メディアになりつつあるツイッターに思う「公正とは何か」
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ジャーナリストの佐々木俊尚が11月16日、ニッポン放送「飯田浩司のOK! Cozy up!」に出演。ツイッターはSNSなのか、それともメディアなのかということについて解説した。
ツイッターはSNSなのか、メディアなのか
ツイッター社を買収したイーロン・マスク氏は多くの従業員を解雇し、さまざまなコンテンツやサービスなどを売買できる決済機能をツイッターに導入する方針を明らかにしている。
飯田)日経新聞社がメディアプラットフォーム「note」上で運営している投稿マガジン「日経COMEMO」のなかで、佐々木さんがご意見を発表していらっしゃいます。ツイッターはSNSなのか、メディアなのかという問題です。
当初は個人が日常をつぶやくSNSの場だった
佐々木)ツイッターが日本で流行し始めたのは2009年くらいでしょうか。当時は普通のSNSでした。もう13年くらい前ですが、「ランチなう」とか。
飯田)懐かしい感じがしますね。
佐々木)あのころは平和で牧歌的でよかったですよね。政治的な発言はあまりなく、みんな自分の日常をつぶやくような場所だったわけです。
リツイートの存在によって拡散しやすく、あらゆるニュースが広がる場に
佐々木)それが徐々にニュースが流れる場所になってきた。なぜそうなったのかと言うと、リツイート(RT)機能のためです。
飯田)リツイート。
佐々木)リツイート機能を使うと拡散されやすいことがわかってきたのです。ツイッター上で情報を流せば、それが一気に拡散される。ニュースメディアに適した場所であるということで、政治的な情報や日々の政治・経済・社会、森羅万象のニュースが広がる場になったのです。
この10年で分断が広がり、メディアの役割を求められるようになったツイッター
佐々木)加えて政治的にも、2010年代からの10年は分断が広がる時代でした。アメリカではトランプ前大統領が出てきて、日本でも原発事故があったり、第2次安倍政権があったりして、分断が広がった。
飯田)この10年。
佐々木)分断で政治的にみんなが過激になっていくところで、ツイッターのリツイート機能が使われた。ハッシュタグ(#)でデモをするというような。「#デモ」というようなものがあったり、政治化していった背景があります。
飯田)政治化していった。
佐々木)そうなると、単なるSNSではなく、もはやある種のメディアの役割を担うようになった。新聞ではなく、ツイッターでニュースを読む人が増えてきているわけです。それはツイッター社にとって、悩みの種だったと思います。
中立的なメディアはあり得ない ~リベラルが強いアメリカ
佐々木)単なるSNSとして「気楽につぶやきましょう」というところから始まったのに、新聞社のような役割を担わされてしまった。もともとそのような覚悟もなかったところで、どうやって中立的なメディアの位置を保てるのかと。
飯田)ある意味で公正な。
佐々木)しかし、中立的なメディアはあり得ないですよね。日本でもそうですが、新聞を読んでいても朝日新聞・毎日新聞・東京新聞と、産経新聞・読売新聞では、立ち位置が全然違う。たくさんの事実があっても、何の情報を流すのか、「何をピックアップするのか」で、どうしてもイデオロギー的な傾斜は必ず起きてしまうわけです。
飯田)どれをピックアップするかで。
佐々木)ツイッターも、新聞のようにメディアであろうとした結果、中立的なプラットフォームではなく、どうしてもイデオロギー的なものが挟まってしまった。
飯田)何をトップに並べるかというだけでも、やはり意図ができてしまう。
佐々木)ツイッターはアメリカの企業なので、アメリカは民主党系のリベラルが強いところがあります。
実はスタッフがニュースを選んでいたFacebookの事件
佐々木)2016年、Facebookに関連する事件があり、「ガーディアン」というイギリスの新聞がスクープしました。(Facebookは)コンピューターの計算であるアルゴリズムで、「どのニュースを表示するのか」を決めていたとしていましたが、実は人の手が加わっていた。
飯田)それがスクープされた。
佐々木)Facebookのスタッフがニュースを選んでいたのです。米FOXニュースなど、右寄りの新聞のニュースを排除していたことが明らかになり、物議を醸したことがありました。
