ここへきて「増税」のトーンを下げざるを得ない岸田政権の「事情」 防衛費増額の財源問題

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ジャーナリストの須田慎一郎が12月5日、ニッポン放送「飯田浩司のOK! Cozy up!」に出演。「防衛計画の大綱」に代わって新たに策定される「国家防衛戦略」の概要案について解説した。

ここへきて「増税」のトーンを下げざるを得ない岸田政権の「事情」 防衛費増額の財源問題

2022年11月6日、米空母を視察する岸田総理~出典:首相官邸HPより(https://www.kantei.go.jp/jp/101_kishida/actions/202211/06kkanshiki.html)

政府が新たに策定する「国家防衛戦略」の概要案が判明

国の防衛力整備の指針となる「防衛計画の大綱」に代わって新たに策定される「国家防衛戦略」の概要案が明らかになった。概要案では防衛力の抜本的な強化のため、概ね10年の間に日本が目指す「防衛目標」を明確に設定し、それを実現するための方法と手段を文書として位置付けるとしている。

飯田)年末までにいわゆる安保3文書の改定方針を出すということで、国家安全保障戦略があり、その下にあたるものの1つが国家防衛戦略のようです。

須田)注目すべき文書になります。ロシアのウクライナ侵略などもあり、ここへきて国民も合意する形で、防衛予算を5年間かけてGDP比2%まで引き上げていく。これまでは一貫して1%ラインを墨守してきたけれども、それがいよいよ突破される。その裏付けになるような計画書だと位置付けられているので、非常に注目されています。

飯田)世論調査などをみても、6~7割の方が2%までの防衛費アップに関しては賛成であるし、肌感覚で危機感を抱いている人が多いですよね。

須田)加えてもう1つは敵基地攻撃能力ですよね。それがきちんと文言として盛り込まれるというのも、戦後の防衛戦略における大きな転換点だと考えていいと思います。もちろん専守防衛の範囲内での敵基地攻撃能力ですが、これに関しては「平和の党」を標榜してきた公明党も賛成せざるを得なかったという点でも、大きな意味合いがあったのではないかと思います。

武器使用の3要件との絡み ~「必要最小限」とはどの程度なのか

飯田)そこで絡んでくるのが、武器使用の3要件です。まず喫緊の危機があること、他に手段がないこと、さらには必要最小限というものです。「必要最小限」という縛りは、具体的には今回の自公合意の際には特に盛り込まれなかったようです。自民党としては司令部機能などを入れたかったけれども、そうはならなかった。個別具体的に判断する方針になったようですね。

須田)その辺りは今後、議論を煮詰めていかなくてはならないところですけれども、必要最小限と言っても「必要量はどの程度なのか」という議論が防衛予算との絡みなのです。だからここを詰め切れないのだろうなと私は思います。

どのような形で防衛予算を積むのか

須田)次の興味関心は、どういう形で防衛予算を積んでいくのか、その中身ですよね。いまいちばん問題になっているのは、例えば海上保安庁の予算や自衛官の退職年金など。そういったところも全部含めてNATO基準だと押し切ろうとしているのに対し、「それではきちんとした防衛装備品の増強にならないのではないか」というところで、第一幕として大きな綱引きが起こっています。

防衛予算の財源を増税の方向に持っていこうとする財務省・官邸サイド ~増税に反発する自民党サイド

須田)もう1つ大きな問題になりそうなのは、財源をどこからどういう形で手当てするのか、まだ決着がついていません。財務省やいまの官邸サイドは、それを増税の方向に持っていこうとしているのではないかと思います。

飯田)有識者会議などでも増税の話ばかりが出てきて、具体的には東日本大震災の復興増税のようなスキームでどうか、というような話も出てきています。

須田)あれは内閣官房の有識者会議ですよ。内閣官房というのは、間違いなく財務省の仕切りです。財務省のひも付きの有識者会議であることは、政府・与党のなかではわかってしまっています。

飯田)財務省のひも付きの有識者会議であるということが。

須田)特に反発しているのは自民党サイドで、そんなもの容認できるわけがないではないか、というところです。これについては問題を1つ先送りにしてしまった。防衛3文書の議論と税制改正の議論が並行して進んでいたので、増税というところで結論付けてしまって、自民党税調に回されたら、自民党税調の宮沢洋一会長は財務省のひも付きですから。そこで決められてしまうのではないかという相当な危機感があったのです。

飯田)結局、反対しそうなところの議論を迂回していって、増税に賛成するところばかりに諮り、「皆さんに諮りました」という形にしていく。それは怒りますよね。

須田)やはり増税の議論は、政権や首相に相当なパワーがなければ党内で押さえつけられませんし、世論の協力も得られません。ここに関して言えば、岸田政権が弱体化していてよかったのではないかと思います。

支持率が下がる岸田内閣 ~増税を強行すれば党内政局に

飯田)いろいろな調査がありますけれども、現在の支持率は3~4割くらいです。統一地方選も近く、こんな議論をしていて大丈夫なのでしょうか。

須田)それよりも、増税を強行したら党内政局になります。

飯田)その前に。

須田)要するに岸田おろしになります。そういうリスクは冒せないのだろうと思います。

増税はトーンダウン ~増税せずにGDPを成長させていく、景気を拡大させて税収増を図るべき

飯田)フジテレビの番組では、木原副長官の「当面は増税ではなく、予算の組み替えなどで対応していく」という発言がありました。少し風向きが変わってきていますか?

