憲法改正を阻止するために国民投票法の議論を止めるような国はダメ
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ニッポン放送「飯田浩司のOK! Cozy up!」(4月30日放送)に中央大学法科大学院教授で弁護士の野村修也が出演。自民・公明両党が国民投票法の改正案を衆院通過させる方針を固めたというニュースについて解説した。
国民投票法改正案~5月11日に衆院通過へ
自民・公明両党は、憲法改正手続きに関する国民投票法の改正案を、5月6日の衆議院憲法審査会で採決し、11日に衆議院を通過させる方針を固めた。改正案は、憲法改正国民投票の手続きを公職選挙法に合わせるのが目的で、駅や商業施設などへの共通投票所の設置や、投票所に同伴可能な子どもの範囲の拡大など、7項目が盛り込まれている。
飯田)2018年には提出されていたのですが、審議が進まなかったということでした。
野村)今回で9回目の国会ということになります。国会も法案を出していたことを忘れてしまっていたのではないか、というくらいですね。
憲法改正を阻止するために国民投票法を食い止めるような国はダメ
野村)憲法を改正するためには、国民投票法がベースになるわけで、この改正が通らなければ次のステージに行かない。だから、この法案を食い止めることによって、憲法改正を食い止めようとしているのですが、こういう国はダメです。きちんと中身について審議しなければいけません。「自分の国のことを誰も語らない」という、そんなことはあり得ないでしょう。毎回いろいろな出来事があるわけです。その出来事に対して、「自分たちの国の仕組みに何か改善点がないのか」ということを議論するのが、本来の憲法に関する審議です。そこの議論があることによって、国民のなかにさまざまな考え方が浸透したり、あるいは意見が戦わされたりするなかで、国が豊かになって行くわけです。それを、「この法案を食い止めよう」ということはやめた方がいいのではないかという気がします。
「自分たちの国が万が一のときにどうなるのか」ということを議論できなかった日本
飯田)平時であれば、何となく「これで回っているのだから」というようなこともあるかも知れませんが、コロナ禍の一連の対応によって、「この国のあり方や有事対応をどうしたらいいのか」というところで、この問題に突き当たることがありました。
野村)そうなのですよ。
飯田)人の動きをどこまで制限できるのかという話も含めて。
野村)結局、有事というものがタブー視されて来た国なわけです。「これを語ってはいけない」という形になっていたのは、まさにこの問題のように、入口で「なかに入って議論する」ということを食い止めて来た。そのような政治状況のなかで、「自分たちの国が万が一のときにどうなるのか」ということを議論できなかった。これは本当に危ないことです。感染したらすぐに亡くなるようなタイプの感染症もあるわけです。それが来たときに「外に出ないでください」ということすらも言えないような国が、本当に闘って行けるのかという問題があります。
飯田)死亡率のさらに高い感染症が来たときに。
サイバー攻撃を受けたとき、「いまは有事だから」ということができるようにするためにも、議論を深めるべき
野村)さらに言うと、いまの世界の対立点は、パンデミックだけではなくて、サイバー攻撃が主流になりつつあるのです。サイバー攻撃が起こると、国のインフラがすべて破壊されるわけです。
飯田)電気が止まったり。
野村)すごい勢いで命に関わって来て、電気が止まっただけで治療が受けられなくなる患者さんがバタバタ出て来るのです。
飯田)北海道で地震が起こったときに、「北海道ブラックアウト」と言って、しばらく電気がまったくない状態になった。そこで、例えば人工透析を受けている人はどうなるのかなど、大問題になりました。
野村)ああいうときに、有事対応に切り替えをして、「いまは有事だから」ということができるようにするためには、もっと議論を深めなければいけないわけです。逆に言うと、議論を深めないまま有事に突入するのは危ないのです。
国民投票法を1つの契機として、憲法の中身の議論に入るべき
野村)余計な私権制限も出て来るわけだし、本当に乱暴な人が出て来て、権力を握ってしまうことに対する危機感。これが本当にあるのなら、議論をした方がいいです。どこまでができることで、できないことなのか。あるいは、どういう手続きでやるべきなのか。それを議論することは、いま日本にいちばん求められているところなのです。だからこそ、国民投票法を1つの契機として、憲法の中身の議論に入ったほうがいいと私は思います。
「人が出て行くことは食い止められないから、電気を消しましょう」というのは本末転倒
飯田)法律家である野村さんにお伺いしたいのは、日本はいままでパンデミックに対して、私権の制限はかなり緩やかな形でここまで対応できているのだから、素晴らしいことだという反面、空気によって縛るような状況が、いま暴走しかかっているのではないかと。「外で酒も飲むな、タバコも吸うな」というような。もういい加減に法律をつくらなければいけないのではないかと思うのですが。
野村)おっしゃる通りで、結局はルールがない。ルールがなくても運用できているというのは、昔の憲兵のような感じで、見回りをしている人たちが「この人は何か違反していますよ」ということを告げ口するという。こういう国を止めようと思って始めたわけでしょう。だから、批判すべきなのはそういう形の運営の仕方であって、きちんとしたルールのもとに正しい運用をするということではありません。そこを議論しないで行くと、一気にそういう国にまた戻るわけです。
飯田)また戻ってしまう。
野村)「人が出て行くことは食い止められないから、電気を消しましょう」というのは本末転倒なのです。きちんとした私権制限ができる国にしておいて、使うときには止める。しかしそれは伝家の宝刀ですから、今回のパンデミックはそれを使わないなら使わない、使わずに頑張って行こうと。そういう選択ができる裕度が必要なのです。「できないからやっている」ということではダメで、「やろうと思えばできるけれど、今回は国民の力で行こう」という、しっかりとした国をつくって行かないと、本当にひどい状況になってしまうと思います。
政治家が責任を持ってスイッチを押す。押してダメだったら責任を取る
飯田)ここを乗り切ったあとに検証しようと思っても、「いったい誰の責任でこの空気感をつくったのか」ということで、みんな無責任になってしまうような気がします。
野村)日本のいまの体制は無責任体制で、「誰もスイッチを押していないけれども、爆発してしまったのです」と。「俺はスイッチを押していないよ」という、そういう社会ではないですか。「政治家が責任を持ってスイッチを押す。押してダメだったら責任を取る」。こういう仕組みにしておかないと危ないですよ。
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