イーロン・マスク氏のツイッター買収でツイッターのザ・ハフィントン・ポストの記事が減った ~「中立ではない」という批判に
佐々木)いまのツイッターでも同じことが起きていて、タイムライン上に出てくる、いろいろな新聞やメディアの記事があるではないですか。「ザ・ハフィントン・ポスト」という左派寄りのメディアがありますが、タイムラインへの浮上が、今回のイーロン・マスク氏の買収で「ガタン」と減ったのです。
飯田)ツイッター買収で。
佐々木)それまでどんな記事も何百とリツイートされていたのが、いまは一桁くらいしかリツイートされていないという話があります。
飯田)一桁に。
佐々木)要するに、いままではザ・ハフィントン・ポストの記事をみんなの目に多く見せるよう、ある程度コントロールしていたのだと思います。
飯田)「おかしいぞ」と。
佐々木)「どうなっているのだ」という話になります。ニュースでも朝日新聞やザ・ハフィントン・ポストの記事をたくさん掲載するようなことを、ツイッターがやっていた可能性がある。アルゴリズムによって行われていたのか、人の手で行われていたのかはどうでもいいのですが、傾斜させていたというところが「中立ではないのではないか」という、いまの批判につながっているのです。
共和党支持のイーロン・マスク氏
飯田)そしてイーロン・マスク氏そのものは、「表現の自由」主義者だということを言うわけです。
佐々木)ツイッターは議会襲撃事件のあとに、トランプ前大統領を追放しました。それにイーロン・マスク氏は反対していて、「すべての人が参加する表現のプラットフォームであれば、イデオロギー的な理由でそれを排除すべきではない」と言っています。ただ、どちらかと言うとイーロン・マスク氏は共和党寄りの人で、今回の中間選挙でも「共和党に投票しよう」と呼びかけていて、若干、政治的なところがあるのです。
飯田)共和党寄り。
佐々木)しかし、イーロン・マスク氏が本当に共和党寄りだったら、今度は右派寄りになってしまうのかという。ツイッタージャパンは「もう少し右寄りの人を雇うのですか」という話になると、それはそれで問題です。
飯田)そうですね。
佐々木)「何が公平なのか、公正なのか」という答えは、どこまでいってもつくりにくい。かといって、まったくコントロールせず「好きなように情報を流していいですよ」ということになると、やはり誹謗中傷が放置されてしまう問題などがあり……。
飯田)そこに立ち当たる。
佐々木)そうなのです。
リバタリアン的な考えを持つイーロン・マスク氏
飯田)イーロン・マスク氏自身の政治信条などはわかりませんが、主張を見ていると、どちらかと言うとリバタリアン的な、「とにかく自由であればいい」のだというところがあります。
佐々木)そうなのですよね。
飯田)自然と落ち着くべきところに落ち着いていくだろうと。だからいろいろな規制をこちら側から加えることはよくない。政府でもなければ、一私企業の経営者が加えることはよくない、という主張ですよね。
佐々木)それも1つの考えとしてはありなのです。
人が求める記事ばかりになるとスポーツ新聞のようになってしまう
佐々木)しかし、「それを放っておくと、スポーツ新聞になる」と指摘している人もいます。
飯田)いますね。
佐々木)芸能人の離婚や野球の結果の方がニュースとしてはよく見られるので、スポーツ新聞的な記事ばかり増えてしまうことは、必ずあるわけではないですか。
飯田)スポーツ新聞的な記事が増えてしまう。
佐々木)人間社会の裏返しなのだから、ツイッターがそんな記事ばかりになるのも、それはそれでいいという説もあります。しかし、これだけ政治がツイッターに影響されている状況があるのです。
飯田)ツイッターに影響されている状況が。
佐々木)政治家もツイッターを見て世論の動きを確認しているわけです。そこがスポーツ紙だけになってしまうというのも、果たしてそれでいいのか。なかなか難しい問題ですよね。
飯田)この綱引きは、永遠の課題なのかも知れないですね。
佐々木)そういった意味では、悩んで議論して、いろいろなことをやっているところで民主主義が持続していく、というくらいに考えた方がいいのかも知れません。
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