キャスターの辛坊治郎が7月19日、自身がパーソナリティを務めるニッポン放送「辛坊治郎 ズーム そこまで言うか!」に出演。この日プロへの転向を表明したフィギュアスケート・羽生結弦選手のこれまでとこれからについて、元共同通信社スポーツ企画室長でフリースポーツライターの船原勝英氏と語り合った。
フィギュアスケート男子で進退を明言していなかった羽生結弦選手がプロに転向する意向を表明した。羽生選手は19日、決意表明の場として東京都内で記者会見した。
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辛坊)ファンの皆さんはショックだと思います。それは分かるんですが、私には「長年よく頑張ってくれたな」という思いもあります。いかがですか。
船原)その通りだと思います。私は、「来るべき時が来たのかな」という思いです。羽生選手は1994年生まれの27歳。米大リーグで活躍する大谷翔平選手と同学年なんですね。一般のアスリートなら、これから心技体ともに全盛期を迎える時期です。しかし、フィギュアスケート界では超高齢選手になります。スケートを始めて四半世紀になろうというキャリアを持ち、しかも五輪で2大会連続の金メダルを獲得しました。「やることは全てやった」といえる競技人生です。「来るべき時が来た」とは、そういうことなんです。
辛坊)新聞の見出しには「引退」という表現が使われるのかもしれません。でも、記者会見での発言からは、「別に競技会ではなく、アイスショーでもスケートを続けていくということは引退ではなく、表現の方法1つなんだ」というような感覚に過ぎないのではないかと感じました。
船原)そういうことなんですよね。「心のアップデート」という言い方が最も適切なのかもしれません。五輪をはじめとする競技会にターゲットを絞るのではなく、プロのスケーターとして本当の意味で観客に楽しんでもらえる、本当に喜んでもらえる「羽生結弦のスケート」をこれからも追求していくということなんだろうと思います。
辛坊)かつては、いったんプロのスケーターに転向すると、なかなか競技の世界には戻れませんでした。今は、どうなんでしょうか。
船原)今はある意味、出入り自由という感じですから、カムバックも可能ではあります。
辛坊)次の冬季五輪は4年後です。仮に後継者が出てこなくて、どう考えても羽生選手が一番だということになったら、競技人生に戻ってくるんでしょうか。
船原)どうなんでしょう。羽生選手の考え方は分かりません。ただ、引退を決意した要因の1つとしては、足首の故障が慢性化していて、自分が本当に目指す非常に高度な技「クワッドアクセル(4回転半)」を追求していくうえでは、足がもたなくなったということがあります。私は、引退理由としては相当大きいのではないかと思ってるんですよ。
辛坊)第一線でかなり長く頑張ってこられて、体にも相当なストレスがかかっていたということですか。
船原)2014年ソチ五輪で初の金メダルを獲得した羽生選手は次の18年平昌五輪の前、足首に大きなけがをしました。普通なら出場できないというくらいの大けがだったんです。しかし、コーチのブライアン・オーサ氏の下での医療・リハビリシステムが優れていたため、短い期間で自分のレベルを取り戻すことができました。それが、奇跡的な金メダルにつながったわけです。私は「もう無理なのではないか」と思っていました。それでも金メダルです。2大会連続の金メダルは、そうした綱渡りの上に成し遂げられました。
辛坊)今後、プロのスケーターとしては、求められるものもコンディションづくりも違ってくるのでしょうね。
船原)違うとは思います。とはいっても、競技を引退した選手たちの中には現在もアイスショーにでている方がたくさんいるんですよ。プロ野球選手などとは、だいぶ違います。フィギュアスケート界には非常に高いクイオリティーをずっと維持している方が多いという印象がありますよね。
辛坊)その意味では、27歳というのはまだ若いですよね。プロのスケーターとして、これからますますファンを楽しませてくれるチャンスは増えそうですか。
船原)それは、あると思います。ただ、羽生選手が今までやってきたことは、スポーツ界では次元の違うレベルです。例えば、ゴルフならタイガー・ウッズ、陸上競技ならウサイン・ボルトのような存在です。なぜかというと、彼はフィギュアスケートのテーマは、最高度に技術性と芸術性を融合させ、観客をひきつけるパフォーマンスができるかどうかなんです。それを初めて実現した選手といってもいいかもしれませんね。
辛坊)最近のフィギュアスケート界の傾向は、そうした羽生選手の思いとマッチしているのでしょうか。
船原)そこは必ずしもマッチしていないと思います。例えば、先の北京五輪で金メダルを獲得したネーサン・チェン(アメリカ)ですが、彼の4回転は確かにすごいです。とはいっても、着氷のエレガントさを見たら、羽生選手とは雲泥の差があります。しかし、採点基準では、そこはあまり重きを置かれていません。それをどう見るかなんですよ。最近の規則改正で、羽生選手がやってるように4回転なり難しいジャンプの前に難しいステップをさりげなく入れて飛んでる、それから降りてる、着氷してきれいに次の技に移るっていうところを高く評価するような方向になりやすいんですよね。羽生自身が示してきて、これで競技から引退したのは残念ですけども、そういうところがなかなか評価されなかった。そこらあたりは、彼自身も「もっと評価してほしいなあ」と、口には出さないけれども、それは必ず思ってきたと思うんですよ。
辛坊)羽生選手にはアイスショーでも頑張ってほしいです。ところで、後継者はいるんでしょうか。
船原)鍵山優真選手ら有望な若手はいますが、100年に1人の逸材の後には、そうそういません。それでも、とてもエレガントな日本の美意識を体現したスケートを滑ってくれる宇野昌磨選手をはじめ、羽生選手ほどのスケールにはならないけれども、後継者はいると思いますよ。
辛坊)なるほど。でも残念ながら、一時代が1つの幕を下ろしたのは仕方のない事実ですね。
船原)しかし、2大会連続で金メダルを見せてくれましたからね。羽生選手ならこの後もきっと、また別次元のアイスショーを見せてくれると思います。
辛坊)大いに期待したいですね。
番組情報
辛坊治郎さんが政治・経済・文化・社会・芸能まで、きょう一日のニュースの中から独自の視点でズームし、いま一番気になる話題を忖度なく語るニュース解説番組です。
[アシスタント]増山さやかアナウンサー(月曜日~木曜日)、飯田浩司アナウンサー(木曜日のみ)