ロシア政府が流し利用するウクライナの「偽情報」 ~現地メディアレポート

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ニッポン放送「飯田浩司のOK! Cozy up!」(2月17日放送)にウクルインフォルム通信の平野高志氏が出演。現地・ウクライナの現状について訊いた。

ロシア政府が流し利用するウクライナの「偽情報」 ~現地メディアレポート

「ZUMA Press」 Russian President Putin Meets with German Chancellor Olaf Scholz February 15, 2022, Moscow, Moscow Oblast, Russia: Russian President Vladimir Putin comments during a joint press conference with German Chancellor Olaf Scholz, following bilateral talks on the Ukrainian crisis at the Kremlin, February 15, 2022 in Moscow, Russia. (Credit Image: © Sergey Guneev/Kremlin Pool/Planet Pix via ZUMA Press Wire)、クレジット:©Sergey Guneev/Kremlin Pool/Planet Pix via ZUMA Press Wire/共同通信イメージズ

人々の生活には影響のなかった銀行などへのサイバー攻撃 ~街中に大きなパニックは見られず

2月16日、日本の一部報道では、ロシア軍の一部が撤退し、その映像が公開されたと伝えられていたが、真偽については詳しくわかっていない。現地の様子について、ウクライナの国営通信である「ウクルインフォルム通信」の編集者、平野高志氏がレポートする。

飯田)時差7時間、ちょうど日付が変わって1時間弱というところです。16日は、「ロシアが行動を起こすのではないか」と言われていた日でしたが、街の様子はいかがでしたか?

平野)街中を歩いている人たちのなかには、大きなパニックはありませんでした。スーパーも飲食店もいつも通りの賑わいで、ツイッターやインスタグラムなどを見ていても、いつも通りのご飯や、芸能人のスキャンダル、友だちと遊んだ動画などばかりでした。ただ、よくよく聞くと、彼らの心のなかでは大きな不安があったようで、「心配している」というコメントもいくつかありました。しかし、多くの人はいつも通りの生活を続けていました。

飯田)インフラ関係の会社や、銀行のサイトがダウンしたということが報じられていましたが、その辺りの受け止めはいかがでしたか?

平野)夜中に起こり、朝起きたときには復旧していたので、生活に大きな影響はなく、ほとんどの人は「そんなサイバー攻撃があったのか」という感じで受け止めていました。もちろん、担当のサイバーセキュリティの人たちは困っていたでしょうけれども。

ロシアが流している偽情報 ~ウクライナ東部はロシア語話者で親ロシア

飯田)平野さんは、「日本で報じられるウクライナに関しての情報には、間違っている部分もかなりある」ということも発信されています。「ロシア語話者の人たちはロシアと近い」と言われるのですが、これに関してはどうですか?

平野)それはロシアの偽情報だと思います。お聞きになったことがあると思いますが、「ウクライナは東西で分裂していて、『東部はロシア語話者で親ロシア。西部はウクライナ語話者で親ヨーロッパ』である」と、まるでウクライナには、2つの極端に異なる地域があるかのように語る情報がありますが、これは偽情報だと、私は指摘しています。

飯田)偽情報である。

平野)実際には、ウクライナでは多くの人がバイリンガルなのです。ロシア語を毎日使う人で、ウクライナ語を話さない人がいますが、それはウクライナを嫌いだと思っているわけではなく、場面によってウクライナ語とロシア語をスイッチできるのです。切り替えることができる。毎日ロシア語を使っている人のなかにも、ロシアを悪い侵略国だと思っている人はたくさんいます。東部では、ロシアの武装集団と戦闘している人でも、ロシア語話者はたくさんいます。

「ロシアの音楽が好きでもプーチン大統領は嫌い」と言うロシア語話者も多い ~ロシア語を話してもアイデンティティはウクライナ人

平野)もちろん、ロシアのことを好きだと言う人もいるのですが、そこは気を付けなければいけません。「ロシアの音楽が好き」、「ロシアに友だちがたくさんいるからロシアは好きだ」と思うのと、「プーチン大統領がしていることを好きだ」というのは別の話で、音楽は好きだけれどプーチン大統領は嫌いだという人はたくさんいます。

飯田)音楽とプーチン大統領は別。

平野)ロシア語を話すから、その人はロシアが好きなのだという認識は、大きな誤解です。それが偽情報でつくられているのです。例えば、アイルランドなどもそうですが、アイルランドは98%の人が英語を話します。でも、彼らのアイデンティティはアイルランド人なのです。

