東京都医師会副会長で「ひらかわクリニック」院長の平川博之氏が4月30日、ニッポン放送「モーニングライフアップ 今日の早起きドクター」に出演。コロナ禍において大切な「頑張る」という言葉が表す6つのバリエーションと、いま覚えておくべき言葉について解説した。
飯田浩司アナウンサー)陽性となった感染者の方、あるいはそこから回復された方の心のケアについてですが、感染された方の告白をブログなどで見ますと、かかってしまったことで自分を責める言葉が非常に多く、「申し訳ない気持ちになった」などと書かれていることもあります。先生のご経験はいかがですか?
平川)昨年(2020年)の4月から約2ヵ月、私ども東京都医師会は東京都の依頼を受けて、コロナに感染してホテルで療養された方々のメンタルサポートをさせていただきました。たくさんの相談を受けたのですが、そのなかで印象的だったのが、ある高校生の方からのご相談でした。その方は、ご家族の皆さんがコロナに感染してしまったのです。高齢者の方が入院したのですが、それに対して、「多分コロナは自分が持ち込んだものではないか」ということを、ずっと思われていたそうです。
そんな矢先に、入院した祖父の方が亡くなったという連絡を受けたというのです。小さいころから同居していた方で、とてもかわいがってもらっていたということですが、「自分のせいで亡くなってしまったのではないか」と考えたそうです。しかも、本人も感染者のためホテルから出られず、見送ることもできないため、本当に終始泣きながら相談されていました。たった1人でホテルの小部屋で悔やんでいる、あるいは怯えている姿を想像すると、相談を受けるこちら側も声が詰まりそうになってしまいます。そういう経験がございました。
飯田)確かに、同居している家族ということを考えると、自分を責めてしまいますものね。
平川)「日本人がんばれ」という言葉が一時期すごく流行りましたし、その頑張りこそが尊いのだということもありますけれど、一般的に「頑張る」というのは、心身がボロボロになるまでやることだと捉えがちです。しかし、精神科のある先生が、「頑張る」ということを6つのバリエーションに分けていて、これがすごく面白いのです。
飯田)6つですか。
平川)1つは「全力で頑張ってみるか」という、いわゆる頑張りですよね。2番目は「ちょっと頑張ってみるか」、3番目は「できる範囲で頑張ってみるか」。4番目は「ぼちぼち頑張ってみるか」、5番目は「余裕があれば頑張ってみるか」。最後はすごいのですが、「誰かが頑張るでしょう」と。
飯田)なるほど。
平川)同じ「頑張れ」でも随分レベルが違いますよね。どうしても全身全力と思いがちですが、「頑張る」という言葉をもう少し工夫することによって、自分の立場や体調なども含めて、「頑張れる範囲の頑張り」を見つけるのがいいと思います。
飯田)何か覚えておくべき言葉はありますか?
平川)『天才バカボン』という漫画を知っているでしょうか? あの漫画で、バカボンのパパが繰り返し「これでいいのだ」と言います。すごくいい言葉ですよね。過去を振り返れば後悔が、先を見れば不安があるわけですが、どうすればいいのかと考えたら、いまを大事にするのです。この瞬間を大切にする。「これでいいのだ」という言葉は、ものすごく大事な言葉です。
アルコール依存症の治療のなかで、「ONE DAY」という言葉があります。「いままで飲んでしまってずいぶん後悔している。でもこの先、飲んでしまうかも知れない。心配だ」というときに、「きょう1日、この1時間を飲まずに頑張ろう」と思うのです。この「ONE DAY」を大切にすれば明日につながるという、依存症を回復するプログラムがあるのですが、これは本当に大事なことです。どうしても人間は、過去を振り返ったり先を見てしまったりするのですが、何と言ってもいまがいちばん大事ですので、いまをどう楽に生きられるかということを心掛けるべきです。
飯田)「これでいいのだ」と思うだけではなく、口に出すだけでも違いますか?
平川)声に出すことが大切です。
番組情報
医師が週替わりで登場。
飯田浩司アナウンサーと新行市佳アナウンサーが、健康に関する疑問や予防法、症状、治療法などを聞きます