5回目の宇宙へ! 若田光一宇宙飛行士への単独インタビュー(その2)

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「報道部畑中デスクの独り言」(第301回)

ニッポン放送報道部畑中デスクのニュースコラム。今回は、JAXA宇宙飛行士・若田光一さんへのインタビューについて---

若田光一宇宙飛行士(2022年7月21日記者会見)

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来月(=10月)の宇宙への長期滞在に臨むJAXA宇宙飛行士の若田光一さんに、このほど単独インタビューを行いました。今回はその後編です。

5回目の宇宙、未経験の船外活動への意欲の他、いよいよ第一歩を踏み出す月への再挑戦「アルテミス計画」についても話が及びました。若田さんが向かう国際宇宙ステーションでも、月面探査につながる実験が行われます。

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(畑中)国際宇宙ステーションでも、月面・火星探査に向けて意義ある実験が予定されていると聞いています。

(若田)月、火星探査に向けた技術実証という観点からも、きぼう日本実験棟は非常に重要な実験設備なのですね。そのなかで今回、私が軌道上に滞在するときにJAXAとして行うことになっている実験というのが、低重力環境下における液体の挙動を調べる、そのデータを取得するミッションです。低重力というのは月や火星……月は地上の約6分の1G、火星は約3分の1Gですけれども、そういった低重力環境下における液体の挙動を調べるものです。どういうことかと言うと、月や火星探査では、有人与圧ローバ(月面探査車)や生命維持装置など、いろいろなシステムでさまざまな流体・液体を使うのですね。そういった液体の挙動が、月や火星の重力下でどのようになるかというのは非常に重要なデータで、その挙動をきちんとデータとしてとることによって、月や火星で使う機器の設計にフィードバックし、最適な設計をするというのが目的です。具体的に言うと、例えば有人与圧ローバでは、走行系の機器のギアボックス、ここに潤滑オイルが使われるのですけれども、その潤滑オイルの挙動が月の重力ではどうなるか。燃料電池、水素と酸素から電力を発生させるものですが、そこから発生する水と空気を分離させるシステムの設計にも、きぼうの実験結果がフィードバックされるので、そういった月・火星のシステム設計に向けて重要なデータを取得できる機会だと思っています。

(畑中)若田さんはかつて、JALのエンジニアでした。機械と潤滑油に接していたという意味では、個人的にも興味ひとしおではないですか?

(若田)そうですね。特に有人与圧ローバの走行系のギアボックスというのは、私は航空機の整備も担当しましたし、自分でもやはり車や、特に学生のころはオートバイを自分で整備していましたので、いろいろな意味で油とは縁が深いのです。将来、日本製の有人与圧ローバが月面で活躍するときに、やはり日本の乗り物というのは非常に信頼性の高いものですので、こういった詳細なデータをきちんと取っておくということが、実は月や火星でも日本の乗り物、ローバというものがきちんと動くのだと、そういったものを確実に実現するために重要ではないかと思います。

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いわば、“アブラ”が乗り切った状態の若田さん。将来、月の表面に立つ与圧ローバ、月面探査車を無事に動かすためのデータ収集を担うというわけです。日本の実験棟「きぼう」の装置では、これからもさまざまなアイデアが期待されます。

一方、足元で気になるのは国際宇宙ステーションにおける国際協力体制です。地球上ではご存知の通り、ロシアによるウクライナ侵攻が宇宙開発の分野でも影を落としています。宇宙飛行士の立場として、若田さんの考えは?

若田光一宇宙飛行士(2022年7月21日記者会見)

若田光一宇宙飛行士(2022年7月21日記者会見)

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(畑中)足元を見ますと、ウクライナ情勢をめぐり、国際宇宙ステーションの運用からロシアがいずれ手を引くという話もあります。7月の記者会見でも質問が集中しましたが、改めて国際社会と宇宙の平和は両立しうるものですか?

(若田)国際宇宙ステーションに関しては、現在のウクライナ情勢の下でも、世界各国がそれぞれのモジュールを責任をもって運用していますので、安全上の問題が発生するという状況ではありません。特に今回、「Crew-5」では初めて、ロシアの宇宙飛行士がアメリカの新型宇宙船に搭乗するということです。米国人、ロシア人、そして私、日本人のクルーの間の連携は非常に強固なものですし、現時点で国際宇宙ステーションにおける国際協力は着実に、確実に進んでいると思います。私たちができるところに注力して、私たちができるところで国際間の連携を確固たるものにし、ISSの利用成果を最大化していくことが私たちに託された任務であると思いますので、そこに注力していきたいなと思います。

(畑中)素朴な疑問ですが、例えばロシアのズヴェズダやザーリャに「出入り禁止」などということにはならないのでしょうか?

(若田)いや、それはまったくないです。いまでも国際宇宙ステーション上には米ロ、ヨーロッパの宇宙飛行士がいますし、私もロシアの管制局と本当に毎日、非常に緊密な連携をもって……もう、緊密に連携しなかったら宇宙ステーションの運用はできないので、そういう意味ではロシアの区画も含め、地上管制局同士の連携もきちんと行われています。軌道上のクルーはもちろんチームワークをきちんと取って、作業ができている状況です。

(畑中)ちなみに、日本のモジュールとロシアのモジュールでは雰囲気が違いますか?

(若田)世界各国のモジュールそれぞれに独特な印象があります。当然、大きさですとか、なかで使われるモジュールの内装の色ですとか、照明の明るさとか、いろいろ違いますけれども。日本のモジュールは実はいちばん大きくて、非常にきれいな印象ですね。ロシアのモジュールは、最も古いモジュールのなかの1つですけれども、生活感が漂っているような……居住棟であれば食卓があったり、トイレや寝室があったり、地球観測をする窓があったりといった形で、こじんまりと生活感が出るような印象があります。それぞれの国のモジュールで、印象が違うなと思います。

(畑中)それぞれにまた、居心地がいいのでしょうね?

(若田)やはり同じものがあるというよりも、それぞれのオンリーワンという形でいろいろな特徴があり、それが集まって1つの巨大な宇宙ステーションというシステムを構成していますので、独自性があるというのはとても大切だと思います。

(畑中)改めて、今回の宇宙飛行でご自身の役割についてお願いします。

(若田)5回目の飛行というのは、米ロ以外では初めてのケースになるということがありますので、ベテランの経験者としてルーキーの宇宙飛行士たちを支え、国際宇宙ステーションの利用成果を最大化させる。これが私の役割だと認識しています。あと、1992年、私は宇宙飛行士候補者として選ばれましたけれども、実はその年は毛利宇宙飛行士が初飛行した年で、(2022年は)毛利さんの初飛行から30年の記念となる年です。この30年間、スペースシャトルを利用したさまざまなミッションや、国際宇宙ステーションのきぼう、こうのとり、その開発、運用、利用といったものを含めて、日本の有人宇宙活動が着実に技術を高めてきたと思います。これからは地球低軌道の民間利用の拡大や、月・火星といった国際宇宙探査に向けた技術獲得というのは非常に重要になってきますので、きぼうの強みを駆使して、そういった分野でも利用成果を出していきたいなと思います。そういったところは私の任務ではないかと思っています。

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毛利衛さんの初飛行から30年。バブル崩壊後の日本は「失われた30年」と言われますが、宇宙開発の分野においては「培われた30年」ではなかったかと思います。小惑星探査機「はやぶさ2」の快挙も記憶に新しいところです。

若田さんの話からは、日本という国を背負いながら、これまで力を培ってきたしっかりした芯を感じます。将来の自らの月面着陸にも意欲を示していました。(了)

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