実質賃金マイナスで消費が鈍化するアメリカの現状は「半年後の日本」
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経済アナリストのジョセフ・クラフトが5月17日、ニッポン放送「飯田浩司のOK! Cozy up!」に出演。今年度の補正予算案について解説した。
補正予算案、閣議決定へ
物価高などへの緊急対策の財源となる今年度の補正予算案について、政府が2兆7000億円の全額を赤字国債の発行でまかなう方向で調整に入った。補正予算案は5月17日に閣議決定され、今国会に提出される。
飯田)13日に物価高騰への「総合緊急対策」の財源の裏付けとなる補正予算案について、2.7兆円規模であるという報道が出ましたけれども、経済対策に関してはいかがですか?
クラフト)家計可処分所得の目減りを和らげるための補正予算ということで、ある意味、仕方ないのかなと思います。
飯田)和らげるために。
クラフト)ただ、原油が高止まりする、あるいはインフレが高止まりした場合、いつまで政府が予算をあてがえるのかという問題があります。皮肉なのは、政府が債券を発行しますよね。そうすると市場に債券が出回って、余計、売りが出てしまう。今度はその売りを日銀が買って、金利を抑える。金利を抑えると日米の金利差が広がり、今度は円安になる。そして円安がインフレを加速させる。このサイクルが生じないかという懸念はあります。
インフレで可処分所得が下落して、実質賃金もマイナスになり、消費が鈍化するアメリカ ~半年遅れで追う日本
飯田)可処分所得の話がありますが、いまのところは統計を見ると、預貯金が相当積みあがってきているところがある。ここをあてにしながら凌いでいくという形になるのですか?
クラフト)それはアメリカと同じですね。コロナもそうですけれども、アメリカは大体、日本の半年くらい先を行っています。いま、アメリカがどうなっているのかと言うと、コロナ禍の貯金が崩されて、インフレで可処分所得が下落し、実質賃金もマイナスになり、消費が鈍化しています。ですから明日(5月18日)の小売データは注目なのですけれども、日本も6ヵ月遅れで同じ状態になる可能性があります。いまはまだいいのですが、秋から年末にかけて、インフレがこのまま高止まっていると、もう既に兆しがありますが、相当家計への負担が大きくなるということです。
インフレ圧力は当面続く ~夏には電気とガス料金が大幅に値上げ
飯田)世界的にエネルギー価格も上がっているなかで、そこに関しては、いまのところ補助金で何とかするという対応になっています。しかし、エネルギー全体の構成も今後は考えなければいけないということですか?
クラフト)そうですね。長期的なエネルギー政策は重要ですし、岸田総理はロンドンの講演で原発再稼働を主張しています。それも重要なのですが、夏には電気とガス料金がまた値上げされる、しかも尋常ではない額です。平均的に3000円~4000円ほど上がるのではないかということです。月にですよ。
飯田)月で。
クラフト)家計への影響はかなり大きくなります。しかも原油価格がまた上昇していて、いまは114ドルくらいですよね。
飯田)1バレル当たり。
クラフト)このインフレ圧力は当面続くのだろうと思います。
原発再稼働やエネルギー供給を中長期的な展望で真剣に取り組まなければならない
飯田)今回はこの額で補正予算を組む方向になりますけれども、秋から冬に向けての落ち込みを考えると、さらなる問題があるのではないですか?
クラフト)政府は今回の緊急対策を第1弾と位置付けていますから、当然、第2弾があるということになります。しかし未来永劫、第3弾、第4弾とやっていけるかと言うと、財政的に難しいと思います。
飯田)第3弾、第4弾というのは。
クラフト)どこかの時点で原発再稼働やエネルギー供給について、中長期的な展望で真剣に政府が取り組んでいかなければ、立ち行かなくなると思います。
飯田)電気料金や家計もそうですけれど、企業活動に関しても厳しいですよね。
クラフト)企業物価が1981年以降、最大の伸びとなる10%上昇ということですから、企業もそうですし、家計への負担も大きいということです。
飯田)そうですよね。
参院選を乗り切り、安定政権にしてから中長期的な展望に
クラフト)バイデン政権が中間選挙で大敗すると言われている要因が、インフレです。日本もやがてインフレが政権にのしかかってくる可能性は十分にあります。岸田政権は7月の参院選までは何とか抑制して、乗り切りたいというところはあるのではないでしょうか。
飯田)確かに選挙は乗り切るけれども、その先を考えますとね。
クラフト)選挙を乗り切って安定政権にして、「では中長期的な展望に入りましょう」となればいいと思うのです。政権はとにかく参院選に勝つということです。
ロンドンの講演で原発再稼働と水際対策の緩和について言及した岸田総理
飯田)せっかくの機会ですから、エネルギーに関する中長期的な政策課題も議論してもらえるといいですよね。
クラフト)なかなか選挙前では難しいのですけれども、岸田総理がロンドンの講演で、原発再稼働と水際対策の緩和について言及しました。選挙では突っ込まないような政策なのに今回明言したのは、自信があるのか、あるいは近々の課題として避けられないのか。言及したこと自体は評価できます。
飯田)日本国内ではそれほど報じられませんでしたが、海外メディアでは注目されたようですね。
クラフト)明確に意思表示したのがその2点です。海外の方々は現状、日本へ入りにくいですよね。ですから日本への投資はなかなかできないというところで、「インベスト・イン・キシダ」の一環として「水際を緩和しますので来てください。それから原発も再稼働します。企業も大丈夫ですから、投資してください」という意図があるのだと思います。
サハリンの権益を安易に捨ててはいけない ~したたかな戦略が必要
飯田)ウクライナへの支援の文脈で考えても、こちらで使っていた分のLNGを他へ回せるとなると、例えばドイツなどへの支援にはなりますものね。
クラフト)サハリンの権益の話がありますが、日本としては権益を守りつつ、「ガスの一部は欧州にも回せるから、わざわざ中国に権益を渡す必要はないよね」ということは主張していると思います。
飯田)なるほど、「持っているだけ」ではなく。
クラフト)ただ単にロシア反対、撤退ではなく、戦略的に何が国益に精通しているのかを精査して、したたかに戦略を取っていくべきです。日本にとって、エネルギー政策は重要な課題ですから、安易に権益を捨ててはいけないと思います。
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