中国は「民主化するのだ」ということを1990年代に考えていた。それで天安門事件後の経済制裁もやめて1990年代以降中国に投資し始めたのです。
飯田)そうですね。
宮家)確かに中国は豊かになったのだけれども、市民社会はできなかった。利益はすべて国防費と公安のために使われてしまった。その結果、いまがあるということを、やっとアメリカがわかったのです。我々もそれがわかったのです。中国のやり方というのは、少なくとも独裁国家としては、非常に効率的なやり方でしょう。しかし、効率的なのでしょうけれど、決して長続きするやり方ではないと思います。
飯田)コロナのことがあったので、意思決定が早いともてはやされたりしますけれど。
宮家)早いことは早いですよね。しかし、1つ間違えたら、それはもう致命的な間違いをするわけです。
飯田)修正が効かないわけですからね。
宮家)民主主義の方が、間違いはどこかで直せる。常に素晴らしいことはできないですけれどね。
飯田)「遅々として進まない」ということは、ウィンストン・チャーチルも指摘しています。
宮家)いままでのダメな政治制度のなかでは、いちばん良いのですよ。
もはや日本が見て見ぬ振りはできない「中国と台湾の問題」
飯田)日米首脳会談が4月に行われます。26日の読売新聞の一面トップで、
『【独自】「尖閣に安保適用」日米が共同文書明記へ…首脳会談で連携確認』
~『読売新聞』2021年3月26日配信記事 より
飯田)……という、首脳会談の共同文書の調整中のものが出て来ています。「台湾海峡の平和と安定」の重要性を確認するというのも、このなかに入って来ているということです。
宮家)やはり2プラス2の共同文書が基礎なのでしょう。日米関係ではとてもスムーズに物事が進んでいると思うのですが、もちろん原則はこれでいいのです。問題は、本当に尖閣や台湾でコトが起きたときに、日本が具体的にどのように対応するかというのは、過去70年間の宿題というか、見て見ぬ振りというか、触れたくなかった部分がおそらくこれから問題として出て来るのです。「我々が冷静に対応できるかどうか」が、日本の21世紀の国際的地位を決めると思っています。
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