「報道部畑中デスクの独り言」(第274回)
ニッポン放送報道部畑中デスクのニュースコラム。今回は、自動車業界の電動化、EV化の動きについて---
新型コロナウイルスだけでなく、さまざまな課題が浮き彫りになった今年(2021年)の自動車業界。今回は電動化、EV(電気自動車)化の動きです。
11月29日、日産自動車が新たな長期ビジョンを発表しました。
「事業の再生から未来の創造へと、ギアをシフトするときが来た。これから10年をかけて、日産が進んで行く方向を示す羅針盤となるものだ」(内田誠社長)
ゴーン体制後から続く経営の混乱、半導体部品不足などによる新型車投入の遅れなど、あまりいい話題がなかった日産だけに、今回の発表は久々にチャレンジングなものだったと思います。長期ビジョンでは、2030年度までに新車の世界販売の50%以上を電動車にすることを目指し、電動化への対応に今後5年間で2兆円を投資する計画が明らかにされました。また、全固体電池を2028年度までに実用化するということです。
特に全固体電池の実用化目標については、日産の健在ぶりをアピールするものとなりました。原材料価格の高騰にからむ素材調達の懸念に関しても、内田社長は「われわれにはアライアンスがある。バッテリーと(ともに)育って来た会社なので自信を持っている」と言い切りました。
全固体電池は以前の小欄でもお伝えしたように、クルマの電動化を進める上で、性能を飛躍的に高めるものとして期待されています。先行していると言われるトヨタ自動車は、すでに昨年(2020年)8月にナンバーを取得し、全固体電池を搭載した車両を試験走行させています。2020年代前半の実用化を目指しています。
「いまは高出力という全固体電池の特徴を、HEV(ハイブリッド車) に適応させることで、最速で世に出せるのではないかと考えて開発を進めている」
9月の技術説明会で、前田昌彦執行役員はこのように話しました。トヨタの電動化へのスタンスが明確で興味深いところです。ただ、開発に関しては「正直楽観できる状況ではなく、難しさも残っている」とも語っています。現在の固体電解質では、長時間の使用で材料の間に隙間ができて劣化する問題があるため、それを克服できる材料を探しているということです。
全固体電池については、このように現在は材料開発の段階です。しかし、その先には「生産技術の確立」というさらに高いハードルが待っています。電池開発の関係者は「最高の食材の組み合わせを用意する=基礎研究の段階」と、「料理にして仕上げて行く=実際の生産に落とし込む」ことは、全く別だと話します。料理にするところが最も大変だというわけです。ハードルを越えるのはどこか、注目です。
一方、EV化と言えば、11月、イギリスのグラスゴーでCOP26=国連気候変動枠組み条約第26回締約国会議が開かれました。2035年までに主要市場で、2040年には世界全体で、新車の販売を、すべて二酸化炭素を出さないZEV=ゼロエミッション車に移行することが宣言されています。これには電気自動車などが含まれますが、ハイブリッド車は除外されています。
これは議長国のイギリスが提唱したもので、これには20を超える国が合意しました。ただ、日本の他、アメリカ、中国、ドイツなどの自動車生産国は入っていません。
「目指すのはカーボンニュートラル。化石燃料の発電比率が高いなかで電気自動車を増やしても、結果的には二酸化炭素が増えてしまう」(マツダ・丸本明社長)
「電動化のスピード、やり方は国・地域によって異なる。一気にこういうところに進んで行くことは考えられないのではないか」(スズキ・鈴木俊宏社長)
国内自動車各社から否定的な見方が相次ぎました。またトヨタ自動車の豊田章男社長は、日本自動車工業会会長としての会見で、合意した国は20あまりに「とどまった」として、「日本政府のリーダーシップ、現実的かつ持続可能な選択肢の道に一歩進めたのかなと思っている」と評価しています。
実は先ほどの日産の長期ビジョンでは、「電動車を2030年度までに50%以上」とされていました。これには「e-POWER」というハイブリッド車も含まれます。EV化促進はあくまでも市場の流れを見ながら……という姿勢がうかがえます。
このEV化の流れ、中古車情報メディア「カーセンサー」の西村泰宏編集長は、自動車業界全体で取り組むべき課題と訴えます。
「どうEVが一生を終えるのか、相当考えて行かないと。ただただ中古車として売れる、売れないではない。(バッテリーが)多少劣化したらみんなが見向きもしないようなものをつくってしまうと、どこがエコなのか、ガソリン車の方がよっぽど直しながら長く乗れるという話になってしまう」
自動車業界は世界的にEV化にかじを切っているように見えますが、現状は中国の補助金政策と、環境問題をきっかけとしたヨーロッパ市場のEV促進という、いわば政策的な面が先行していると言えます。その動きに違和感を持つユーザー、業界関係者も少なくありません。EV化で周辺に及ぼす影響、これは半導体不足などの原材料の調達や、エネルギー政策、中古車市場や雇用環境も含みます。
そして何よりも、ユーザーにとっての便利さ……EVになるとどんなメリットがあるのか、それは価格に見合うものなのか。そうした経済原理なくして、この問題は語れません。
自動車業界にのしかかる変革と逆風、この1年を振り返って来ましたが、EV化をめぐっては政治の政策なのか、経済・市場原理なのか。その「綱引き」は来年(2022年)もまだまだ続きます。いや、始まったばかりと言ってもいいでしょう。(了)
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