「脱炭素」が石油価格・石油産業に与える影響 石油連盟・杉森務会長

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ニッポン放送「飯田浩司のOK! Cozy up!」(2月2日放送)に石油連盟の杉森務会長が出演。脱炭素が石油価格、石油産業に与える影響について訊いた。

「脱炭素」が石油価格・石油産業に与える影響 石油連盟・杉森務会長

高騰した価格を表示するガソリンスタンドの電光板=2022年1月25日午後、大阪市内 写真提供:産経新聞社

「脱炭素」と「エネルギーの安定供給」をどう両立するか

原油価格の高騰や円安進行でガソリンの値上げが続き、政府による石油元売り各社への補助金を出すという対策が、1月21日に発動された。この対策は補正予算に盛り込まれているため、期限は3月末までと言われている。

飯田)去年(2021年)の原油価格の動きを見ると、ヨーロッパで風が吹かなかったために再生可能エネルギーが足りなくなり、特に天然ガスなどの需給を圧迫したという話もありました。世界的な脱炭素の流れも価格には影響していますか?

杉森)大きく影響しています。脱炭素の動きが急激に強まりますと、例えば化石燃料……液化天然ガス(LNG)や石油、石炭ですけれども。化石燃料の上流開発が滞るようになります。化石燃料は全地球的に言えば、まだ需要は伸びているのです。

飯田)需要は伸びている。

杉森)脱炭素の流れが強すぎると、逆に価格が急激に上がり、安定供給に支障をきたすような場面も出て来ます。このようにトランジションの時期、つまりエネルギー事情が変わって脱炭素の世界になって行くという時期を「トランジション」と呼んでいますけれども。

飯田)トランジションと。

杉森)2050年までずっとトランジションの時期が続くわけです。カーボンニュートラルの流れとエネルギーの安定供給、これを両立させて行くことは、今後の大きな課題になるのではないでしょうか。

途上国など化石燃料を必要とする国は多い ~急激な脱炭素によってこれまでの流れが歪に

飯田)素人の考えだと、化石燃料の需要が減るのであれば、需要が減る分だけ安くなるのではないかと思うのですけれど、そんなことはないのですね。

杉森)需要は徐々にしか減って行きません。世界的に言うと、先進国では縮小の動きになっていますが、まだまだ新興国や途上国など、化石燃料を必要とする国はたくさんあるのです。

飯田)上流への新しい投資が細ってしまうことになると、効率よく石油を取り出すような、新しい油井がなかなかできにくくなって来る。

杉森)新規発見できないということになると、既存の油田やガス田の埋蔵量は徐々に落ちて行きます。ですから、新たな資源開発を行うことで増やし、世界の需要増に対処して来ているのです。これがいままでの現実ですので、その流れが現在の急激な脱炭素によって、少し歪になってしまう。

新しいエネルギーとして注目される水素と合成燃料 ~石油産業と親和性が高い水素

飯田)石油に代わるエネルギーについては、第1次石油ショックのときから日本では議論され、模索もされて来ました。新しいエネルギーとして注目されるものはありますか?

杉森)私どもが注目しているのは、水素と合成燃料です。合成燃料は水素を使うのです。水素は極めて用途が広く、発電用や産業用に使えます。当然、輸送用にも使えます。そして、水素を使った蓄電もできます。

飯田)蓄電もできる。

杉森)石油産業は、水素とは極めて親和性が高いということもありますので、しっかり取り組んで行かなければならないと思います。合成燃料については、CO2フリー水素を使って、回収したCO2を合成します。それによって、新たにCO2を出さないクリーンな燃料ということが言えると思います。

2050年には100%のCO2削減が可能 ~既存の社会インフラを使って供給できる

杉森)何が利点かと言いますと、既存のガソリンや軽油などと同じようにつくります。そして徐々に混合率を変えて行くことにより、例えば10%混入した場合、10%のCO2削減になり、最終的に、2050年には全量が置き換わっている。そうなれば100%のCO2削減ということになります。トランジションの時期に安定供給しながら、スムーズに移行することができる。加えて、我々の持っているタンク、船、プラント、ガソリンスタンドなどのSS網という、現在の社会インフラを使って供給して行けるのです。

飯田)そうすると、輸送手段も既存の車をいままで通りに使えて、でもエコになっていると。

杉森)そういうことです。

飯田)理想的ですね。

災害時には、石油はエネルギー供給の最後の砦 ~「サステイナブルな石油」を目指す

飯田)脱炭素社会として、2050年まで30年あまりの転換期が続いて行くなかで、石油の役割や意義はどういうものがあるのでしょうか?

