ニッポン放送「飯田浩司のOK! Cozy up!」(6月2日放送)にジャーナリストの佐々木俊尚が出演。福島第1原発事故の責任をめぐる裁判で、東京地裁が裁判官の現地視察を決定したというニュースについて解説した。
裁判官が初めて福島第1原発の敷地内視察を決定
福島第1原発の事故の責任をめぐる裁判で、東京地方裁判所は2021年10月に裁判官による現地視察を行うことを決めた。裁判官が原発の敷地内を視察するのは初めてとなる。
科学のことに詳しくない裁判官がどこまで判断できるのか
飯田)東京電力の個人株主50人あまりが、福島第1原発の事故をめぐって、当時の経営陣5人に対して賠償を求めている裁判です。
佐々木)原発の問題は科学の問題でもあるわけです。それを、科学のことにさほど詳しくない裁判官がどこまで判断できるのだろうかという、根源的な問題があります。
飯田)そうですね。
佐々木)科学に限らず、政治も同じで、「統治行為論」という有名な言葉があります。日本で昔から議論されていますが、例えば外交問題について。国家の統治に根本的に関わるような、高度な政治性の問題を、民主主義によって選ばれたわけでもない裁判官が判断するのが妥当なのかどうか、という議論があるわけです。
原発の安全性を裁判所が判断できるのか
佐々木)韓国は例の慰安婦問題で、裁判所が判決を出したために韓国の外交がおかしくなってしまった。「外交に裁判所が口を出すのが是か非か」ということは、国際的にも重要な問題になって来ています。それと同じように、原発はなぜあの事故が起きてしまったのか。もちろんそこに人為的なミスがあったかどうかという議論も必要なのだけれど、一方で、再稼働をするときに、裁判所が「再稼働はダメです」と仮処分を出しているケースもここ数年でありました。あれも「原発の安全性を裁判所が判断できるのか」という話もある。
飯田)そうですね。
佐々木)ここは難しくて、裁判所の方も無関心なわけではない。震災の原発事故のあとに、NHKの報道で知りましたが、非公式の裁判官の集まりで、そういう勉強会が開かれたことがあるのだそうです。
「もう少し踏み込んで判決を出してもいいのではないか」と多くの裁判官が言うようになった
佐々木)これは裁判官独特の用語ですが、「複雑困難訴訟」と言っている。判断するのが難しい訴訟。いままでは原発の是非のような、裁判官の手に負えない問題に関しては、原子力規制委員会などが判断すると。その判断のプロセスに瑕疵(かし)がなかったかどうかという手続きを見ましょうと。それがいままでの日本の裁判官の考え方だったのです。ただ震災が起きたことで、「事後的なプロセスの瑕疵だけを見ることがいいのか」という議論になり、「もう少し踏み込んで判決を出してもいいのではないか」と多くの裁判官が言うようになり、その結果、「再稼働に対する仮処分の決定」などが出るようになりましたが、ここはまだ議論が続くところです。
飯田)株主代表訴訟のような形、代表ではないけれども、ということですので、経営陣の善管注意義務違反など、その辺りを問うことになるのでしょうけれども。これが民間の事業でもあり、国策民営でもあるというところの特殊性を考えると、単純に善管注意義務で行けるかどうかというのは複雑なわけですよね。
佐々木)もちろん、事故を予測できなかったのかどうかという、例えば東北電力だったら女川原発のように、高台に造っているケースもあるわけだから、海に近いところで全電源喪失になる可能性を想定できなかったのかという議論はできます。しかし、それが貞観津波以来の、1000年に1度という災害をどこまで考慮するかという問題は、とても難しい判断ですよね。
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