須田)トーンダウンですよね。強行できないということです。当面ではなく、これについては防衛国債の発行や、埋蔵金もあります。あるいは、本来であれば必要のない将来の国債消化に向けての国債積立金も使えるではないか、というような議論がいま自民党内で噴出しているのです。

飯田)いろいろなところに財源はあるのに、なぜ増税ありきなのかという話に当然なりますよね。

須田)増税を行うということは、景気・経済の足を引っ張るということです。むしろそういうことをせずにGDPを成長させていく、景気を拡大させていくことによって、税収増を図る方が王道だろうと思います。

ここへきて「増税」のトーンを下げざるを得ない岸田政権の「事情」 防衛費増額の財源問題

2022年11月18日、APEC首脳会議リトリート~出典:首相官邸HPより(https://www.kantei.go.jp/jp/101_kishida/actions/202211/18apec.html)

防衛費を建設国債で賄う方法も

飯田)国債の話になったときに、ある官僚に言われたことがあります。1つ気をつけなくてはいけないのは、「短い年限の国債としてつなぎ的に使い、結局は償還に増税が必要だ、という話をされたら同じだ」と言われました。防衛国債も償還年限をどうするかで決まってきますよね。

須田)そうですね。加えて、本当にそれをある種の赤字国債的な扱いにするのかどうか。「償還をどうするか」という議論もしなくてはなりません。そうすると、建設国債という色合いで考えてみることも必要ではないかと思います。

飯田)建設国債はインフラが残り、それをみんなが使うということで、償還期間が長くて60年になっています。

須田)しかも、赤字国債の範疇には入らないことになりますから。インフラは残るわけですし、現役世代も将来世代もそれを共有する。1つの世代に負担を押し付けるという理論も、防衛予算については馴染まない話ではないかと思います。

飯田)国家の安全ですとか。

須田)おっしゃる通り。

飯田)そういうものがないと、将来世代は生まれてきませんよね。

須田)いま生活している我々だけではなく、日本の国土の安全を保障していくことは、全世代の国民が負担すべき話ではないかと思います。

飯田)確かに建設国債と言うと、具体的なものが残らなければいけないと捉えがちですけれども、安全保障も無形のインフラですものね。

須田)それがあってこその国ですから。

飯田)どう議論されていくのか。財源の話が現場で必要なものの話からの積み上げになっていかないですよね。

財源についての議論が報道されない理由  ~野党の分断が狙いか

須田)不思議なのは、どうしてこのような重要なことが報道で出てこないのか。特に新聞です。8%税率で軽減税率の恩恵を受けているとは言いたくないけれども、こういう議論が封印されているのはおかしな話です。自民党のなかでかなり激しい議論が行われているわけですけれども、そういうことが全然出てこないではないですか。

飯田)税に関しては、与党からもそういった話が出るし、野党も国民民主党などはいろいろな形で提言しています。そういうことも大きくは扱われません。政局絡みで「国民民主党が連立に入るのか」などという話ばかりが伝えられます。

須田)狙いは「野党の分断にあるのかな」と私はみています。ただ、国民民主党の玉木代表は密室政治を否定しており、国対政治の否定論者なのです。つまり国会対策委員会などという委員会は、国会に存在しないのではないかという。

内閣支持率が下がると延命を図り、連立組み替えの話が出る自民党

須田)それにもかかわらず密室に集って行われる。国対というものは議事録が残らないのです。それをいいことに与野党が馴れ合い、そこでいろいろなことを決めていく。それをけしからんと言っている人が、野合という密室政治の権化のようなもの、なぜ野党が連立与党に入ってくるのか。それはいままで言っていたことと正反対になるのです。玉木さんはこれについては否定だと思います。

飯田)玉木さんご本人は否定しているし、岸田さんも「そんなことはない」と言っているようですね。

須田)内閣支持率が下がり、求心力がなくなってくると、すぐこういう形で連立組み替えのような話が出てくる。自民党は非常にしたたかな政党で、連立を組んだ相手をどんどん吸収していくという。それによって延命を図ることを得意技としてきた政党です。そういうことも考えなくもないのかなと思います。

オープンな場で議論するべき

飯田)いままでは旧民主党の方を、ある意味一本釣りのような形で入れてきましたけれども、それだけではないのですか?

須田)確かに予算案や補正予算案には賛成しましたけれども、是々非々の形の表れだと考えるべきではないでしょうか。国民民主党が与党になりたいからではないと思います。

飯田)オープンな形で国会で議論が出てくれば、そしてそれが報道されればと思います。しかし、なかなかその部分が出てこない。それこそ敵基地攻撃能力なども、必要最小限という文言でいいのかどうか。維新の青柳議員などは質問に立っていたのですけれども、あまり報じられなかったですね。

須田)日本維新の会や国民民主党などは、何でも反対ではなく、是々非々の政党です。何でも反対しているわりには国対政治、密室で物事を決めていくという不透明な政治よりも、オープンな場で議論していくことが必要ではないかと思います。

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