明確な答えの出ない国連安保理「拒否権」の問題 ~国連安保理を機能させるには

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ジャーナリストの佐々木俊尚が4月6日、ニッポン放送「飯田浩司のOK! Cozy up!」に出演。国連安全保障理事会のあり方について解説した。

2月、モスクワで記者会見するロシアのプーチン大統領(ロイター=共同) 写真提供:共同通信社

ゼレンスキー大統領が国連安全保障理事会で戦争犯罪を非難

ウクライナのゼレンスキー大統領は日本時間4月5日、国連安全保障理事会の会合でオンライン演説し、「第二次大戦以来、最も恐ろしい戦争犯罪」がロシア軍によってウクライナで行われていると訴えた。ゼレンスキー氏は首都キーウ近郊のブチャなどを占領していたロシア軍の民間人虐殺を強く非難し、国連安保理が「ロシアの完全な責任」を追及するよう求めた。

飯田)ロシアによる侵略以降、ゼレンスキー大統領が国連で演説するのは初めてです。

ロシアの拒否権行使により、機能していない国連安保理

佐々木)「国連を解体する覚悟はあるか」という声明もあったということです。安全保障理事会は、ロシアが拒否権を行使しているので、まったく機能していません。これは冷戦時代から言われてきたことですが。

飯田)そうですね。

佐々木)G7は経済について議論する場所をつくっているのですが、中国とロシアなしのG7をベースにして、安全保障を扱うような組織にした方がいいのではないかという議論もあることにはあります。

ロシア・中国を入れずにG7をベースにするという議論もあるが ~中国・ロシアがいるから意味がある

佐々木)防衛省・防衛研究所の山添博史さんと、ある番組で話す機会があったので、「G7をベースにするという議論があるのですが、どう思いますか?」と聞いてみました。すると、そういう議論はあるのだけれど、国連安保理は中国もロシアも入っているから意味があるのであって、それを抜きにしてしまうのは、国際的な安全保障の仕組みとしてあまりよろしくないのではないか、ということをおっしゃっていました。確かにそうなのですよね。

飯田)中国とロシアが入っているから意味がある。

佐々木)敵対する国を排除するということはある種、軍事同盟化するだけになってしまう。国連はもともと「United Nations(連合国)」ですからね。

飯田)中国語だと「連合国」と書いてあるのですよね。

佐々木)日本はまるで戦後にできた平和な団体のように見ているのだけれども、単純に第二次世界大戦における戦勝国の集まりなのです。でも、あとで日本やドイツやイタリアも加盟させて、すべての国が入るのが前提になっている。

拒否権の問題があり、堂々めぐりの議論に

佐々木)そうではなく、仲のいい国同士で結託するということになると、それこそ第二次世界大戦以前、19世紀末のヨーロッパのようになって、一触即発がいつまでも終わらないということになってしまう。だから話し合いの場はどこかで必要だということなのです。

飯田)話し合いが。

佐々木)ただ、それをやると、それぞれ拒否権があって機能しなくなってしまう。そもそも国連憲章を改正するためには安全保障理事国、常任理事国の同意が必要なのだけれど、ロシアが拒否権を発動するから、国連憲章を変えられない。堂々めぐりの議論になってしまって、なかなか進まない状態が続いているのです。

飯田)国連憲章を。

佐々木)一国のなかであれば、警察や軍隊が強権的に抑えられるかも知れないけれど、国際社会にはそんなものはないので、ジワジワと議論していくしかない。他に何の方法もないわけです。

2022年4月4日、ウクライナの首都キーウ近郊ブチャで、報道陣に話をするゼレンスキー大統領(ロイター=共同) 写真提供:共同通信社

5大国拒否権

飯田)5大国拒否権というものだって、第一次大戦の国際連盟の反省もあり、全会一致だと決まらない上に、本当に会議が踊ってしまうだけだったではないかと。最終的には本当に力の強い国々がコンセンサスを取って決めるという形にしないと、人の命が救われないではないかと。結局、これもある意味では妥協の産物のようなものです。

佐々木)国連がスタートした地点では、まだ冷戦が始まっていなかったので、5大国は戦勝国同士で手を握り合っていた。

飯田)裏ではいろいろな考えがあったでしょうが。

佐々木)「我々が結託すれば大丈夫だ」というところからスタートしているので、拒否権があるわけです。

飯田)そこには、アメリカの楽観があったのかも知れない。それに対してスターリンは「利用してやれ」と思っていたのかも知れませんが、一応表向きにはそうだったわけです。

明確な答えが出ない国連安保理問題 ~ワイドショー的な議論には馴染まない

佐々木)機能しないというのはその通りなのだけれど、では、どうするべきかというと答えがなく、非常に難しい。安全保障は、永遠とそういう話をしているのです。クリアカットな綺麗な答えはどこにもありません。

飯田)はっきりした答えがない。

佐々木)これが日本のテレビワイドショー的な議論にはいちばん馴染まないのです。ワイドショー世論は結局、「悪人を見つけること」をよしとする。「安倍政権はけしからん」とか、「プーチンけしからん」というようなことです。

