アフガン政権崩壊から1週間 ~今後日本がするべき「2つのこと」

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ニッポン放送「飯田浩司のOK! Cozy up!」(8月23日放送)に慶應義塾大学教授で国際政治学者の細谷雄一が出演。アフガニスタンの現状と今後について解説した。

16日、カブールの空港で、旅客機の上に上がったアフガニスタンの人々(アフガニスタン・カブール)=2021年8月16日 AFP=時事 写真提供:時事通信

アフガニスタンをめぐるアメリカの動き~9月11日に式典を開き、そこで完全に撤退をしたいバイデン大統領

アフガニスタンで武装勢力タリバンが実権を掌握してから8月22日で1週間を迎えた。首都カブールには、タリバンの実質ナンバー2で政治部門トップのバラダル幹部が入り、今後、新政権の枠組みが協議される見込みである。

飯田)実権掌握から1週間が経ちます。各国、慎重に状況を見極めているという状態ですが、どうご覧になりますか?

細谷)春くらいから、タリバン政権がいずれできるのではないかということ、あるいはいまのアフガニスタン政権が持たないのではないかということが言われていました。5月、6月、7月には、やはりアメリカがこれからアフガニスタンの政府を支えなくてはいけないという議論も出ていました。

飯田)アメリカが。

細谷)ところが、バイデン大統領は、何が何でも9月11日に式典を開いて、そこで完全に撤退し、権力を渡したいということなのです。そのことで逆にアフガニスタン政府が孤立してしまい、タリバンが「前に進んでもアメリカが反撃して来ないだろう」ということで、一気に進み、それが成功した。今回のタリバンは緻密に戦略を練った結果として、予想よりも早く権力を奪取できたということだと思います。

オバマ政権時からアフガニスタンへの関与に否定的であったバイデン大統領

飯田)9月11日。あの同時多発テロから20年。そこで、ある意味の象徴としてセレモニーを開きたいと。バイデン政権としてはレガシーのようなものを求めたところがあったのですか?

細谷)そうですね。バイデン大統領は、オバマ政権の副大統領のころから、アフガニスタンへの関与には否定的でした。本人が大統領になって、アフガニスタンに関与したくないという本人の意向も出てしまったのだと思います。

尖閣諸島の問題、台湾の問題について、同盟強化を進めることが重要

飯田)その光景を見ると、ベトナム戦争末期における最後の陥落を想起させるような、それと結びつけるような論説もありますが、世界に与えた衝撃も相当大きいですか?

細谷)そうですね。アメリカがアフガニスタンという国家を支えることができなかったということで、中国が8月16日の「環球時報」という共産党に近い新聞で、徹底的に宣伝に使っています。「台湾もどうせアメリカに見捨てられるだろう」ということを言っています。NATOのなかでも、戦略的自立ということで、過度にアメリカに依存せず、ヨーロッパの安全保障の問題はヨーロッパで解決しようという動きもあります。これは日米同盟にとっても、アメリカが信用できないということではないけれども、アメリカがどの程度関与するのか。尖閣諸島の問題、台湾の問題などについて、同盟強化をこれから進めて行くことが重要だと思いますね。

アメリカが軍事支援をできる国は、自助努力をしている国だけ~バンデンバーグ決議

飯田)アメリカの撤退表明というか、改めて説明した先週のバイデン大統領の演説のなかには、自ら守ろうとしない国をアメリカ軍が守ることはないという、意訳ですけれども、そういう趣旨の発言があったと。そこで日本国内でも、主語をアフガニスタンではなく日本に変えたときに、同じことが言えるのではないかという議論もありました。

細谷)1948年、アメリカがNATOをつくる1年前ですが、アメリカの上院議会で「バンデンバーグ決議」というものが出ました。これは、「アメリカが軍事支援をできる国は、自助努力をしている国だけだ」というものです。日本の場合、当時は軍隊がありませんでしたから、日本が日米安保条約を1951年9月に締結する上で、日本の自助努力が必要であると。そこで警察予備隊、さらには自衛隊がつくられるのです。自衛隊がなければ、日米同盟はつくれない、つまり自衛隊が自助努力をしているというある意味の証拠になるわけです。

就任式で宣誓後、手を振るバイデン米新大統領=2021年1月20日、ワシントンの連邦議会議事堂(ロイター=共同) 写真提供:共同通信社

これまで以上に日本には防衛努力が求められる

細谷)ところがアメリカの善意に甘えて、ヨーロッパも日本も十分な防衛努力、防衛費を費やして来なかった。そのことに対する不満がアメリカのなかで大きくなった。バイデン政権も中間層のための外交と言っているのです。何のために外交をするかというと、外国を助けるためではなく、アメリカのミドルクラスを助けるためだと。そうなれば、日本が自助努力、防衛努力をせず、アメリカが助けてくれるから何もやらなくていいだろうということは、いままで以上に言いにくくなるだろうと思います。

