卓球・水谷選手への中国からの誹謗中傷問題を考える 佐々木俊尚

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ニッポン放送「飯田浩司のOK! Cozy up!」(8月4日放送)にジャーナリストの佐々木俊尚が出演。インターネットで東京オリンピック出場選手への誹謗中傷が相次ぎ、IOCが対応する取り組みを進めていることについて解説した。

卓球混合ダブルスで金メダルを獲得した後、誹謗(ひぼう)中傷のメッセージが相次いでいると明かした水谷隼選手の投稿[ツイッターより] 写真提供:時事通信

オリンピック出場選手への誹謗中傷、IOCも対応へ

東京オリンピックで、国内外の出場選手たちがインターネット上で誹謗中傷の被害を受けるケースが相次ぎ、国際オリンピック委員会(IOC)が24時間態勢の相談窓口を設け、カウンセリングを行う取り組みを進めている。

飯田)佐々木さんはSNSの誹謗中傷の半減を目的とする一般社団法人「この指とめよう」のアドバイザリーボードのメンバーでもあります。日本の選手もかなり標的になっていますが。

卓球の水谷選手への誹謗中傷~反論に対し「差別だ」

佐々木)これにはいくつかのポイントがあります。まず1つは卓球の水谷選手がそうですけれども、中国語でかなりの誹謗中傷を受けているということです。これに対して、水谷選手が抗議をしたら、「中国を中傷するとは何事だ」「人権侵害だ」「差別だ」と怒る人がたくさんいました。中国や東南アジアなど、日本がかつて戦争をした相手国から誹謗中傷されたら、それを甘んじて受け入れなければいけないのかという問題が起きています。国によって強弱をつける必要があるのかどうかということです。

飯田)その国によって。

佐々木)この問題をさらに考えると、弱者が強者に対して非難するのが許されるのか。例えば性的マイノリティであるLGBTの人が、LGBTでない人に誹謗中傷をするのが正義なのかどうかという問題にもつながって来るわけです。

反権力なら正しいのか~正義に傾斜をつけてしまうことが本当にいいのか

佐々木)私はよくツイッターで誹謗中傷をされて、「そういう言い方はやめてもらえますか」と反論すると、「トーン・ポリシングだ」と怒る人がいます。トーン・ポリシングが何かと言うと、「抗議の声をあげるときは礼儀正しくする必要はない」という考え方なわけです。それは確かに1対1の対面で、例えば女性が自分の権利が侵されているときに、目の前の男性に対して「ひどいことをしないでください」と怒った場合、「そんなに大きな声を出すなよ」とたしなめるという状況では、トーン・ポリシングは正しいのです。けれども、ネット上で大量に罵声を浴びせていることに反論した際、「トーン・ポリシングだ」と反応することは合っているのか。それは自己正当化に使っているに過ぎないのではないかと思うのです。中国の誹謗中傷の問題も、すべてに共通して言えるのは、「反権力なら正しい」とか「中国の擁護なら正しい」とか、「弱者が正しい」というように、「正義に傾斜をつけてしまうことが本当にいいのか」という問題です。

建物に描かれた東京五輪・パラリンピックのエンブレム=2021年6月2日午後、東京都目黒区 写真提供:共同通信社

どんな場合であれ、誹謗中傷をしてはいけない

佐々木)私はそれにはまったく反対で、どんな国であろうが、どんな弱者であろうが、やはり誹謗中傷はいけないということです。一般社団法人「この指とめよう」は、現在は事実上、停止してしまっています。理念はよかったと思うのだけれど、「この指とめよう」を主催している団体の事務局長が「ネトウヨに対して文句を言うのは当然だ」というようなことをリツイートしてしまい、政治的に傾斜がついていたことが批判されたわけです。この人の理念は正しいのだけれど、そこに政治的傾斜をつけたのは間違っていたと思います。

飯田)政治的傾斜をつけてしまった。

佐々木)どんな政治的な意見であれ、反権力であれ、何であれ、誹謗中傷はいけません。「この指とめよう」の理念のなかに、「誹謗中傷した人に対して誹謗中傷するのも誹謗中傷です」というものがあります。誰かが何か間違ったことをして、それに対してみんなが攻撃するということもよくないわけで、どんな場面であれ、どんな姿勢であれ、どんな立ち位置であれ、やはり「誹謗中傷をしてはいけない」という基本理念は崩してはいけないと思います。「反権力無罪」のようなことを言ってはいけないと思います。

「怒っていればいい」というやり方では、ものごとは解決しない

飯田)最近は理を尽くして、きちんとルールとマナーを守って議論しようとすると、今度は、「それは冷笑系ですね」というようなことになりますが、それもまた違うだろうという話ですよね。