飯田)ワイドショーはそうですね。

佐々木)プーチン氏はけしからんのだけれど、でも、「プーチンけしからん」と言っていたら何か問題が解決するかというと、しないわけです。けしからんプーチン氏も含めて、どう国際秩序を構築するのか。プーチン大統領がいなくなってくれるのがいちばんいいのだけれど、簡単にはいなくなりません。いなくならない以上はどうすればいいのか。非常に難しい議論になってきている。

「ロシアのウクライナ侵攻」を議論の題材にしきれていない日本のワイドショー

飯田)クリアカットな答えが出ない問題に対して、バランスをどこで取るかという、均衡点の話になってくる。

佐々木)ずっとそうです。新型コロナの問題も「感染を抑える」のか、「経済を動かす」のか。どちらかに振れすぎないよう、どこでバランスを取るかということです。まるでやじろべえを指先で立たせているかのような、そういう議論が求められているのだけれど、いわゆる日本の公共圏というのは、マスメディアの議論がそのようにならないという問題があるのです。

飯田)そこを目指そうとすると、どちらからも批判を受けてしまう。

佐々木)右からは左翼だと言われ、左からは右翼だと言われてしまうような問題があるわけです。今回の戦争に関しても、ウクライナ侵攻はロシアが一方的に悪く、侵略戦争ではないですか。しかし、「侵略戦争をどう見るか」ということが、いまの日本のワイドショーでうまくこなしきれていない、議論の題材にしきれていないと感じるのです。

飯田)ワイドショーのなかで。

佐々木)「ウクライナの人たちは降伏しろ」という意見が出ているではないですか。「これ以上犠牲を増やさないためには」と。あれはまさしくそうで、「戦争反対」というのは、わかりやすくていい言葉ですよ。誰も戦争に賛成する人なんていないわけだから、戦争反対なのだけれども、「戦争反対が故に侵略戦争にも降伏しろ」と、なぜそういう理論が成立してしまうのかがわかりません。

戦後一貫して「日本が侵略戦争を起こすのはいけない」とだけ言ってきた日本

佐々木)そういうロジックを当たり前のように言っているワイドショーのコメンテーターは多いですよね。日本は戦後一貫して、太平洋戦争への反省から、「日本が侵略戦争を起こすのはいけない」と言ってきました。それはそうなのですけれども、その一本だけでずっと理論立ててきたところがあるのです。

モスクワで、取材に応じるロシアのプーチン大統領(ロシア・モスクワ) AFP=時事 写真提供:時事通信

日本の仮想敵国はかつてのソ連だけだった ~中国も北朝鮮も脅威ではなかった

佐々木)実際、1945~2000年くらいまでの日本は、周りに強い敵国がいなかった。中国とはパンダ外交をやっていたくらいで、当時は貧しかったし、まさか中国が日本と軍事的に対立するというイメージはなかった。北朝鮮は独裁国家だったのだけれど、まさか核ミサイルを持つとは思わなかった。

飯田)少し前までは。

佐々木)日本にとってのいわゆる仮想敵国、自衛隊用語で言うと防衛対象国ですけれども、それはあくまで北の脅威であるロシア、当時のソ連だけだった。だから北海道にたくさん陸上自衛隊を投入していたわけです。

飯田)そうですね。

佐々木)そうは言いながら、アメリカの核の傘の抑止力に守られていて、ベトナム戦争にしろ何にしろ、戦争は遠い国で起きているものだった。だから、あまり戦争と向き合う必要がなく、ひたすら「太平洋戦争の残虐さを忘れてはいけない」と言ってきたのです。「我々は戦争を起こしてはいけないのだ」ということをスローガンのように言っていれば、それで済んでいたという背景はあったと思うのです。

アメリカの抑止力に守られ戦争と向き合う必要がなかった日本

佐々木)日本と違い、アメリカは戦争をし続けていた。1960年代、「ベトナム戦争反対」という反戦運動が盛り上がったではないですか。アメリカの若者は当時、徴兵制があったので、いつ自分が戦場に送られるかも知れないという、ある意味の当事者意識があったと思うのです。でも、日本は戦後一貫して徴兵制がなく済んできたわけだし、1960年代、いまの団塊世代くらいの人たちが「反戦」と言っていても、アメリカの若者とは違うわけです。

飯田)アメリカの戦争はアメリカが起こすもの。

21世紀になり、戦後初めて「侵略される側に回るかも知れない」という危機感が出てきた ~未だに「日本は侵略戦争を起こしてはいけないのだ」からアップデートされていないコメンテーター

佐々木)そうなのです。しかし、21世紀になって状況が変わり、中国が台頭して南シナ海を占領し、尖閣問題も起きた。北朝鮮が核ミサイルを持ち、ロシアは反対側でウクライナ侵略戦争を起こすという状況になって、初めて日本は「自分達が侵略するのではなく、侵略される側に回るかも知れない」という危機感が出てきたわけです。

飯田)初めて。

佐々木)それに対して我々は、日本が侵略する側の戦争の話をするのではなく、「侵略されたらどうするか」という話をしなくてはいけなくなっている。それなのにワイドショーのコメンテーターの世界では、未だに戦後日本の「日本は侵略戦争を起こしてはいけないのだ」という脳の枠組みから、一歩も進められていない。アップデートされていないのです。

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