経済成長のための予算がどこまで機能するか
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ニッポン放送「飯田浩司のOK! Cozy up!」(11月30日放送)に経済アナリストのジョセフ・クラフトが出演。政府が固めた2020年5月までを景気の谷と認定する方針について解説した。
2020年5月が景気の谷か、内閣府認定へ
政府は、2018年11月から始まった景気後退局面が2020年5月に終わったと認定する方針を固めた。11月30日に開かれる「景気動向指数研究会」で内閣府が正式に認定する。
飯田)2020年5月というと、1回目の緊急事態宣言の真っ只中ですよね。
クラフト)振り返ってみれば、その時期が底だというのは当たり前で、むしろ大事なのは今後です。どうやって景気をまた戻して行くかが問われるところです。今回発表した予算がバラ撒きだという批判がありますけれども、私はどちらかと言うと肯定的な見方をしています。
今回の予算は第6波が来たときに十分な対応ができるためのもの
クラフト)考えなければならないのは、去年(2020年)、70兆円以上も予算を出しましたが、感染拡大しているときには「不十分だ」という批判があり、今回は感染がほぼ0に近いところで「バラ撒き」だと。そのときの状況によるのですが、そもそもこの予算は、「第6波が来たときのために、十分な対応ができるよう予算を設けておく」ということなのです。
18歳以下への給付金 ~早く給付するために児童手当の制度を活用
クラフト)もしかすると予算は使わないかも知れない、必要ないかも知れないけれど、第6波が来たときに十分な対応ができるよう、保険的な措置として設けている予算だということです。また、18歳以下への10万円の給付金に関する批判も、気持ちはよくわかります。しかし、年収500万円ほどの所得世帯に配るとすると、時間がかかり過ぎてしまうのです。そのため年収960万円ということで、いまの制度を活用してなるべく速く行う。
飯田)児童手当の制度を活用できると。
クラフト)そうです。そうすると960万円になってしまう。政府としては速く給付したいのです。不満があるのはわかりますが。
飯田)早く給付するために。
クラフト)これだけの支出がありながら、財務省が赤字国債を約19兆円に抑えたというところは、評価されるべきだと思います。第6波がないに越したことはありませんが、今後も病室を確保し、医療開発に予算を使って第6波のために対応していただけたら、意味があるのではないでしょうか。
飯田)病床の確保に関しては、2020年の補正でもお金をつけたわけですが、それがどこまで使われたのかというところですよね。
クラフト)お金がどう使われたのかを見せることが、国民の理解を得るもっとも重要な方法なので、そこを政府に求めて行く必要があると思います。しかし、この予算であればしっかり対応してくれるでしょう。あとは決断と執行だけです。そこは期待して見守りたいと思います。
2022年の経済成長がどこまで行けるか ~半導体の生産拠点の確保は増やしてもよかった
飯田)足元の経済、GDPなどを見ていると、7~9月期は厳しい数字が並んでいます。実感として、少しずつ経済が回って来ている感じはありますけれども。
クラフト)7~9月期に比べれば、10~12月期のGDPは上がると思いますけれど、その先です。来年(2022年)、成長の予算がどこまで機能して行くのか。ここが1つ大きなポイントです。個人的には、分配の予算をもう少し減らして、経済成長の予算をもっと増やしてもよかったのかなと思いますが、いずれにしろ多額の成長予算ですから、それを必ず景気拡大に活かして欲しいと思います。
飯田)今回の補正予算案に関する政府側の説明では、新しい資本主義の起動という部分で、ここに成長予算が乗るのかなと思ったら、18歳以下への10万円相当の給付やマイナポイントの付与、看護・介護・保育・幼児教育分野の賃上げ等々と、かなり分配の部分が乗って来ています。半導体の国内生産拠点の確保などがある意味、成長になるのかどうかぐらいですかね。
クラフト)そうですね。半導体の生産拠点の確保については、もっと増やしてもよかったのではないかと思います。1つ言えることは、Go To トラベルの予算をいま使う必要はありません。地方に行くと人がすごくて、コロナ禍で溜まっていた預貯金がいま使われているのです。だからGo To トラベルは温存して、来年、また景気の落ち込みがあったときに使うべきではないでしょうか。
「新しい資本主義」はどういうものなのか ~アベノミクスができなかった賃金アップ
飯田)岸田政権は新しい資本主義を掲げ、そのなかで中長期的な目標も出そうとしている段階です。どういうものになりそうですか?
クラフト)新しい資本主義がどういうものなのか、具体的な絵柄が見えて来ないので、そこも批判があると思うのです。いまは目先のコロナの悪影響をどうやって払拭して行くかということです。賃金上昇や、とりわけアベノミクスができなかったことを補填して、うまくやって行く必要があるのではないかと思います。
飯田)賃金の部分が、欠けた1つのピースとなって好循環まで行ったかと言うと、微妙なところだと。
クラフト)アベノミクスで賃金を上げようとして、なかなかうまく行かなかった。それをもう1回トライ、チャレンジするということで、今回うまくできるかが問われて来る。できたらそれなりに経済発展は見られると思うので、そこはしっかりやるべきでしょう。正直言うと、いまの税制度で果たして企業が賃金を上げて来るかと言えば、疑問はありますけれども。
企業には飴と鞭が必要 ~税優遇だけでは企業は動かない
飯田)次の税制改正等で、賃上げした企業には税優遇するということは方針として出ていますよね。
クラフト)税優遇はいいのですが、飴と鞭が必要だと思うのです。賃金を上げない、あるいは研究開発・投資をしない企業でお金を貯めているところには、課税するなり何らかの鞭の部分を与える。ペナルティがなければ企業も動かないのではないでしょうか。飴だけでは動かないかも知れません。
中小企業の7割近くが赤字で税優遇が効かない
飯田)バブル期より前の景気がよかった時期は、賃金を上げたり研究開発することは、結局、「法人税で全部持って行かれてしまうから」という経営者のマインドもあったようですね。
クラフト)いま中小企業の約6割以上、7割近くが赤字ですから、税優遇が効かないわけです。ですので、そこもあまり効果がない。逆に内部留保で現金を持っている企業が多い。ここをどうやって使わせるか、コーポレート・ガバナンスが問われて来るので、大変だと思いますけれど、政府にはそこを重点的に取り組んでいただきたいですね。
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