杉森)昨年(2021年)の10月に、「第6次エネルギー基本計画」というものが閣議決定されています。そのなかで、「災害時には、石油はエネルギー供給の最後の砦」という位置付けをされており、経済活動に不可欠なエネルギーであるということが示されています。

飯田)災害時にはエネルギー供給の最後の砦である。

杉森)そういう意味では引き続き、脱炭素社会においても、石油の果たす役割は極めて大きいということです。我々は「サステイナブルな石油」と呼んでいまして、いま必要とされる石油の需要については効率的に安定供給しながら、脱炭素、カーボンニュートラルで求められるクリーンなエネルギーの比率を増やして行く。この「サステイナブルな石油」を目指して頑張りたいと思います。

「脱炭素」が石油価格・石油産業に与える影響 石油連盟・杉森務会長

OPECのロゴと石油ポンプの模型=2020年4月(ロイター=共同) 写真提供:共同通信社

蓄電もできる水素は重要 ~しかしグローバルな流れはEVに

飯田)新しいエネルギーについて、水素と混合燃料のお話もしていただきました。

ジャーナリスト・佐々木俊尚)水素は重要だと思います。蓄電できるということが大きい。もちろん、電気も蓄電できるのだけれど、自然放電してしまうので、永久的な保存はできません。そうすると、風が吹かなければ風力発電ができないとか、曇りの日に太陽光が止まってしまうと発電量が低下するというような、再生可能エネルギーの最大の問題点を解消できるのです。

飯田)水素は。

佐々木)だから確かに水素は大事なのだけれども、一方でヨーロッパはEVに走ってしまい、グローバルな流れはそちらに行ってしまっている。日本では、トヨタが頑張って水素自動車「MIRAI(ミライ)」をつくっていますが、なかなか普及していません。

水素ステーションの設置が必要

佐々木)水素だと、いままでのEVやガソリンスタンドではなく、水素ステーションが必要です。それをどうやって普及させるのかという、また別の問題が起きてしまう。先ほどの話を伺って、確かに石油から徐々に水素に代替して行くというのは、いい方向だと思うのですけれど。

ハードランディングは避けなければならない

飯田)合成燃料という形で、過渡期的に使って行くということなのですかね。

佐々木)確かに、一気に脱炭素や再生可能エネルギーに行こうとすると、蓄電の問題もあります。それに現在もそうですが、需給バランスが崩れて石油価格が上がってしまう問題もあり、あまりにもハードランディングな感じもします。特に日本の場合は、EVに移し替えてしまうと、電力が足りなくなる問題があります。

飯田)そうですね。

佐々木)現状の車をすべてEVに置き換えるには、何十年か先になるので、徐々に電力を増やして行けばいいという話なのだけれども、その電力を何によって増やすのかという問題があります。原発なのか、それとも再生可能エネルギーなのかということも議論しなければいけない。その問題もあり、そう簡単に「再生可能エネルギーにすればいい」、「脱炭素でオッケーだ」というのは、あまりにも短絡的な議論だと常々思っていたので、先ほどのお話は納得感が高かったです。

飯田)実際にビジネスをされていると、持続性など、理想ではなく「どこまでやれるか」というところから逆算しなければいけません。

佐々木)ハードランディングだけは避けたいですからね。

人間の脳の電力量の1万倍の電力を使ったAI「アルファ碁」

飯田)EVだけでなく、電力需要全体で考えると、これから先はデータのやり取りが多くなって行くなかで、消費電力も相当なものになります。

佐々木)ディープマインドというAI開発会社が開発した囲碁のAI「アルファ碁」と、世界トップレベルのプロ棋士である李世ドルが勝負したではないですか。

飯田)ありましたね。

佐々木)人間の脳の電力量と、アルファ碁という世界最先端のAIの電力量では、1万倍くらい違ったという話があります。

飯田)人間の脳というものの、エネルギー効率のよさ!

佐々木)それだけエネルギーを使って、ようやく人間に勝てるのだったら、別に人間の脳でいいではないかということも言われています。

飯田)エコの面から考えれば。

このままEVに突き進んでいいのか

佐々木)この冬も電力のひっ迫が度々起きています。

飯田)連系線を使っての融通が日常茶飯事になって来ていると言われています。

佐々木)そうやって誤魔化しながら稼働させている状況があるわけです。

飯田)老朽火力のメンテナンスを頑張ってやっていると。

佐々木)日本のように大雪が降る国では、太陽光発電も止まってしまうし。

飯田)曇ってしまったらほとんどゼロですものね。

佐々木)この状況で、本当にEVに突き進んでいいのか。もう少しソフトランディングに向けた議論をして欲しいですね。

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