福島県浪江町での酒づくり再開を目指すなかで起きた「2つの奇跡」 鈴木酒造店5代目蔵元・鈴木大介

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黒木瞳がパーソナリティを務めるニッポン放送「あさナビ」(3月8日放送)に鈴木酒造店5代目蔵元の鈴木大介が出演。山形での酒づくりについて語った。

福島県浪江町での酒づくり再開を目指すなかで起きた「2つの奇跡」 鈴木酒造店5代目蔵元・鈴木大介

鈴木大介  鈴木酒造店代表取締役

黒木瞳がさまざまなジャンルの“プロフェッショナル”に朝の活力になる話を訊く「あさナビ」。3月7日(月)~3月11日(金)のゲストは鈴木酒造店5代目蔵元の鈴木大介。2日目は、山形での酒づくりについて---

黒木)福島県浪江町で震災の津波の被害を受け、酒蔵が流されてしまった酒造店。その後、鈴木さんは山形県の長井市に避難され、酒づくりを再開されるのですけれども、奇跡が2つ起こったと伺っております。浪江町で蔵が全部流されてしまったけれども、研究所に酵母が残っていたのですって?

鈴木)酵母そのものではなかったのですけれども、山廃仕込みというもので、「酒蔵の微生物環境を利用して酵母だけを育てる」という酵母の育成方法があります。それは私の代だけでなくて酒蔵ができた当時からの方法だったのです。

黒木)200年ですよね。

鈴木)作業の「クセ」や蔵の環境など、蔵の歴史を知っている酵母が残ったというのが、自分たちの根拠になったものだったのです。

黒木)そして2つ目の奇跡は、山形の長井市に行かれて、「酒蔵をつくりませんか」と言われたということで、酒づくりが再開したのですね。

鈴木)私たちにとって、山形は隣県と言っても、行ったことがなかった地域でした。ただ、山形県の酒造組合の人たちがいろいろとご支援してくださったのです。「東洋酒造」という会社だったのですけれども、そちらの経営を引き継ぐという話が出て来て、かなり悩みました。しかし、「すぐ酒づくりできた方が浪江の事業再開につながるのではないか」ということで、思い切って県外で勝負しようと、山形に移ったわけです。

黒木)水も違うし、お米も違うのですよね。その辺りはご苦労がおありだったのではないですか?

鈴木)水が硬水から軟水に変わってしまったのと、標高がまったく違うのです。標高が高いと沸点が低くなって来ますし、福島では冬のときの気候が太平洋側なので高気圧支配下なのですが、山形は低気圧の支配下になってしまうので、原料処理がうまく行かない。思ったものと少しずれることがあり、そこに慣れるまでに3年~4年かかってしまいました。

黒木)そんなに。その山形の長井市でつくられたのが「一生幸福」というお酒ですね。いかがですか。「磐城壽」と比べると。

鈴木)これ以上にない祝い酒という名前です。我々が持っていたのが「磐城壽」で、東洋酒造さんの持っていたのが「一生幸福」でした。

黒木)そうですね。

鈴木)被災して酒蔵を引き継ぐまでは、「一生幸福」という名前が何か因縁があるように見えて、この酒をやるからには、お互いの土地の祝い酒を元通りにしなければいけないなというのがありました。引き継いだ当初は、その名前が重く、大変な思いをしていた時期もありました。

黒木)避難して、3ヵ月後には酒づくりを再開されるのですけれども、「一生幸福」という名前が胸に痛いときもおありだったでしょう。

鈴木)福島の浪江町では180数名の方が亡くなっていて、そのご家族の方もまだ立ち直っていないような状況でしたから、「一生幸福」という名前に躊躇する気持ちもありました。ただ、お酒を飲むときに大勢の方たちと、場をつくって、輪をつくり、喜びを分かち合うということを自分たちでやって行かなければいけないなとも思っていましたので、まず、心のなかから、時期尚早だったかも知れませんが、「晴れ晴れとした気持ちで飲めるようなお酒をつくって行こう」と思いました。

黒木)晴れ晴れとした気持で飲めるお酒を。

鈴木)亡くなった方々が大勢いるなかで、自分たちは環境が与えられて残ったということは、「生き切らなければならないな」と思いました。そう考えながら、ガムシャラにやって来ました。

福島県浪江町での酒づくり再開を目指すなかで起きた「2つの奇跡」 鈴木酒造店5代目蔵元・鈴木大介

鈴木大介(すずき・だいすけ) / 鈴木酒造店代表取締役

■山形県長井市にある「鈴木酒造店」の5代目蔵元。
■もともと鈴木酒造店は、福島県浪江町の沿岸部にある請戸地区で江戸末期から酒造りをしてきた酒蔵。代表銘柄の「磐城壽(いわきことぶき)」は、“日本一海に近い酒蔵” として請戸の漁師をはじめ、地域の人々の暮らしに欠かせない祝い酒として親しまれてきた。
■しかし2011年の東日本大震災の津波ですべてを流失。また、福島第1原発の事故により、浪江町から避難を余儀なくされる。
■その後、鈴木さんは「浪江の酒を復活させて欲しい」と言う周囲の声を受け、2011年12月から、山形県長井市の老舗酒蔵を引き継ぐ形で酒造りを再開。素直に水のよさと米のよさを表現しながら、日本酒が持つ可能性を追求している。
■浪江町にある「道の駅なみえ」の敷地内には鈴木酒造店の酒蔵が設置されていて、2021年から再び浪江での酒造りを実施。製造工程を見学することができ、お酒の販売はもちろん、利き酒も楽しめる。

番組情報

黒木瞳のあさナビ

毎週月曜〜金曜 6:41 - 6:47

番組HP

毎朝、さまざまなジャンルのプロフェッショナルをお迎えして、朝の活力になるお話をうかがっていく「あさナビ」。ナビゲーター:黒木瞳

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