新型コロナワクチン接種で露呈した「マイナンバー制度の問題」

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ニッポン放送「飯田浩司のOK! Cozy up!」(7月21日放送)にジャーナリストの佐々木俊尚が出演。厚生労働省が米モデルナと武田薬品工業から新型コロナウイルスワクチン5000万回分の追加供給を受ける契約を結んだことを発表したというニュースについて解説した。

新型コロナワクチン接種で露呈した「マイナンバー制度の問題」

Photo illustrations in Ukraine; Moderna says its vaccine is 94.5% effective in preventing COVID-19-16 Nov 2020=Sipa USA/時事通信フォト

2022年初めにモデルナ製ワクチン5000万回分追加

厚生労働省は7月20日、早ければ2022年の初めにも、アメリカのモデルナ社と武田薬品工業から新型コロナウイルスワクチン5000万回分の追加供給を受ける契約を結んだと発表した。モデルナは3回目の追加接種用や変異ウイルスに対応したワクチンを開発中で、承認されればこのワクチンの供給を受けることも可能となる。

飯田)田村厚生労働大臣は新たな変異株に対応するワクチンができた場合は、この枠のなかで確保すると強調しています。

佐々木)本当に素早い動きでありがたいですね。そもそも日本政府は2020年のかなり早い段階でファイザー、モデルナと契約して、人口分くらいの確保をしています。これはもっと褒められていいと思うのですが、あまり話題になっていないのはどういうことなのでしょうか。ネットでは話題になっているのですけれどね。

2020年5月にはワクチンを確保していた安倍政権

佐々木)いろいろな人が検証していますが、確保した時期は、1年くらい前ですよね。2020年5月くらいなのかな。そのころはまだワクチンが開発されるかどうかもはっきりしなかった。実際に臨床が始まったのは暮れぐらいになってからですので、かなり曖昧模糊としていたのだけれども、その段階で当時の安倍政権が、いち早く確保していたのは素晴らしかったと思います。

飯田)その段階で確保していた。

佐々木)そのころメディアや立憲民主党はどうしていたかというと、「全員にPCR検査」と言っていたのです。「ワクチン頼みなどおかしい」ということを言っていたのですが、いまになって急に「日本のワクチン確保が遅れているのはどういうことだ」と。アメリカ・イギリスは12月から接種を始めて、日本は2月くらいからです。でも2ヵ月遅れたのは、確保はしていたのだけれども、EUの輸出規制があって自由に輸入できなかったということと、もう1つは国内での臨床を野党が要求したということもあります。

飯田)臨時国会で予防接種法の改正のときに、付帯決議が付いたのですよね。

需給ミスマッチで足りなくなっている~すべて理由はわかっている

佐々木)それをやっていたおかげで2ヵ月遅れただけです。基本的にはワクチンは足りている。いまも「ワクチンが足りない」と大騒ぎしている人がいるけれども、数は足りているはずなのだけれど、一部接種が早く進み過ぎたせいで、需給ミスマッチというか、ロジスティクスがうまく行っていなくて、足りなくなっているだけの状況です。

飯田)需給のミスマッチ。

佐々木)もう1つがVRSという、「これだけワクチンを打ちましたよ」と自治体が入力するワクチン接種記録システムがあります。その数字を見て国の方が追加でワクチンを出すというやり方をしていたのだけれども、VRSの入力を自治体がやっていない場合があったのです。VRSの記録から「接種していないワクチンがたくさんある」と国が判断して、「在庫があるでしょう」と言っていたら、実はなくなっていたというミスマッチが起きているなど、すべて理由がわかっているのですよね。

文句を言う必要がないところに、文句を言い続けている

佐々木)実際に先週、ロジスティクス担当の河野大臣が、自治体に行っているはずなのに足りていないのはおかしいから、自治体に一体いくら供給しているか数字を出しますと。それと実際の接種数を見れば、どこにワクチンが余っているのかわかるはずだと。自治体の方は「国でたくさん余っているのに全部腐らせておいて、自治体に来ていない」と文句を言っているけれども、実は自治体にもう行っているのです。河野大臣は「数字を証明しましょう」と言って、実際に官邸のホームページなどに出ています。いろいろな状況がすべて見えて来ているのです。「文句を言う必要がないところに、文句を言い続けている」というのが、いまの状況なのではないでしょうか。

新型コロナワクチン接種で露呈した「マイナンバー制度の問題」

ワクチンの高齢者優先接種に向け、愛知県豊川市が発送準備を進めている接種券やチラシが入った封筒=2021年3月23日 写真提供:共同通信社

人口の多い都心部と過疎地とのミスマッチ

飯田)自治体に在庫があるではないか、というようなところも、1回目を接種すると大体2回目の予約をみんな取るので、その予約分がいま在庫として確保されている分である、ということも自治体を取材すると見えて来ます。あとはもしミスマッチがあるとすると、人口がたくさんいるところと、地方の過疎地との間のミスマッチ。これをどう解決するかになりますね。

佐々木)人口が少なければ管理するのも簡単ですから、1000人の町や村の方が早く進んでいる。逆に何十万人も人口がいる自治体は進んでいない。

渋谷区と世田谷区のシステムの違い

佐々木)予約システムにも、自治体によって、いいもの、悪いものという差があります。私は渋谷区に住んでいるのですが、渋谷区はクリニックの個別接種と集団接種が両方同じシステムで予約できるので、スムーズに予約できるのです。集団接種会場を予約しようと思ったら全部埋まっていたけれど、個別のクリニックを見たら家の近所でやっているところがたくさんあって、そこに空きがあったので予約できました。

