菅総理とバイデン大統領の「日米首脳会談」が意味するところ
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ニッポン放送「飯田浩司のOK! Cozy up!」(4月21日放送)に慶応義塾大学教授・国際政治学者の細谷雄一が出演。バイデン大統領と菅総理の間で行われた今回の日米首脳会談について解説した。
極めて重要な会談であった日米首脳会談
米バイデン大統領にとって初めての対面となる首脳会談の相手に菅総理を選び、日米首脳会談が行われた。今回の日米首脳会談はどのような意味を持つのだろうか。
飯田)今回の日米首脳会談、細谷さんはどうご覧になりましたか?
細谷)私は歴史の専門ということで、歴史的な観点から今回の日米首脳会談がどういう意味を持つのかということを申しあげたいと思います。1941年8月に大西洋会談がありました。これはアメリカのルーズベルト大統領とイギリスのチャーチル首相が会談して、このときに戦後の秩序を決めたわけです。つまり「民主主義対ファシズムの戦い」のなかで、戦争が終わったあと、「どういう世界をつくって行くか」というビジョンを語った。
飯田)どういう世界をつくるか。
新型コロナウイルスの影響で中国の覇権交代へのスピードが速まった
細谷)今回、重要だと思うのは、菅総理がポストコロナの国際秩序について語っているのです。これはCSISというシンクタンクでの講演でもあるのですが、大きな国際秩序を語るとともに、日米が特別な役割を持っているということです。特に中国がコロナのなかで影響力を世界で拡大しています。「ワクチン外交」という形で影響力を拡大して、中国の報道、人民日報などでは、もうアメリカは衰退していると書かれています。本来であれば、もう少し覇権の交代に時間がかかるはずが、コロナで一気にスピードが加速して、もはやアメリカも日本も衰退していると。従って、中国がそれに変わって世界の中心的な秩序をつくって行くと言っているのです。
飯田)なるほど。
細谷)それに対して、トランプ大統領は国際秩序にはあまり関心がなかった。同盟に関しても、日本との関係だけは例外的に安倍総理との個人的な信頼関係に基づいていましたが、国際秩序や同盟全体というよりは、アメリカ国内を優先した側面が強かったと思います。それに対して、先ほどルーズベルト大統領の名前を出しましたが、丁度ウィルソン大統領が第一次世界大戦後に秩序構想をした。そしてルーズベルト大統領も同じように秩序構想をした。
世界を「自由民主主義対専制主義」の2つに分けたバイデン大統領~日本はアメリカにとって特別な同盟のパートナー
細谷)今回、バイデン大統領は世界を「自由民主主義対専制主義」と2つに分けて、この戦いにおいて、最も重要なのが「インド太平洋」。もともとチャーチル・ルーズベルトの大西洋だったのが、いまはインド太平洋。インド太平洋において最も重要なのが、かつて大西洋においては英米関係だったのが、いまは日米関係、日米同盟ということで、バイデン大統領の今回の意気込みが尋常ではなかったということです。菅総理はアメリカのニューズウィークの表紙に顔を飾って、「アメリカにとって特別な同盟のパートナーだ」と位置づけられている。これは歴史的に見ても、極めて重要な会談だったと思います。
冷戦時代におけるベルリンがいまの尖閣諸島と台湾
飯田)日米首脳会談後の共同声明には、「台湾」という名前が実に50年以上ぶりにのぼったということ。いまルーズベルト、チャーチルの話がありましたが、その後チャーチル氏は鉄のカーテンという演説を行いました。明確に地図の上でも区分ができ上がったのだと。1つの示唆として、台湾海峡やその辺りの線というものも、今後より意識されて行くということになりますか?
細谷)冷戦時代においては西ドイツが最前線となって、いつソ連が攻めて来てもおかしくないような緊張状態にあった。実際、ベルリン封鎖ということもあり、ベルリン全体が失われるという危機がありました。
飯田)そうですね。
細谷)それにいま当たるのが、尖閣諸島と台湾です。尖閣諸島と台湾が、いつ中国の手にわたってもおかしくない。もちろん台湾は、外から見たら侵攻ということですけれども、「一つの中国」ということで、中国からしたら国家の統一ということになるわけです。中国から見れば国家の統一に対して、国家の分裂を外から促進しようとすると。香港のときとまったく同じロジックなわけです。中国国内の分裂を促進する、台湾のなかの独立派と、そして外から日本やアメリカなどの外部勢力がそこに関与して、国家分裂を促進しようとすると。それに対して、徹底的に中国は全面対決する姿勢なわけです。
中国の台湾への武力統一は「するかしないか」ではなく「いつするか」ということ
細谷)それに対して、そのまま放置すれば台湾がどのタイミングかはわかりませんが、中国に武力統一される。これはアメリカの専門家によると、台湾を中国が武力統一するのは、「するかしないかではなくて、いつするかのタイミングだ」と。これはフィリップ・デービッドソンというインド太平洋軍司令官がつい先日、公聴会で「本来であれば10年後を想定していたが、6年後にはこれが起こりかねない」ということで、「大変な緊張感がある」と言っています。そういった、アメリカのなかでは、独特な台湾や尖閣諸島、特に台湾をめぐる緊迫があると軍関係者は捉えている。どうも日本のなかでは緊張感とか、実際に日本のすぐ近くで、「日本を巻き込む形で軍事衝突が起こる」ということに対しての緊張感が、伝わりにくいのかも知れないですね。
米軍と中国人民解放軍がシミュレーションではほとんど中国が勝つ
飯田)国内分裂であるとか、内政干渉をするなというロジックを使って中国は主張します。20日、ボアオ・アジアフォーラムというところで習近平国家主席がオンラインで演説を行いましたけれども、まさにそのロジックを使っていました。
細谷)米軍と中国人民解放軍がシミュレーション、コンピューター上で「いまの戦力で戦争したときにどちらが勝つか」ということをやると、ほとんど中国が勝つのです。これはアメリカのなかでも深刻に受け止められています。こういうことが、ますます中国を武力統一というものに傾斜させる原因になっている。コロナと軍事バランスが中国の武力統一を、または尖閣諸島をめぐって、より強硬な手段に出る可能性がある。こういうことが背景にあると思います。
「中国が武力統一をするということであれば、アメリカとの全面的な戦争は避けられない」というアメリカからのメッセージ
飯田)2プラス2があって、クアッドの首脳会談がオンラインであって、今回の日米のフェイストゥフェイスの首脳会談と、一貫して台湾海峡等々に関してのメッセージが出ているのは、「ミスリードだけはさせてはいけないぞ」という強いアメリカ側の危機感ということですか?
細谷)そうですね。これはトランプ政権から続いていることではありますが、「この問題をめぐってアメリカは躊躇しない」と。「台湾を守るのだ」ということで、つまりは「中国が武力統一をするということであれば、アメリカとの全面的な戦争は避けられない」というメッセージを強く中国側に送ることによって、そのような可能性を先延ばしにするか、または阻止しよう、というアメリカの意向が感じられます。
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