ロシア国民への「経済的不安」が与えるプーチン政権への影響

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ニッポン放送「飯田浩司のOK! Cozy up!」(3月1日放送)に東京大学先端科学技術研究センター専任講師の小泉悠が出演。米財務省がロシア中央銀行との取引禁止を発表したというニュースについて解説した。

ロシア国民への「経済的不安」が与えるプーチン政権への影響

モスクワで、取材に応じるロシアのプーチン大統領(ロシア・モスクワ) AFP=時事 写真提供:時事通信

アメリカがロシア中央銀行との取引禁止を発表 ~「国際秩序に対する公然たる挑戦者」という位置付けに

アメリカ財務省は2月28日、ウクライナに侵攻したロシアへの追加制裁として、ロシア中央銀行との取引を禁止し、アメリカ国内の資産を事実上凍結すると発表した。外貨を使ってロシアの通貨「ルーブル」を買い支えることを防ぐ狙いがある。

飯田)中銀への制裁と言うと、イランに対しても行われていますが、アメリカはそこまで踏み込んで来たということになるのですか?

小泉)そうですね。私は経済や経済制裁は専門ではないので詳しくはないのですが、ロシアはこれまで、国際秩序のなかでやや異質な振る舞いはするけれども、北朝鮮やイランとは違った存在だったと思います。しかし、今回のことで「国際秩序に対する公然たる挑戦者」という位置付けになって来たということです。

レベルを上げ、フェーズが変わったアメリカのロシアへの経済制裁

飯田)世界全体の雰囲気がそうなりつつあるということですね。経済についての制裁が私企業でも行われていますが、この切り離しが今後も進んで行くことになりますか?

小泉)そうですね。現状、軍事力を使ってロシアの行動を止めに行くことはできません。ロシアは核兵器を持っているので、そうなれば核戦争になってしまいますし、プーチン大統領も今回、その点をアピールしています。となると、経済的な方法を使うことしかできません。経済的な方法を使ってもロシアの動きを止めることはできないけれど、大きな代償がつくということを示さざるを得ません。

飯田)そうですね。

小泉)実際に2014年に起きた最初のウクライナ侵攻以降、アメリカは厳しい経済制裁をしていて、2017年にはトランプ政権下でも制裁を強化しています。今回はさらにレベルを上げて、単なる制裁ではなく、ロシア経済の基礎体力そのものや、軍事力を支える技術や金融機関に標的を絞るということですから、フェーズが変わったのではないでしょうか。

ソ連崩壊時の大混乱を覚えているロシア国民 ~ATMに長い行列

飯田)週末には、国際銀行間通信協会(SWIFT)という国際的な決済機構からも締め出す方針が出されました。ロシア国内からの報道だと、ATMに長い行列ができているということですが、早くも影響が出ているということですか?

小泉)実際にどのくらい影響が出ているかはよくわからないのですが、ロシア人は1991年のソ連崩壊当時をよく覚えているのです。あのときに経済の仕組みそのものが変わって、大混乱になりました。1992年には約2800%のハイパーインフレが起こっているのです。

飯田)2800%。

小泉)1年で物価が28倍。あるいは貯金が28分の1になってしまうということです。ソ連時代にコツコツ働いて貯めたお金が、すべてなくなってしまった人々がいるわけです。また、1998年にはデフォルトになっています。そういう記憶があるので、心配になると、すぐに取り付け騒ぎになってしまうのです。今回もそういう国民の不安心理が刺激されていることは想像がつきます。

飯田)あの当時は、「通貨よりマルボロの方が」というようなことが、まことしやかに言われました。

小泉)そこまでにはならないかも知れませんが、ロシアもこれだけ外国に依存している、あるいは外国にエネルギーを売ることによって成り立っている経済ですので、国際的に孤立すれば当然、マーケットも国民も不安ですよね。

国内に経済的な不安が広がることによるプーチン政権への影響 ~国民がついて来るから強かったプーチン大統領

飯田)国内で不安が広がることが、プーチン政権にどのように影響しますか?

小泉)大きく2つの影響があると思います。1つは、プーチン大統領がこれまで強いリーダーでいられたのは、「プーチンさんが強いから国民がついて来る」というよりも、「国民がついて来るからプーチンさんが強い」というメカニズムによるものだった部分が大きいと思います。

飯田)逆なのですね。

小泉)つまり神輿だと思います。みんなが担いでくれるから「わっしょいわっしょい」とできるわけで、1人でそれはできません。

今回のプーチン政権の行動を国民がどう取るか ~反プーチン運動に対してどう対応するか

小泉)「プーチンさんについて行くと生活がよくなる、安定する」、あるいは「ロシアの国際的な地位が上がって行く」という考えがあったのだと思うのですが、今回はプーチンさんがロシアの首を絞めるようなことばかりしているわけです。これがどう出るのか。

飯田)国民がどう受け取るか。

小泉)他方で、これまでも反プーチン運動が盛り上がったことがあるのですが、プーチン政権がこれに応えて「やり方がまずかったな」と方向性を改めたわけではありませんでした。「国民が反発すると、より取り締まりを強化する」という方向に進んで来た。今回もプーチン政権に対する反発はあるのでしょうが、それにプーチン大統領がどう対応するか。これまでの対応を見ていると、あまり楽観視できないと思っています。

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