飯田)渋谷区では。

佐々木)でも、隣の世田谷区を見ていると、世田谷区は集団接種会場の予約はシステムでできるのだけれども、個別のクリニックはシステムで予約ができるところが少なくて、「個別のクリニックに電話してください」と書いてある。そうすると、みんなは電話をしまくって探さなくてはならない。しかも空いている時間がいつかわからないので、かなり混乱しているようです。世田谷区は「1回目の予約はできたのだけれども、2回目の予約ができない」という人がたくさん出ているという話も聞きます。2回目はいつでもいいというわけではなくて、3週間後、できれば6週間目までに予約をしてくださいということになっています。だから3週間しか間がないわけですよね。1回目が予約できたのに、2回目として3週間の枠が空いていないと、「一体いつ打てばいいのですか」というような話になって大混乱してしまう。自治体によってシステムの違いもあるようなので、その混乱もあるのかも知れません。

マイナンバーが普及していないために、大規模接種会場では予約システムに接種券番号を入れることに

飯田)その辺りの横展開のようなことがどこまでできるのか。

佐々木)国のシステムで一括して、一発で予約できるようにすれば、自治体の負担も少ないのです。しかし、これをやるためには、マイナンバーなりの国民IDが普及していなければできません。国民IDがないから、結局、住民票を持っている自治体に頼るしかない、自治体毎にやるしかないということになるのです。

飯田)国民IDがないために。

佐々木)自衛隊が大規模接種会場を大手町でやった際も、自治体とマイナンバー、住民票のデータを自衛隊がもらえないから、予約システムに接種券番号を入れても、それが真正なものなのか確かめる術がないというので、二重予約が出てしまった。そしてそれも叩かれる。

飯田)二重予約、ありましたね。

佐々木)いろいろなことを考えると、最終的にはマイナンバーが普及していないとできないのです。国民IDのような、マイナンバー的なものが必要だと70年代から言われて来たのに、メディアの反対や世論の反対で実現していなかったという問題が、ここに来て露わになっているのです。

新型コロナワクチン接種で露呈した「マイナンバー制度の問題」

Corona vaccine is being tested. Themed picture, symbolic photo: Corona vaccine. SVEN SIMON/DPA/共同通信イメージズ 写真提供:共同通信社

国民IDを拒否して来たことが今回の不備の原因になっている

飯田)自衛隊の大規模接種センターは、最終的には接種券で本人確認をするしかないと。

佐々木)現地でやるしかないですね。

飯田)となると、「接種券が来ない人はどうするのだ」と。「職域はなくてもやれているではないか」という話にもなって来る。

佐々木)いくらでも批判はできるのです。でもその批判の原因になっている不備が、なぜ起きているかと言うと、「あなたたちが国民IDやマイナンバーがいやだいやだと言い続けて来たからだ」ということで、そこを看過して結果だけに文句を言うのは間違っていると思います。

飯田)いまもある議論ですけれども、あの当時、それを導入するために議論しようとしたところで、「国が個人を管理する国民総背番号制だ」と言って。

佐々木)「監視社会だ」と。

飯田)入り口で拒否をしてしまうので、中身の運用で、どうやって自由を担保して行くかという話に至らなかった。

「国民ID」が最初に提唱されたのは佐藤栄作政権のとき

佐々木)ちなみに70年代、佐藤栄作政権のときに、最初に国民IDが提唱されました。なぜやろうとしたかというと、当時の大蔵省主導で、「脱税を防ぐために国民IDが必要だ」と言って導入しようとした。当時、それはサラリーマンにとっていいことであり、中小企業の社長にとっては困るという話で、導入に対して、朝日新聞と毎日新聞は賛成しているのですよ。

飯田)大蔵省の主導で。

佐々木)ところが、これが80年~90年代くらいになると、ジョージ・オーウェルの『1984』という小説がベストセラーになるなど、「監視社会はけしからん」という風潮が起きて、徐々に反対に行ってしまった。いまでも本来的な目的は、やはり金融資産と毎月の給料を紐付けることによって、例えば給付などに対する不公平感をなくす、ということが最大の眼目なわけだから、そこに反対する理由はないと思うのです。

「監視社会はけしからん」ということで何となく反対してしまっているのが現状~再び国民IDの必然性を議論するとき

佐々木)それを何となく「監視社会はけしからん」ということで反対してしまっているのが現状です。ここで改めて、ワクチンをきちんと接種させる、3回目もやらなくてはいけないかも知れない、もしかしたら今後、新しいパンデミックが起きて、新しいワクチンを打たなければいけないという状況が出て来る可能性を考えれば、ここでもう1回、「国民IDと社会福祉の公正さのバランスはどこにあるのか」という議論をしなければならないと思います。

飯田)そのためには、どこがデータを扱うかであるとか、全部を見られるわけではなく、目的の部分だけ見られるようにするなど、やりようはいくらでもある。

佐々木)少なくとも健康保険証とマイナンバーの紐付けをして、自由に行き来できるようにする必要はあるでしょうね。

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