ロシア政府が流し利用するウクライナの「偽情報」 ~現地メディアレポート

2022年1月29日、領土防衛隊の訓練に参加する人々=ウクライナ・キエフ近郊(共同) 写真提供:共同通信社

「ロシア語話者=親ロシアの住民」という偽情報を利用しようとするロシア政府

平野)ここで大きな問題なのは、ロシア政権が偽情報を利用しようとしていることです。「ウクライナ東部にはロシア語話者でロシア国籍を持っている人がいて、彼らに被害が出たら、ロシアは彼らを救うために何かしら対応をする」という発言が最近よく聞かれます。「ロシア語話者=親ロシアの住民」という偽情報で、ウクライナへ侵攻する際の口実に使う疑いが出ているのです。

飯田)自国民保護のような形で使うのだと。

平野)そうです。繰り返しますが、東部にいるロシア語話者の多くは、ウクライナ人としてのアイデンティティを持っています。重要なことは、ロシアがどんな偽情報を持ち出して来ても、他国に対する侵攻は侵攻で、絶対に許されないということだと思います。

ロシアの偽情報に対して日本のメディアはどう対応するべきか

平野)ロシアの流す偽情報に対して、メディアの人は現場に行き、「現地の人たちがどう思っているのか」について、現地の人の声を聞くべきだと思います。現地の人たちがどう思い、何を望んでいるのか。もちろん、ロシアのことを待ち望んでいる人がゼロだとは思いませんが、みんながロシアのことを待ち望んでいるとも思いません。そこはきちんと報道機関が取材し、話を聞いて、実際にどのような人たちがどのようなことを考えているのか、正しく伝えなければいけないと思います。

ロシアからの侵攻はあり得るか

平野)軍の撤退の話が先ほどありましたけれども、撤退は確認できず、国境の周りに軍が残っているということは、いつでも軍が侵攻できるような状態がいまも続いているということです。侵攻の可能性はなくなっていないと思います。引き続き毎日、注意し続ける必要があると思います。

国際社会はどう動くべきか ~「ウクライナのために何ができるか」を考えなければならない

平野)国際社会は、ウクライナが何を望んでいるのかということを、きちんと聞かなければいけないと思います。ロシアが圧力を掛けているからと言って、ロシアの声だけを聞くのは、大きな問題だと思います。圧力を掛けられている人の声が聞こえなくなってしまうということは、武力による脅迫を認めることになってしまいます。それは日本としても受け入れてはいけないですし、国際秩序の変更になってしまうので、避けなければいけない。

飯田)現状変更になってしまう。

平野)国際社会は、「ウクライナのために何ができるのか」ということを考えなければいけないと思います。いま行われているのは、ウクライナの話を聞きながら、ウクライナに向けた支援をする。同時にロシアへの制裁についても、国際社会で話し合っている状況だと思います。

ロシア政府が流し利用するウクライナの「偽情報」 ~現地メディアレポート

記者会見する岸田文雄首相。新型コロナウイルス対応の蔓延防止等重点措置について、17道府県の期限を延長する方針を明らかにした=2022年2月17日午後7時7分、首相官邸(代表撮影) 写真提供:産経新聞社

二枚舌に見える日本政府

飯田)日本政府の動きとして、ゼレンスキー大統領と岸田総理の電話会談があったそのタイミングで、林外相はロシアとの間で経済協力の枠組みについて話している。この辺りは、現地から見ていてチグハグに見えますか?

平野)私はチグハグだと思いました。ロシアに対して、「対露制裁は検討しているけれども、経済協力はするから許してね」という誤ったメッセージを送ることになります。岸田総理はゼレンスキー大統領と電話会談をしたときに、「力による一方的な現状変更は断じて認められない」と言ったのに、同じ日に林外務大臣はロシアに「幅広い分野で日露関係全体を発展させたい」と言っていました。いま苦しんでいるウクライナの人たちからすれば、日本政府は二枚舌に見えますよね。

飯田)力による現状変更は絶対に認めないのだと、我々も中国を目の前にしてそうあるべきですし、そうでなくてはいけない。ここは「譲れない一線」だと思わなければいけませんね。

平野)そう思います。日本が国際社会の連帯に穴をつくってはいけません。

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