外交評論家で内閣官房参与の宮家邦彦が5月20日、ニッポン放送「飯田浩司のOK! Cozy up!」に出演。米バイデン大統領の日韓歴訪について解説した。
アメリカのバイデン大統領が日韓を歴訪
アメリカのバイデン大統領は就任後初めてのアジア訪問として、5月20日~24日までの日程で日本と韓国を歴訪する。日本では新たな経済圏構想「インド太平洋経済枠組み(IPEF)」の設立を発表し、日本、アメリカ、オーストラリア、インドの4ヵ国による協力枠組み「クアッド」首脳会合も開く予定。ただ、バイデン氏の歴訪中、北朝鮮が核実験などの挑発行為に出ることも警戒されている。
飯田)韓国に向かう大統領専用機のなかで、サリバン大統領補佐官(国家安全保障担当)が、核実験などに踏み切る可能性があるという認識を改めて示し、「あらゆる脅威や攻撃に断固として対応する」と牽制(けんせい)したそうです。
宮家)やりかねないですよね。北朝鮮は相当圧力を感じていると思います。国内のコロナ感染があのような状況ですから、何かをやってくるとは思います。
飯田)そうですね。
宮家)今回のバイデンさんのアジア訪問は、以前から決まっていたことだと思います。その間にロシアのウクライナ侵攻が始まってしまい、微妙に軌道修正しなければならないこともあると思います。今回の目的は「我々がインド太平洋地域を重視する姿勢は変わりません」というアピールでもあるので、それは結構なことですし、新聞に書いてある通りだと思います。
飯田)日韓訪問が。
宮家)欧州と中東とインド太平洋、つまりアジアですが、この3つの地域で同時に何か起きた場合、アメリカにはすべての方面に対応できるような力はありません。
欧州と中東が安定し、アメリカをアジアに向かせたい日本
宮家)今回のように、インド太平洋への重視を明確にしたのはいいけれども、ロシアがウクライナに侵攻していて、もしかしたら、これからも続くのかも知れない。そうなれば、我々も戦略を微修正しなければならないのです。アメリカが二正面作戦、または三正面作戦ができない以上、「米軍」というアセットを世界中のどこが使うかという話になります。我々からすれば、当然ながら日本一国では抑止できないわけですから、こちらにも来て欲しい。
飯田)日本としては。
宮家)米軍をここに置いておくにはどうすればいいか。すなわち二正面作戦や三正面作戦ではなく、一正面作戦にすればいいわけです。インド太平洋地域で一正面作戦を行うにはどうすればいいかというと、欧州が安定し、中東が安定するということです。これが日本の戦略であるべきです。
飯田)欧州と中東が安定すること。
宮家)欧州が安定するためには、NATOにしっかりしてもらい、強力な抑止力を持たせる。その意味では、フィンランド、スウェーデン等々が入るのはいいことです。
中東を安定させるためにはアメリカとサウジアラビアとの関係改善が必要
宮家)もう1つ大事なことは、中東で、この混乱を利用して何かしようと企む人が絶対に出てきます。それをどう抑止するのか。イランは当分、抑止されそうにないので、いまあるべきものが機能しなければならない。すなわちアメリカとサウジアラビア、または湾岸諸国との関係がなければいけません。
飯田)サウジアラビア、または湾岸諸国との。
宮家)ただ、残念ながらサウジアラビアとアメリカの関係は、いままでも決してよくなかった。特にバイデンさんになってからです。バイデン政権は党内に左派がいますので、人権問題でサウジアラビアと相容れないのです。トランプ政権時代はよかったのですけれどもね。
飯田)人権問題で。
宮家)さらに石油が足りず、ロシア産原油はもしかすると、誰かが代わりに増産する必要があるかも知れない。そしてイランのこともあります。中東を安定させるために、「多少のことには目を瞑ってでも、サウジアラビアとの関係を改善しなければいけない」という声はワシントンでも聞かれます。
ポイントとなる日韓関係の改善