飯田)一連の安保法制の議論のところで、政権側が言っていたのは、まさにそのことですよね。「アメリカの青年たちが血を流すのに、日本が何もしないのは通らないではないか」と。

細谷)いままで日本は基地を貸しているから、それが日本の自助努力だと。だからアメリカが助けに来いというロジックがあったのですが、それはもう通用しない。同盟国として、日本も自助努力をしないといけないということで、それが安保法制にもつながりますし、今回のアフガニスタンの問題、「アフガニスタンは自分たちで自分たちの国を守ろうとしていない」ということにもつながるのです。そういう国に対してアメリカは軍事支援ができない。これはもともとバンデンバーグ決議、あとはMSA協定と言われるもので、アメリカでは国内法上、前提としてあるのです。それがいままで日本のなかでも、十分に理解されていなかったのかも知れないですね。

邦人救出に自衛隊機を派遣~政府の的確な判断

飯田)安保法制をめぐり、今回のアフガニスタンの件で1つポイントとなったのが、「邦人をどう守るか、救出するか」、あるいは「協力者たちの救出」ということです。邦人の保護、退避に対して、ようやく自衛隊機を派遣するということが22日辺りに出て来ました。

細谷)議論されていますが、これも安保法制によって、ようやく自衛隊法を改正して邦人救出のために自衛隊行動ができるようになった。いままではこれができませんでした。南スーダンでも実践しましたけれども、安保法制ができるまでは、外国にいる邦人を助けるには、外国の善意に頼っていたのです。誰かが助けてくれるだろうということでした。しかし、アメリカでさえも、1万人以上残っている人のうち、2000人しか脱出できていない。飛行機が足りないのです。特に輸送機が足りない。

飯田)輸送機が足りない。

細谷)軍が性能の高い輸送機を持っている国はあまり多くないのです。アフガニスタンの戦争が終わったあとに、アフガニスタンのなかでNATOのISAFという形で支援する上で、アフガニスタン国内での人の移動のために、日本に輸送機を貸してくれと何度も依頼があったのです。しかし、日本は危ないからと、これを断っています。実は輸送機をアフガニスタンに運んで人を移動することは、自衛隊のなかでは検討されています。安保法制もできましたから、内戦中よりもいまの方が、自衛隊機を飛ばして邦人の救出がやりやすい。今回の政府の判断は的確な判断だと思います。

日本の輸送機で、日本大使館で働いていた現地の人、またアメリカの民間人を救出するべき

飯田)当初、大使館員12人の方々はイギリス機で退避したということが報じられていて、「イラン・イラク戦争のテヘランのときのように、外国の飛行機に頼るのか」ということになりました。根回しに時間がかかったということはあるかも知れませんが、この決断は大きいものになるのではないですか?

細谷)初期の段階で、イギリスの軍用機によって日本の外交官は助けてもらいましたが、あのときも政府内で検討されたということが報道で出ていました。日本の外交官を助けるためには、自衛隊機を出す必要があるのではないかと。もちろん日本の方がイギリスよりはるかにプロセスに時間がかかりますから、あの段階でイギリスの軍用機で国外に脱出したことは正解だったかも知れません。しかし、いま残っている、日本の大使館のために、日本の外交官のために働いてくれた現地の職員が、これから処刑される可能性があります。そういう人たちを他の国々は救済しています。日本だけ見捨てるということになると、これから他の大使館でも、日本のために現地の人たちが働こうと思わないかも知れません。そうならないためにも、日本の輸送機を用いて、彼らを救済し、さらにアメリカの民間人も救済することが日本に対する国際的なイメージに大きく貢献すると思います。

邦人の救出を経験することは、自衛隊にとっても重要な先例になる

飯田)ただし、それには当然のことながらリスクも伴うことになります。この辺りは、一歩進んだ覚悟のようなものも必要になりますか?

細谷)台湾で有事が起きるかも知れないし、尖閣諸島だけではなく、沖縄、先島諸島のなかで、いずれ何らかの形で有事が起きることもいま議論しなくてはいけない段階に来ていると思います。そのようななかで、安全に邦人を救出するということをオペレーションとして、今回経験することは、自衛隊にとっても重要な先例になるのではないかと思います。南スーダンで1度成功させていますから、難しいオペレーションですが、政府の判断は必要な判断だったと思います。

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