米で中絶権認めた判断覆す内部文書が報じられた「背景」にあるもの
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外交評論家で内閣官房参与の宮家邦彦が5月6日、ニッポン放送「飯田浩司のOK! Cozy up!」に出演。人工妊娠中絶の権利について解説した。
人工妊娠中絶の権利
人工妊娠中絶の権利を認めた過去の判例を覆す可能性があることを示す内部文書が報じられたことを受け、米連邦最高裁は5月3日、文書が本物だと認める声明を出した。人工妊娠中絶の権利を認めた1973年の最高裁判決をめぐっては、最高裁判事の過半数が判断を覆すことに同意しているとする内部文書が報じられている。
飯田)「ロー対ウェイド事件」というもので、人工妊娠中絶を認めるかどうかが争われましたが。
宮家)1973年の判決なのですが、私はそのころ学生で、アメリカに行き始めた時期でした。あのころは確かにアメリカ社会全体がリベラルでしたよ。公民権運動が1960年代でしょう。そのあとアフリカ系、女性の権利が徐々に強まっていったのが、1970年代です。
飯田)そうですね。
宮家)そのときの象徴的な事件が人工中絶を認める権利の確立です。中絶は日本でももちろん大きな問題ではありますが、アメリカでは桁違いに大きな問題なのです。宗教界を中心として、「絶対反対」と言っている強力な人たちがいるからです。
人工中絶の問題が共和党の保守のなかで強くなってきた
宮家)1970年代~1990年代くらいまでは、アメリカはリベラルな雰囲気があったけれども、その後徐々にアメリカ社会が保守化して、変な保守の人たちが出てきてしまった。そして今やナショナリスト、ポピュリスト全盛の時代になり、人工中絶の問題が共和党の保守のなかで強硬になってきたという、大きな流れを感じざるを得ないのです。
短期的には、民主党による中間選挙を念頭にした政治的な駆け引き
宮家)以上が大きな流れですが、小さな流れはどうかと言うと、問題の文書は最高裁の内部文書ですから、そもそも「なぜこんなものが部外に出るのか」ということです。根拠があるわけではありませんが、当然リークだと思います。誰がリークしたかと勝手に想像すれば、当然のことながら、リベラルの人が危機感を抱くわけですよね。50年近く維持されてきた憲法判断がひっくり返るぞ、「大変だ」と。11月には中間選挙があります。私がもし民主党の人間であれば、これは争点にしなければいけないと思うでしょう。
飯田)選挙の争点に。
宮家)アメリカの世論調査を見ると、妊娠中絶に反対しない人は7割くらいいるという話です。ですから、これを争点にしたら、民主党に有利だろうと思ったのかも知れない。しかし、そう上手く行くとは限りませんよ。
飯田)そうなるとは限らない。
宮家)この種の情報が出ること自体が大変な問題です。判決の基礎になるものかも知れないでしょう。それが外部に出てしまうということは、最高裁の長官は怒っていますけれども、この種のリークでアメリカの国内政治が動いているということです。大きなところでは社会全体が保守化しているのだけれども、短期的に見た場合、中間選挙を念頭に置いた政治的な駆け引きの一環として見るべきだと思います。
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