外交評論家で内閣官房参与の宮家邦彦が10月7日、ニッポン放送「飯田浩司のOK! Cozy up!」に出演。北朝鮮による弾道ミサイル発射を受けて行われた岸田総理と韓国・尹大統領の電話会談について解説した。
岸田総理大臣が韓国の尹大統領と電話会談、北朝鮮のミサイル発射を非難
北朝鮮による弾道ミサイルの発射が相次いでいることを受け、岸田総理大臣は10月6日、韓国の尹錫悦大統領と電話で会談した。両首脳は北朝鮮の一連の行為を強く非難し、安全保障協力を含めて今後、日米韓3ヵ国で連携して対応することを確認した。
飯田)10月6日夕方に、約25分間の電話会談が行われたということです。
宮家)徐々に日韓の話し合いが進んでいくのは結構なことだと思います。それにしても、朝鮮半島の専門家たちは大変だと思いますよ。ミサイルが1発撃たれるたびに、「なぜ北朝鮮はこんなことをするのですか?」「どういう意図があるのですか?」というような質問に対して尤もらしい説明しなくてはいけないのです。でも、真の意図はわからないですし、向こうも本当のことを言うわけがありません。
北朝鮮のミサイル発射が日本の防衛強化につながる
宮家)彼らは開発したミサイルをテストしているだけなのです。今回、私が言いたいのは「北朝鮮のやり方はやはり賢くない」ということです。1998年8月31日に、北朝鮮から「テポドン」が日本の上空を飛んだではないですか。
飯田)あのときも列島を飛び越えていきましたね。
宮家)私は当時日米安保条約課長だったので、よく覚えています。8月2日に課長になって、「お前の仕事はミサイル防衛の研究を開始することだ」と言われました。それまでは官房長官のところで止まっていたわけです。それで困って、どうしようかと思っていたら北が「ポンッ」と撃ってくれたので、「研究を始めましょう」という流れになった。日本は残念ながら外圧で動くので、北朝鮮がミサイルを撃つと、逆効果で日本の防衛が強化されてしまうのです。
飯田)なるほど。
宮家)5年前もそうでしょう。
飯田)そうですね。2017年。
宮家)あのときもイージス・アショアの計画が動いたわけです。今回もそうです。(ミサイルを)撃ってくれれば、日米韓のいろいろなミサイル防衛の連携も進められますし、当然ながら、北朝鮮に対する立場が一致します。日韓関係の話までするようになるのです。要するに、金正恩さんのおかげで日韓関係が動いていくのです。
伝統的に「圧力が掛かってこないと動かない」日本 ~今回のようなことをきっかけに少しでも日韓関係をいい方向に
飯田)作用・反作用のようなものは必ずあるわけですね。
宮家)そうです。彼らからすれば脅したつもりかも知れませんが、それには反作用があるということです。本当は外圧がなくても、やるべきことをやらなくてはいけないのだけれど、日本は残念ながら今回のように、「圧力が掛かってこないと動かない」という黒船以来の伝統があります。それでも、いい方向に動くならば、ないよりはいいと思います。
飯田)そういったものを奇貨としつつ、自分たちで考えていかなければならない。
宮家)そういう意味で、これから日韓間の方は難しいと思いますけれども、25分とはいえ首脳レベルで話し、共通の議論ができるわけです。そこを何とかうまく持っていく。もともと日韓は100%合意できるわけがないのだから。
飯田)もともとが。
宮家)私が知っている1990年代でも、例えば竹島の問題はお互いに言い合って終わりでした。“Agree to disagree”なのですよ。元に戻すといっても、そこまでしか戻らないと思うのですが、それだけで充分だと思います。少しずついい方向にいけばいいなと思っています。
飯田)“Agree to disagree”、「一致しないということでわかり合う」という。
宮家)そうです。昔の日韓はそうだったのです。
機能していない国連 ~北朝鮮を守るロシアと中国
飯田)アメリカとの連携や日米韓での連携をしつつ、日本として何ができるのか。2022年末に向けて安全保障に関する3文書、「国家安全保障戦略」などが改定されます。
宮家)改定自体は北朝鮮と直接関係があるわけではなく、もともとは安倍政権のときの国家安全保障会議で、最初の国家安全保障戦略をつくりました。しかし、まず戦略があり、大綱があって中期防衛力整備計画があるという、体系立てて3つの文書をつくるのは今回が初めてです。それまでは戦略が最後にできていたのです。戦略は最初につくるものですよね。
飯田)本来であれば。
宮家)まず戦略をつくり、そこに肉付けをしていくという作業がようやく始まるということは、結構なことだと思います。北朝鮮は先ほども申し上げた通り、(ミサイル発射などを)やればやるほど、日本にとってやらなければいけないことが見えてくる。日本はそれを粛々とやらなければいけないということです。
飯田)対応して。
宮家)今回のことで残念なのは、国連ですよね。ウクライナ情勢でも、国連は以前から機能しにくかったところがあるけれど、ロシアも中国も北朝鮮を守る。完全に安保理が機能しなくなっているのが実態です。もちろん、我々は安保理にある程度期待しなければいけない部分はありますが、とてもではないけれど、国連だけでは問題解決は無理ですよね。
これまでの「撃ち落とす」だけのミサイル防衛では抑止力にならない
宮家)今回、ミサイルを撃った内容や技術的なレベルを見ていると、いくつか言えることがあります。1つは、北朝鮮は核開発を絶対にやめないということです。
飯田)やめることはない。
宮家)2つ目は、いままでのように「撃ち落とす」というミサイル防衛だけで、果たして抑止力になるのかということです。北朝鮮は明らかにミサイル防衛を超える、もしくは裏をかく新しいミサイルを開発しているわけですから、当然のことながら迎撃だけでは不十分になってきます。
飯田)これまでのミサイル防衛では。
宮家)そうすると3文書に戻るのですが、「打撃力」と呼ぶか「対処能力」と呼ぶか、何と呼んでもいいのだけれど、防衛行為としてミサイルを迎撃するだけではなく、あえて言うと「こちらが攻撃したらあなたたちは終わりだけれども、わかっているのか」「日米韓で本気で反撃するぞ」というメッセージを出して、北朝鮮に「これ以上できそうもない」という形で抑止を効かせる時代になりつつあるのではないでしょうか。今はそのことを誰も言わないのです。気付いていながら言わないのかも知れませんが、私はそろそろこのことをみんな理解していいのではないかという気がします。
飯田)そろそろ理解してもいい。
宮家)北朝鮮がミサイル開発をこれだけやってきて、我々はいままで通りミサイル防衛だけで抑止できるのでしょうか。私はできないと思います。
抑止のために攻撃能力は必要
飯田)その部分を見せるということですね。この話になると、「どれくらいの射程のものを持つのか」など、細かい話になりがちですけれども。
宮家)「ICBMを持とう」と言っているわけではないのです。
飯田)大陸間弾道弾。
宮家)しかし、日本は最小限の攻撃能力すら持たずにいたわけです。軍隊ですから、少なくとも通常の国ならどこでも持っているような攻撃能力は当然、持たなくてはいけません。それが抑止力です。攻撃して戦争になることを望んでいるのではなく、戦争を起こさせないために強い力を持ち、「相手に手を出させない」ということを考えなくてはいけない。当たり前の話なのだけれども、私はもう20年くらいこういうことを言っています。
飯田)台湾や韓国も、射程が1000キロを超えるようなミサイルを持っているわけです。
宮家)もちろん地域の軍事バランスがあって、ある程度日本にも制約があったことは事実ですけれど、もはやそういう時代ではないのだと思います。
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