ニッポン放送「飯田浩司のOK! Cozy up!」(5月7日放送)に外交評論家で内閣官房参与の宮家邦彦が出演。香港の裁判所が服役中の民主活動家・黄之鋒(ジョシュア・ウォン)氏に禁錮10ヵ月の実刑判決を下したニュースについて解説した。
服役中の民主活動家・黄之鋒氏に禁錮10ヵ月の実刑判決
香港の裁判所は、2020年6月に当局が許可していない集会に参加したという罪で、服役中の民主活動家・黄之鋒(ジョシュア・ウォン)氏に禁錮10ヵ月の実刑判決を下した。この集会は、中国で民主化運動が武力弾圧された1989年の天安門事件の犠牲者を追悼するもので、香港から「集会の自由」が失われつつあることを示す厳しい判決となっている。
飯田)折しもG7外相会合が行われた直後です。
2017年のG7の共同声明には中国に対する名指しの批判はなかった
宮家)中国は、香港についてルビコン川を渡ってしまっていますからね。悲しい話ですけれども、これが元に戻ることは当分ないと思います。香港の激変を見ていると、その前のG7外相会合のコミュニケ(共同声明)は2017年でした。いまは2021年で、その間に香港の変化があるわけですけれど、2017年のときには「China」という言葉はどこにあるかというと、「South China Sea」や「East China Sea」で出て来るだけです。全文検索しても、中国に対する名指しの批判はなかったです。
飯田)なかったのですね。
G7と一緒にやるつもりはなかったトランプ政権~中国への懸念が早く出ていればどうなったか
宮家)中国という項目すらなくて、当時は海洋のセキュリティとか、海洋の安全保障という形でしか中国に触れることはなかったのです。当時はトランプ政権ですが、そもそもアメリカファーストの人だから、G7と一緒にやろうという気はまったくなかった。
飯田)トランプさんは。
宮家)しかし今回は初めて中国の項目ができて、かなり厳しい言い方をするようになりました。隔世の感があります。中国メディアが反発するのは当然だろうと思いますけれど、残念ながら、若干手遅れだったかなと思います。もっと早い段階でやっていたらどういう状況になったのか。それでも中国は変わるかなという気がしないでもない。もしかしたら中国はもっと反発を強めて、さらに早い段階で弾圧したのかも知れないし、わかりません。わからないけれども、いろいろな思いが去来しますよね。
飯田)あれは2017年、トランプ政権発足直後です。
宮家)それまでは毎年G7外相会議をやっていて、当然のことながらコミュニケを出したりしていたわけです。だから2017年の時も惰性で、あのときはティラーソンさんだったわけだけれど。
飯田)国務長官が。
宮家)皆がやるのなら仕方がない、という感じでやったのだろうと思います。
飯田)政権発足が1月だから、間がなかった。
バイデン政権になって国際的な声の核ができた
宮家)そのころはまだ国務省の局長レベルの人事も決まっていなかった時期かも知れません。そういうときにつくられたのでしょう。その後は首脳会談でコミュニケもしくは政治宣言を出そうと思っても、トランプさんがOKしなかったり、内容で揉めたりした。あれはコンセンサスで作るものですから。更に、2020年にはそもそもサミットがなかったですよね。いろいろなやり方があったかも知れないけれども、トランプさんはG7を真面目にやる気がなかった。そういう意味では、今年になってようやく国際的な声というものの核ができるようになった。これだけでもバイデン政権時代の大きな変化だと思います。
飯田)2017年当時を考えてみたら、オバマ政権の関与政策を引きずるところがまだあった。パラダイムは変わったけれども、多国間での発表はなかったという。
宮家)トランプ時代はアメリカ1国が中国に対して対決するという感じだったのだけれど、それではやはり無理ですよね。アメリカの強みというのは、普遍的な価値の旗を掲げて、多くの国を巻き込んで行くというところなのですが、それをトランプさんはやらなかったわけですから。
飯田)ある意味、部分的に日本がやったところも。
宮家)そうかも知れませんね。TPPなどはまさにそうですよね。そういうことをできなくなっていたのが、今年になってやっと元に戻ったのかどうかはわかりませんけれども。それから対中関係では、オバマ政権は必ずしも全面的に悪いわけではなくて、2期目からは、かなり中国に対し厳しい考え方が出ていました。バイデン政権がその継続として、より厳しい形で、しかも国際協調を織り込みながら対中外交をやっているという意味では、結構な話ではないでしょうか。
飯田)ヨーロッパがここにも加わるように、部分的にはなったということですか?
宮家)そうですね。日本の新聞でもいろいろなことが書かれていて、「日本はどっちを取るか」というような言い方もされているようですが、必ずしもそうではありません。イタリアやドイツも、アメリカのやり方にすべて賛成しているわけではないので、どっちもどっちだなと思います。
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