ジャーナリストの佐々木俊尚と筑波大学教授の東野篤子が12月21日、ニッポン放送「飯田浩司のOK! Cozy up!」に出演。経済安全保障推進法について解説した。
経済安保の「特定重要物資」に半導体など11分野を閣議決定
政府は12月20日、経済安全保障推進法に基づき、安定供給に向けた支援を行う「特定重要物資」に半導体や蓄電池など11分野の指定を閣議決定した。国内での生産体制を強化し、備蓄も拡充。そのための企業の取り組みには国が財政支援する。
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「どこまで経済の安全保障を保つのか」が重要なテーマ
飯田)経済安全保障推進法に基づいてというのは、いまのトレンドになっていますよね。
佐々木)製造業に関しては、21世紀初頭のグローバリゼーションの波が逆回転していることは間違いないと思います。コロナ禍でグローバル・サプライチェーンが破壊され、どうなるのだという話のあとにウクライナ侵攻が始まり、中国とロシアという強権国家が台頭してきた。そのなかで、「どこまで経済の安全保障を保つのか」が重要なテーマになってきています。だから今回の決定となったのです。
中国と絡み合っている経済と経済安全保障をどう両立させるのか
佐々木)しかし一方で、例えば中国がiPhoneを製造している。しかし、iPhoneはアメリカのApple社製であり、使われている素材などのさまざまな部品には、日本企業が提供しているものもあります。相変わらず、中国と日本を含めたその他の国は、密接な経済的つながりがあるわけです。
飯田)日本も含めて。
佐々木)もし戦争が起きるなどして、そこが何らかの理由で破壊されたとしたら、日本やアメリカにとっても大変重要な問題ですが、中国にとっても大変な打撃になるわけです。
飯田)中国にとっても。
佐々木)どのように安全保障としてやりくりしていくのかは、悩ましい問題です。これだけ世界中が絡み合っている以上、決して19世紀終わりや20世紀初頭のブロック経済のような状況にはなりようがないのです。
飯田)既につながってしまっている。
佐々木)絡み合っている経済と経済安全保障をどう両立するのかは、なかなか難しいテーマだと思います。
サプライチェーンの混乱防止のために3つのモードを設定しているヨーロッパ ~「平時モード」「警戒モード」「緊急事態モード」
飯田)ヨーロッパはこれに対して、どうアプローチしていると考えられますか?
東野)高市大臣の発言のなかに、「強靱化を進める第一歩」という言葉がありました。ヨーロッパは、実はあと一歩くらい進んでいるのだと思います。
飯田)あと一歩進んでいる。
東野)というのは、戦略物資の特定などは既に済んでいて、それをどのように管理していくのかということと、これに人権を絡めるような動きもあるのです。
飯田)人権を。
東野)中国のように人権状況が思わしくない国については、そこに関しても経済安保の話をどんどん絡めていくのだと思います。(ヨーロッパでは)今年(2022年)の9月に、サプライチェーン(供給網)の混乱を防止するための措置として、さまざまな案が決まってきているのですが、3つのモードを設定しているのです。「平時モード」と「警戒モード」と「緊急事態モード」。
飯田)3つのモード。
東野)上がっていくに従って、欧州委員会などの管理が厳しく発揮される。欧州連合(EU)は27ヵ国もあって大きいのですが、「物資をどのように配分していくのか」というところまで取り組もうとしています。全部が参考になるとは言いませんが、そういう取り組みが海外では進んでいるのです。
飯田)欧州連合(EU)というと、域内では自由な経済を行うのだという理念が大きい気がしていたのですが、緊急事態のときには配分の話にまで言及する。ある意味、「一部では統制経済を使う」という覚悟もしているのですか?
東野)おっしゃる通りです。コロナ禍でヨーロッパがサプライチェーン(供給網)の上で痛い目にあった。このような経験を再び繰り返してはならないということです。ただし、平時モードが基本であり、管理を強化しすぎるのは欧州連合(EU)に対する批判の1つなので、そこは避けたい。
飯田)平時モードにおいては。
東野)ただ、戦争が起こったりコロナ禍のような状況のなかで、まったく戦略物資が手に入らないのは困るということです。
これまで安い人件費を求めて海外に工場をつくってきた日本 ~コスト以外の観点が求められることに
飯田)人権などの部分も含めて、日本はまだ業界のガイドラインなどで何とかするというところが大きいかも知れませんが。
佐々木)日本企業の対応はなかなか難しいですね。21世紀のグローバリゼーションのなかで、とにかく安い人件費を求めて海外に工場を移転してきた。そして部品や素材も世界中から調達するという、ある意味で「全体最適化」の方向に進んできたのです。
飯田)安い人件費を求めて。
佐々木)ところが経済安全保障の観点が出てきた結果、必ずしもコストだけでものを見ることができなくなった。今後、台湾有事が起きたり、ウクライナ侵攻がさらに長引くような状況になれば、何をどこから調達するのかに関して、「コスト以外の観点」を持ち込まなければいけません。
飯田)コスト以外の観点を。
佐々木)企業側としても、「グローバリゼーションなのだから、積極的に海外に出ていけばいいではないか」という話ではなく、日本政府と相談して、どこから何を調達するのかという、コストではない観点で動くことが求められる。企業にとっては大転換な話になると思います。
飯田)アメリカの存在も意識しなければならない。
佐々木)そうなのです。非常に難しい問題です。だからと言って、アメリカの傘の下で守られていれば経済安全保障が守られるのかと言うと、そういうわけでもない。
飯田)そうですね。
佐々木)だからこそ、第2次安倍政権以降、インドやオーストラリアのような多国間の安全保障というか、集団的自衛権の方向に進んでいるのです。それに合わせて経済の部分でも、なるべく西側諸国から調達する。あるいは東南アジア新興国を仲間に引き入れるなど、経済においても安全保障的な観点が必要になってくるのではないかと思います。
飯田)自立を確保するために、日本で言えば「自由で開かれたインド太平洋」という価値観の概念ができた。ヨーロッパでは、それが人権ということなのかも知れません。
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