あけの語りびと

製薬会社での経験が「ワイン醸造」にも活きる? “環境に優しく美味しいワイン”のために

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それぞれの朝は、それぞれの物語を連れてやってきます。

製薬会社での経験が「ワイン醸造」にも活きる? “環境に優しく美味しいワイン”のために

写真提供:ビーズニーズヴィンヤーズ

緊急事態宣言が明けて、久しぶりに居酒屋さんがにぎわっています。不特定多数の人が集まる場所とはいえ、いままでにない出会いがあるのもお酒の席。お酒の席での「出会い」が、その後の人生を大きく変えたという経験をお持ちの方もいるかも知れません。

茨城県つくば市にお住まいの今村ことよさん・48歳は、東京の酒場で出会った1本の「ワイン」から、人生の歯車が大きく回り始めた女性です。

製薬会社での経験が「ワイン醸造」にも活きる? “環境に優しく美味しいワイン”のために

写真提供:ビーズニーズヴィンヤーズ

今村さんは、いまの茨城県守谷市のご出身。地元の筑波大学と、その大学院で「生物学」を研究して、28歳のときに東京の大手製薬会社に就職しました。

それまでずっと、ふるさとを出ることは考えなかったという今村さん。東京暮らしの新鮮さから、きらめくネオンの下、いろいろなお店を飲み歩きました。するとワインの美味しさに魅了され、ついには毎月のお給料の大半をワインに注ぎ込むほどになってしまいました。ただ、「その甲斐あって、ワインエキスパートの資格を取得できた」と今村さんは笑います。

製薬会社での経験が「ワイン醸造」にも活きる? “環境に優しく美味しいワイン”のために

写真提供:ビーズニーズヴィンヤーズ

時を同じくして、本業では膝の関節の研究に携わっていました。なかでも、「骨粗しょう症の薬が、関節リウマチによる骨の破壊を防ぐこと」を確認するための臨床試験は、日本以外の国がどこも手掛けていなかったことから、仕事にも大いにやりがいを感じていました。

しかし、そこへ襲ったのが東日本大震災でした。今村さんは東京での暮らしと、自分の将来に大きな不安を覚えます。

「私たちの世代は年金がもらえても、決して額は大きくないかも知れない。きっと、生涯ずっと働き続けなければならないはずだ。せっかくずっと働くなら、自分が楽しいことをしたい」

そう考えた今村さんは、関節リウマチの薬の実用化にメドが立った40歳のとき、製薬会社を退社。ワイン醸造家を目指して長野県東御市のワイナリーで修業し、独立したら、ふるさと・茨城のつくばでぶどう園を開こうと決心したのです。

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写真提供:ビーズニーズヴィンヤーズ

今村さんが「つくばでぶどうをつくりたい」と思ったのには理由があります。それは、つくばの「土」です。

筑波山の麓には、山を形づくっている「花崗岩(かこうがん)」が崩れて積もった、水はけがよくミネラルが多い土地がありました。世界にも花崗岩に由来する土を持った有名な地域があります。

イタリアのサルデーニャ島、フランスのアルザス地方、そしてボジョレー。世界の有名なワインの産地には、共通する土があるのです。今村さんはかつて、居酒屋をはしごしながらワインを飲み歩いたり、知識を学んだなかでその事実を見つけ出していました。

2015年、信州でのワイン修業を終えた今村さんは、つくばにぶどう園「ビーズニーズヴィンヤーズ」を開きました。2年後には自ら育てたぶどうを使って、委託生産の形でワインの商品化に成功。いまは1.5ヘクタール、テニスコートがおよそ60面取れるくらいの土地で、本場・ヨーロッパに由来する4000本ほどのぶどうの木を、1人で育てています。

製薬会社での経験が「ワイン醸造」にも活きる? “環境に優しく美味しいワイン”のために

写真提供:ビーズニーズヴィンヤーズ

ぶどうづくりで最も大変なことは、ぶどうを病気から守ること。日本の湿気の多い気候では病気が発生しやすく、一定量の農薬が必要だそうです。

今村さんは、農薬にも大学や製薬会社で培った「薬」の知識を活かしています。独自に農薬の組み合わせを考え、できるだけ使う量を減らしながら、ぶどうの木が持つ力を引き出したいと言います。

じつは今村さんには、ぶどうづくりの間に気付いた1つの仮説があります。「いい香りがするワインは、比較的農薬の量が少ないのではないか」ということです。いい香りの成分を分析して行くと、木が持つ病気への抵抗力の成分、人間で言えば「免疫力」のようなものに由来しているようなのです。

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写真提供:ビーズニーズヴィンヤーズ

少しでも環境に優しく、ぶどうの木が持つ「自然の力」を引き出すことが、結果として香りのいい、美味しいワインをつくることにつながるかも知れない。科学的な証明はまだですが、いずれは詳しい研究を行っている先生と組んで、明らかにしてみたいそうです。

この秋は、地元・茨城や東京からのボランティアの皆さんの助けを借りながら、およそ5トンのぶどうを収穫することができました。今年(2021年)は梅雨明けが早く、実が熟する時期に気温が高かったため、色の付き具合に影響があったそうです。黒ぶどうの色はやや薄めですが、香りや味は良好なのだとか。

一方、白ぶどうはワインの原料として、とてもいい状態で収穫できたと言います。既に発酵作業に入り、2022年の春以降、ワインとして出荷予定とのこと。今年は新たなチャレンジとして、出来立てのヌーボーも近々販売予定だと言います。

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写真提供:ビーズニーズヴィンヤーズ

今後は、つくばにワイナリーもつくりたいと意気込む今村さん。ぶどう園の名前にもある「ビーズニーズ」とは、1920年代にアメリカで生まれた「エクセレント」という意味の造語。今村さんは、現代のSNSの「いいね」くらいの意味ではないかと考えているそうです。

「首都圏の台所・茨城の食材を使ったご飯には、茨城のお酒がきっと合います。だから、しっかりと熟成させた『いいね!』と言われるワインを提供したい」

そう力強く話す今村さんの瞳は、強い自信に満ち溢れ、輝いています。

番組情報

上柳昌彦 あさぼらけ

月曜 5:00-6:00 火-金曜 4:30-6:00

番組HP

眠い朝、辛い朝、元気な朝、、、、それぞれの気持ちをもって朝を迎える皆さん一人一人に その日一日を10%前向きになってもらえるように心がけているトークラジオ

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