佐々木)人に対して「熱く文句を言うことが正しい」と思っている人が多いのですが、それでは何も進まないと思います。そういうことを言うと今度は、「怒りが社会を動かす原動力だ」と言われます。確かに怒りはある場面では必要です。しかし怒りを怒りだけで終わらせていれば、それはただの発散であって、社会を変える原動力にはなりません。もちろん、いまのベラルーシやミャンマーのような厳しい状況であれば別ですけれども、いまの日本は議論が成立する民主主義国ですから。

飯田)言論の自由はきちんと保障されている。

佐々木)そうです。何を言っても自由ですし、ロシアやミャンマーのように、何か言ったら逮捕されるわけではありません。そういう状況のなかで冷静に話し合って、落としどころを見つけるのが正しいやり方で、怒っていればいい、何か文句を言っていればいい、正義の名のもとに誰かに鉄槌を下していればいいというやり方では、いつまでたってもものごとは進まないし、解決しないというところに立ち返る必要があるのではないかと思います。

ニッポン放送「飯田浩司のOK! Cozy up!」

「自分のやっていることが正義」だと思っている人が多い~「こんなことを軽々しくやると、警察に捕まって有罪判決を受ける」ということを見せるしかない

佐々木)もう1つの問題は、立ち位置の問題だけではなくて、「誹謗中傷をすることが正義」だと思っている人が多いということです。

飯田)誹謗中傷をすることが正義だと。

佐々木)「オリンピック出場選手に対して、誹謗中傷するなんてあり得ない」とみんなは思うのですけれど、もとをただせば反五輪で「オリンピックを止めましょう」ということだったのです。この意見は1つの見識としてありだと思います。ただ、「五輪反対だ」という意見のために、なぜ選手を誹謗中傷する必要があるのかということです。しかし、彼らとしては誹謗中傷をすることが反五輪のための正しい行いであり、それが正義だと思い込んでしまっているのです。

飯田)選手を誹謗中傷することが。

佐々木)自分がやっていることが正義だと思っている人に対しては、何を言っても届かないのです。正しいと思っているから。悪いと思いながら悪い行いをする人はいますよね。例えばオレオレ詐欺をやる人は、それが正しいとは思っていないわけです。なかには正しいと思っている人もいるかも知れませんが、たいていの犯罪者は自分のやっていることは犯罪だけれども、金のために仕方なくやっているのだとか、世の中は悪いことをやる人がいるくらいが面白いだろうという愉快犯もいるわけです。

飯田)このくらいだったらいいだろう、とかですね。

佐々木)それが正義だと思っている人はあまりいません。ですが、誹謗中傷の問題は、「自分のやっていることが正義」だと思っている人が多いということです。これを正すのは難しいので、そこはモラルに頼るとか、教育でという話ではなく、強制捜査などを行って、きちんと法の下に警察が介入し、一罰百戒で「こんなことを軽々しくやると、警察に捕まって有罪判決を受ける」ということを見せるしかないのではないかという段階に来ていると思います。

飯田)言論の自由とのトレードオフだけれども、そこで人を傷つけるようなことをやった場合には、きちんと線引きして対応するということをしなくてはいけない。

佐々木)責任を取ってもらうしかないのではないかと思います。そういうことをやらないと、自分を正義だと思っている人は変わりません。

インターネットは破壊的で強力な技術なので、時間をかけて使いこなして行くしかない

佐々木)いまの状況を変えて行けば、いずれ私たちはインターネットを使いこなせるようになるのではないかと思います。ネットは誰でも自由に発信できますが、その技術はある意味、「軍事技術と同じくらいの破壊的なものであった」ということを、田中辰雄さんという慶應大学の先生が以前におっしゃっていて、「なるほど」と思ったことがあります。軍事だって、第一次世界大戦のころは毒ガスをまき散らしたりして、制御できないほどに人が死んだのだけれど、2つの大きな大戦を経て、核を抑止したり、大量破壊兵器を使わないようにしようということで抑え込んで来ました。

飯田)大戦を経て。

佐々木)それと同じように、インターネットは破壊的で強力な技術ですから、時間をかけて使いこなして行くしかないということです。いまはまだ過渡期だということです。その過渡期のなかで、昔どこかの軍隊が毒ガスをまき散らしたりしたのと同じように、乱暴に振り回している人がたくさんいるという状況なのです。50年くらい経って振り返ってみれば、「あのころは本当に乱暴な人がたくさんいたよね」ということになると思います。

飯田)弱肉強食だったよねと。

佐々木)そういう時代が来るのではないかと、私は楽観的に思っています。

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