「プーチンインフレ」と「岸田インフレ」 財政出動か金融引き締めか

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ジャーナリストの佐々木俊尚が8月17日、ニッポン放送「飯田浩司のOK! Cozy up!」に出演。バイデン大統領が署名したインフレ抑制法について解説した。

「プーチンインフレ」と「岸田インフレ」 財政出動か金融引き締めか

ロシアのプーチン大統領は、ヤロスラヴリ州知事とのビデオ会議を開催 2022年8月3日 Mikhail Klimentyev/Kremlin Pool/Planet Pix via ZUMA Press Wire/共同通信イメージズ

バイデン大統領、インフレ抑制法に署名

バイデン大統領は財政赤字削減と気候変動対策を柱とする、約57兆4000億円以上の規模のインフレ抑制法に署名し、同法が成立した。予算規模は当初案から縮小したが、バイデン政権の目玉政策で、11月の中間選挙に向けて与党・民主党やバイデン氏にとって追い風になると言われている。

飯田)アメリカはインフレを何とかしなければいけない。

佐々木)相当なインフレのようです。好景気だということも後押ししています。日本とは全然状況が違うことを認識しておく必要があります。アメリカは人手不足の問題が大変で、とにかく給料が上がっています。転職すると給料がよくなるので、みんなが転職していなくなってしまう。人手不足が加速している状況です。

日本のインフレはコストプッシュインフレなので、インフレ抑制については慎重に議論するべき ~欧米と同じ状況ではない

佐々木)あのような状況を見ていると、転職しないでいまの仕事に留まり、給料を上げていくのは難しいだろうなと思います。日本で給料が上がらないのも、そこに1つの原因があるのではないでしょうか。

飯田)転職せずに給料を上げるのは難しい。

佐々木)かと言って、簡単に雇用を流動化すればよいという話ではありません。それで苦しむ人もたくさん出てきますから、アメリカのようにすればいいということではないです。ただ、だいぶ状況は違います。

飯田)日米では。

佐々木)日本の場合、インフレであることは同じですが、基本はコストプッシュインフレです。エネルギーや食料品の価格がインフレを起こしている。すべてのものが上がっているわけではなく、エネルギー関係と食品関係しか上がっていません。ですので、どうやってインフレを抑制するのかについては、もう少し慎重に議論した方がいいと思います。

飯田)日本の場合は、ですね。

「プーチンインフレ」と「岸田インフレ」

佐々木)与野党でインフレの原因が違うことを言い合っているという指摘があります。「プーチンインフレ」と「岸田インフレ」という言葉があるそうです。

飯田)「プーチンインフレ」と「岸田インフレ」。

佐々木)自民党が主張しているインフレの原因はプーチン、ウクライナ侵攻だと。その影響でエネルギーと食品の価格が上がっている。これは正しい見立てだと思います。

「欧米がやっているように日本も金融の引き締めを行うべきだ」というのは単純すぎる

佐々木)立憲民主党は「岸田インフレ」だと言います。アベノミクスから続く金融緩和をやめないので、インフレになっているという主張です。ただ、これをやめるかどうかは相当議論になっていて、いまここでやめてしまうと、コロナ禍が落ち着いて成長軌道に乗ってきている経済をもう一度デフレに向かわせ、失速させてしまう危険性があります。だから緩和はやめられず、どうなるのか予測がつかない状況です。

飯田)ここで金融緩和をやめてしまうと。

佐々木)経済学者ではないので、どちらが正しいと言い切れる根拠はないのですが、「欧米がやっているように日本も金融の引き締めを行うべきだ」というのは、単純明快すぎる議論だと思います。

飯田)借り入れして何とかやっている企業からすると、利上げされれば利払いが増えることになります。倒産件数が少しずつ増えている現状で、それをやっていいのか。

「プーチンインフレ」と「岸田インフレ」 財政出動か金融引き締めか

2022年7月15日、挨拶する岸田総理~出典:首相官邸ホームページ(https://www.kantei.go.jp/jp/101_kishida/actions/202207/15jvca.html)

金融の引き締めではなく、財政出動が必要 ~エネルギーの高騰に対して補填する方が、生活は楽になり、経済の活性化にもつながる

佐々木)欧米の場合は景気がいいから、金融の引き締めをしても大丈夫だということです。日本は景気がよくないので、ここで金融の引き締めをしたら、インフレは収まるかも知れませんが、同時に景気も失速してしまう可能性を考えなければいけません。「岸田インフレ」か「プーチンインフレ」かと言われれば、私は「プーチンインフレ」ではないかと思います。

飯田)全体像ではなく、ピックアップした部分だけで「物価が上がっているから引き締めだ」という話になっている。8月17日の報道では「みずほマイナス金利、日銀の当座預金9000億円で」という記事が出ています。9000億円も損をしているのかと思いましたが、実際にみずほが損をしているのは7000万円だということです。ボーダーが違いました。

佐々木)この状況のインフレに対して、どう対応するのか……。私は金融の引き締めではなく、財政出動ではないかと思います。財政出動すると、さらにお金の総量が増えてインフレを後押ししてしまうという議論もあります。しかし、コストプッシュインフレで景気が浮揚していない状況では、財政出動でお金をもう少しばら撒く方がいい。例えばエネルギーの高騰に対して補填する方が、生活は楽になり、経済の活性化にもつながると思います。なぜか財政出動してインフレ抑制という議論にはなっていないですよね。

飯田)そこで経済が回り、賃金が上がることによって、別の側面からインフレの痛みを緩和できると。

必ずしもコストプッシュインフレだから賃金が上がらないということではない

佐々木)「コストプッシュインフレだから、インフレでも賃金は上がらない」という議論がよくあります。もともとアベノミクスや金融緩和の狙いは、お金の総量を増やすことでインフレを起こす。インフレを起こしたら、賃金も自動的に上がっていくと。ただ、それは自動的に起こることではありません。

飯田)自動的ではない。

佐々木)マインドの問題などいろいろとありますが、少なくともインフレによる物価上昇に対し、許容できる人を増やす必要があると思います。いつも行っているスーパーの卵が100円から120円になったときに、買えないから他のスーパーに探しに行くのではなく、「値上がりは仕方ない」と120円で買うようになる意識です。

物価許容マインドを上げる

佐々木)物価許容マインドが上がると、企業側も値上げしやすくなるので、上がった部分がコストだけでなく、雇用にも回る期待ができるというロジックです。

飯田)無理矢理許容するのではなく「賃金が上がっているから大丈夫かな」という感覚に持っていけばいいということですね。

佐々木)そのようにマインドが変わることを期待する。必ずしもコストプッシュインフレだから給料が上がらないというわけではないのです。マインドが入ってくるものなので、なかなか判断としては難しいところですが。

ここで一気に財政出動をするべき

飯田)まさに「景気の気は、気分の気だ」ということで、どう刺激していくかは政府の腕の見せどころのはずです。

佐々木)少なくとも金融引き締めでマインドが変わらないのは間違いありません。財政出動でばら撒いて、お金がある状態を見せるしかないと思います。アベノミクスがうまくいかなかったのは、金融緩和を行ったけれど、財政出動が中途半端だったからだと言われていました。

飯田)出したのは、実は最初の1年半ぐらいだけですものね。

佐々木)ここで一気に財政出動し、景気がよくなれば税収も増えて、財務省も大喜びという展開になって欲しいと思います。

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