宮家)つまり、我々もいろいろなことを考えるときに、常に欧州方面、中東方面も考えながら戦略を練らなければならないわけです。そういう意味で、今回の日韓訪問は極めて重要です。しかも、いま申し上げたような観点から、日本も積極的に見ていく必要がある。その上で、何が大事かと言ったら、いろいろな経済安全保障の問題もあるでしょう。それからIPEF……。
飯田)インド太平洋経済枠組み。
宮家)TPPとは違う枠組みですし、条約や貿易協定ではないので微妙に異なり、いろいろな細かい論点はありますが、最も重要なのは、やはり日本と韓国の関係改善です。どれだけアメリカが関心を持って働きかけてくるかはわかりませんけれども。
飯田)日韓関係の改善。
宮家)韓国の大統領も代わったのですから、そこがいちばんのポイントになると思っています。そこが動いていけば、自然と日米韓の抑止力は高まっていく。それによってこの地域の安定を図ろうということだと思います。
実務的なところを日米韓で詰めつつ、日韓の状況を改善する
飯田)6月10日からシンガポールでアジア安全保障会議(シャングリラ会合)が開かれますが、そこで日米韓の防衛大臣の会合を行うという報道が出ています。政治的には軋轢があるところですが、実務面では動き出しているのですか?
宮家)文在寅政権のときは、おそらく向こうが嫌がっていたのでしょう。しかし新政権になって、大きな抵抗は減るだろうと思います。日韓だけでやろうとすると大変だけれども、日米韓で動く限りにおいては、アメリカが絡むので、韓国も動きやすいと思います。当分は日韓で行う前に、日米韓で実務的なところを詰めていき、状況が改善していけば日韓で話し合うような形になると思います。
飯田)韓国相手ということになると、我々からすれば、火器管制レーダー照射などもありましたから。
宮家)韓国に対しては、言いたいことはいくらでもあるわけです。少数与党でやるわけですから、彼らも慎重に出てくるだろうけれど、急に大きく物事が動くことはないでしょうね。徐々にやっていくのだろうと思います。我々はいい意味で、お手並み拝見しながら見ていくということだと思います。
「これまでの政権とは違う」とイメージチェンジを図る尹大統領
飯田)韓国の大統領府はいままで青瓦台にあったのですが、尹政権になり、オフィスを国防省の辺りに移したということです。これもやはり安全保障重視の表れですか?
宮家)それもそうですけれど、尹さんはもともと検事総長で、政治のプロではないですよね。ですから、いろいろな意味で、それまでの政権との差別化を図ろうとしているのではないでしょうか。青瓦台は遠いですし、巨大です。大統領に辿り着くまで、補佐官などの方々がたくさんいるでしょう。ああいう人たちの数を減らして、より国民に近いような印象を出そうとしている。いろいろな意味で、彼は大統領としてのイメージチェンジを図っているのではないでしょうか。いいことだと思います。
韓国政権が代わり、改善の方向には向かうが、道は遠い
飯田)バイデン大統領が日本に来て、クアッド首脳会合も行われますが、将来的にはクアッドの枠組みなどに韓国を入れるようなことも考えられますか?
宮家)急に舵は切れないでしょうね。そういう状況をつくるための環境づくりが始まるのではないでしょうか。その方向に動けばいいと思いますが。
飯田)例の慰安婦問題で日韓合意したとき、バイデンさんは当時、副大統領として汗をかきましたので、韓国の事情を知っていると言えば知っている。
宮家)岸田さんもそうですからね。
飯田)外相でしたものね。
宮家)少なくとも、ゴールポストを動かさなくなるだけでもいいとは思うのだけれど、最終的には、完全な合意はできないですからね。最後は「意見が違う」ということを、お互いに認め合わなければいけないのだけれど、まだまだ道は遠いという感じがします。
番組情報
忙しい現代人の朝に最適な情報をお送りするニュース情報番組。多彩なコメンテーターと朝から熱いディスカッション!ニュースに対するあなたのご意見(リスナーズオピニオン)をお待ちしています。