習近平氏が天安門で演説した「意図」~中国共産党100周年記念式典

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ニッポン放送「飯田浩司のOK! Cozy up!」(7月1日放送)に朝日新聞編集委員で元北京・ワシントン特派員の峯村健司が出演。北京で開かれた中国共産党の創立100周年の記念式典について解説した。

習近平氏が天安門で演説した「意図」~中国共産党100周年記念式典

中国共産党創建100年を記念する祝賀大会で、大型スクリーンに映し出された「中国共産党万歳」と叫んで拳を突き上げる習近平国家主席=2021年7月1日、北京の天安門広場(共同) 写真提供:共同通信社

中国共産党100周年式典が開催

中国共産党は7月1日、創立100周年の記念式典を北京で開いた。式典では習近平国家主席(共産党総書記)が演説し、「小康社会(ややゆとりのある社会)」の実現を宣言した。

「自分こそが毛沢東の正当な後継者である」ということをアピールしたい習近平氏

飯田)式典は天安門広場で開かれました。かつて毛沢東氏が演説した同じ天安門の楼上から、習近平氏が演説をしたということです。そこになぞらえるという向きがあるわけですか?

峯村)私は90周年のときには現地で、当時の胡錦濤国家主席の重要演説を取材をしました。当時は人民大会堂という少し離れたところで行われたのですが、今回あえて毛沢東が建国の宣言をした天安門を選んだということは、いまの習近平氏が毛沢東の次、「私こそが後継者である」ということをアピールする意図があるのだと思います。

飯田)毛沢東の後継者だと。

峯村)6月18日に習近平氏が最高指導部の常務委員を引き連れて、新しくできた歴史展覧館というところを視察に行きました。ここでは3つのコーナーがあって、1つが毛沢東コーナーであり、毛沢東の生い立ちからいかに彼が立派だったかということを示すコーナー。2つ目が習近平コーナーで、これも習近平氏の生い立ちからあります。そして3つ目は、鄧小平、江沢民、胡錦濤の3つを合わせて「ザクッ」と、何となく「改革、開放をやったコーナー」というように、端に追いやられている感じなのです。そのことを考えても、「自分こそが毛沢東の後継者である」というところを演出したいのだろうなと思います。

飯田)そうすると、文化大革命のあとから鄧小平、江沢民、胡錦濤と来たけれど、それは「つなぎだった」というイメージをつけたいわけですか。

峯村)そういうことですね。いままでで言うと、習近平氏は第5世代だと言われています。ただ、私が北京にいたときによく中国共産党関係者から聞いていた話では、習近平氏自身は仲間内に「5ではない。俺は2だ」と言っていたそうです。つまり、革命の第2世代であるということを強調しているのが彼のスタンスで、おそらく7月1日の式典や重要講話に関しても、「私こそが毛沢東の正当な後継者である」ということを全面に打ち出すのではないかと思います。

「毛沢東の新中国」と「習近平の新時代」

飯田)毛沢東は「新中国」で、習近平氏は「新時代」だというようなことですね。

峯村)最初、「習近平の新時代」と言ったときに、「何だそれは?」ということで、私も取材したのですが、やはり、「いままで毛沢東がつくって来たものは、とりあえずここで一区切りで、私が第2世代として新たな中国をつくるのだ」というのが習近平氏の核心的政策であるということです。憲法を改正し、国家主席の任期をなくして永遠にできるようになった。おそらく来年(2022年)の共産党大会で第3期目を迎えた時点で、「新時代」がそこから始まるということになるのではないでしょうか。

鄧小平氏のやって来たことをすべて反対にやっている習近平氏の政策

飯田)習近平氏が強調していたのが、中国の夢、「中華民族の偉大な復興」というものです。そのロジックから、外へも相当出て来るようになりました。いままで「韜光養晦」と言っていたのが嘘のようですけれども。

峯村)「韜光養晦」は、鄧小平氏が打ち出した外交コンセプトなのです。鄧小平氏のやって来たことをすべて反対にやっている、ひっくり返しているというのが、いまの習近平氏の政策だと理解していいと思います。改革開放もそうです。もちろん、改革開放はいい部分もあったけれど、腐敗が増えた。貧富の格差が増えた。だからこそ大企業、先日のジャック・マーさん。

飯田)アリババの。

峯村)あの人たちを取り締まったのも、「大資本家たちの暴走は許さない」という強いメッセージですよね。

「分裂国家は一流になりえない」が習近平氏の考え方

飯田)その部分で、香港も相当やられました。報道の自由や言論の自由も奪われ、新聞もアップル・デイリーが廃刊に追い込まれた。その辺りも、あらゆる面で党の指導が全面に立って来るようになっているということですか?

峯村)習近平氏が掲げる政治スローガンである「中国の夢」というのは、3つコンセプトがあるのですが、そのなかでも最も重要なのが「統一の夢」なのです。「中国の夢」をつくった中国軍幹部にインタビューをしたことがあるのですが、「この『統一の夢』なくして『中国の夢』はない。大国もありえない」というのが彼らの考え方なのです。統一で言うと、香港を一国二制度ではなく、1つの完全な中国の領域にする。さらに台湾です。「分裂国家は一流になりえない」というのが彼の考え方なので、統一するように動くというのが必然の流れだと思います。

台湾有事は日本の危機

飯田)日本にとっては、台湾で何か起こるとなると、日本に入って来る船、経済が止まるということもそうだし、安全保障上ももちろんそうですが、他人事ではないですよね。

峯村)2つの意味で他人事ではありません。1つは、中国軍が海上封鎖をする可能性があります。それによって、台湾海峡や台湾周辺を船が自由に通れなくなった場合、日本のシーレーンは封鎖されかねないのです。日本の石油の備蓄量は輸入量の90日分しかないのです。実質90日以上、海上封鎖が続いてしまったら、日本の石油が干上がってしまう状況というのが1つ。

飯田)石油の備蓄が。

峯村)もう1つは、米軍が出撃する場合、在日米軍基地が拠点になります。ですので、ここが最前線になるのは必然なのです。台湾有事の話をすると、国会議員の方が「大変だね、台湾は」とおっしゃるのですが、「違います。即、イコール日本の危機なのです」と必ず言います。ここは我が事として考えなければいけません。

台湾有事の場合、自衛隊も活動する必要がある

飯田)米軍基地が狙われるのはもちろんそうだと思いますが、当然、自衛隊も何らかの活動をしなければいけないということになりますよね。

峯村)もし、仮にここで自衛隊が何も対応しなかった場合、米軍からの不信感も出て来るわけですし、直接的な日本の被害も出て来るとなると、日米同盟にも悪影響が及びかねない。やはり、いろいろなシナリオなり、危機管理の想定というのは、早急にやる必要があると思います。

飯田)そういうことが、しかも、もっと先のことだろうと思っていたことが、そうでもなくなって来ている。

峯村)そうですね。中国経済の発展が速くて、新型コロナの影響もあり、2028年には、中国のGDPがアメリカを抜くかも知れないという予測もあります。そうなると、その速度が早まるかも知れません。

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