二松学舎大学国際政治経済学部・准教授の合六強が5月10日、ニッポン放送「飯田浩司のOK! Cozy up!」に出演。フィンランド・マリン首相の来日について解説した。
フィンランドのマリン首相が来日
フィンランドのマリン首相が5月10日に来日した。ロシアの隣国にあたるフィンランドはウクライナへの侵略をきっかけに、北大西洋条約機構(NATO)への加盟に意欲を示していて、5月11日に予定されている岸田総理大臣との首脳会談では、ロシアに対する連携を確認するとみられる。
飯田)5月10日~5月12日までの日程で来日されるということです。マリン首相は今回が初来日になります。このタイミングで日本にお越しになるというのは、狙いなども含めて、どうご覧になりますか?
合六)今回の会談自体は安全保障面だけではなく、経済的あるいは社会的な2ヵ国間のつながりを確認するための会談になると思います。重要な論点としては、ウクライナの問題、ロシアに対してどう対応していくか。日本側からすれば、インド太平洋地域における安全保障環境について、フィンランドの首相にも理解していただく。そこで両地域のつながりを確認し合うような会談になるのではないかと思います。
ロシアによるウクライナ侵略でフィンランドの70%を超える国民がNATO加盟に賛成
飯田)地図で見ても、フィンランドは長い国境線をロシアと接しています。歴史を紐解けば、攻められたことも何度となくあります。今回のことで、相当危機感は強いですか?
合六)来週にもNATO加盟を表明するのではないかと言われています。世論を見ても、今回の侵攻で大きく変化しています。フィンランドとスウェーデンは、両方とも中立と言われている国ですが、2014年のクリミア併合が1つのきっかけとなって、NATO・アメリカとの関係強化を深めてきました。しかし、加盟にまでは至らなかったわけです。世論調査でも、NATO加盟に関しては長年、20%台くらいの賛成意見で推移していたのですが、今回の侵攻を受けて60%近くになっています。直近で公開された新たな世論調査では、70%を超えていますので、国民としてもコンセンサスができつつある。今回のロシアによる侵略戦争は、それぐらいのインパクトを与えたということになります。
中立と言われるが、等距離でロシアやヨーロッパと付き合ってきたわけではないフィンランドとスウェーデン
飯田)北欧諸国は興味深いバランスのとり方をしていて、フィンランドではユーロが使えるけれど、スウェーデンの通貨は自国通貨ですよね。
合六)フィンランドとスウェーデンはよく中立と言われるのですが、中立というと「すべての国と等距離のようなイメージ」ですけれど、政治・社会面ではEUに加盟しているので、その意味では西を向いています。2014年以降、この2ヵ国は、NATO・アメリカとのバイで安全保障協力を深めてきたので、その意味では、いわゆる等距離でロシアやヨーロッパと付き合ってきたわけではないのです。
飯田)なるほど。
合六)ここを確認しておかないと、「常に中立で真ん中にいた」というイメージがあると思います。そのなかで今回は大きな1歩を踏み出したのですが、それだけのインパクトをもたらした戦争だったということだと思います。
民主主義を維持しながらソ連を批判することがタブーとされていたフィンランド ~「フィンランド化」
飯田)冷戦時代は民主主義を維持しながら、ワルシャワ条約機構にも属さず……。
合六)ワルシャワ条約機構にもフィンランドは入っていませんでした。ただ、フィンランドは独立を勝ち獲ったのですが、ある種、自己検閲をするような形で、当時のソ連を批判するようなことが事実上タブーにされていました。そういう状況を揶揄するように、西ヨーロッパでは「フィンランダイゼーション(フィンランド化)」と呼ばれることもありました。
飯田)フィンランド化。
合六)その状況をフィンランド人は嫌っていて、いまこの「フィンランド化」という言葉自体もフィンランド社会ではネガティブな意味でとらえられています。この戦争が始まる前に、一部では「ウクライナをフィンランド化してしまえ」、つまり中立を宣言させるべく大国で保障し合えというような声もありました。フィンランドではそれに対する懸念があって、自国に対しても、ウクライナのような他国に対しても、「フィンランド化」と呼ばれるような状況を押し付けるのはよくないという認識が強く出ていたということが言えます。
飯田)彼らは強大なソ連を相手に断固として戦った。それによって一定程度、ソ連に退かせたという歴史もあったわけですものね。
合六)歴史的な流れというのは非常に大きくあったと思います。ただ、そのなかで国内にいろいろな制限があったということは、いまから振り返ると苦々しい記憶として引き継がれているということなのだろうと思います。
多様なヨーロッパ ~同じような現象でも各国で微妙に受け止め方が違う
飯田)フィンランドを旅行したことがありますが、「マリメッコ」など、鮮やかなイメージのデザインがあります。冬が暗くて長く、気持ちの面でも暗くなるので「デザインで明るくしよう」と、積極的に明るいデザインを取り入れたという話を聞きました。いろいろな歴史があるのだなと感じます。
合六)ヨーロッパは多様ですよね。一言でヨーロッパと言っても、地理的にも違います。今回はフィンランドとスウェーデンが、NATO加盟について議論を深めていますが、一方でオーストリアやスイスでは、NATO加盟の議論は高まっていません。
飯田)2つとも永世中立国ですよね。
合六)それは周りにNATO諸国がいて、ある程度の安全が確保できるという側面があります。また、立場も違うので、同じような現象を見ても、それに対する受け止め方は各国で微妙に違う。そこがヨーロッパの面白さであり、興味深いところでもあります。
今回のウクライナ情勢で再確認した「同盟を組み安全保障条約があり、集団的自衛権をお互いに確認し合うことがいかに重要か」
飯田)直面している国々にとって、同盟の重要性は非常に大きい。日本にとっては日米同盟がありますが、これは大きいと思っていいですか?
合六)今回のことで再確認したのは、「同盟を組んで安全保障条約があり、集団的自衛権を互いに確認し合うことがいかに重要か」ということだと思います。プーチン大統領によってNATOは抑止されている。なかなか手出しができないということは、その通りだと思います。
「プーチン大統領はNATO諸国に対して攻撃を加えていない」という現実
合六)他方で、「プーチン大統領はNATO諸国に対して攻撃を加えていない」という現状を見ると、プーチン大統領の方も抑止されている側面があります。ですから、旧ソ連でもバルト3国がNATOに入っていて、ポーランドもワルシャワ条約機構が解体したあと、早々にNATOへ加盟するというなかで、メンバーに入ることがいかに重要かということが再確認されているでしょう。
飯田)NATOに加盟しているということが。
合六)そういう状況で、ウクライナのなかにも、長年「NATOに加盟したい」という人たちがいます。かつてインタビューした大使は、「バルト3国が羨ましい」と言っていました。彼は加盟支持派だったので、「加盟していれば、2014年のようなことはきっとなかっただろう」ということも言っていました。
飯田)NATOに加盟していれば。
合六)ですから、ウクライナがNATO加盟を希望していたというのは、よく理解できます。では「いかに安全保障を自ら確保するか」というときに、独自で核を持つというのは、いまの「核兵器不拡散条約(NPT)」の考え方のなかではあり得ない。核を持ったら当然、ウクライナは孤立化してしまいます。経済制裁を加えられるかも知れない。
ウクライナがNATOへの加盟を希望したことから始まった今回の侵攻
合六)そのような状況でNATOへの加盟を希望した。これに対して、プーチン大統領が気に入らないというところから始まった話なのだと思います。
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