「怒り」がツイッターで「エンタメ」になっている

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ジャーナリストの佐々木俊尚と筑波大学教授の東野篤子が12月21日、ニッポン放送「飯田浩司のOK! Cozy up!」に出演。SNSとの付き合い方について解説した。

「怒り」がツイッターで「エンタメ」になっている

※画像はイメージです

SNSとの付き合い方

日本国内におけるSNS(ソーシャルネットワーキングサービス)の利用者数は年々増加しており、2024年末には約8400万人、ネットユーザー全体に占める利用率は83.2%に達する見通し。なかでも現在、ツイッター利用者は約5900万人いると言われている。

「怒りとは快楽である」 アリストテレス『弁論術』

飯田)佐々木さんがnoteで発表している記事コンテンツ「佐々木俊尚の未来地図レポート」で、「ツイッターで怒りがエンタメになっている」と指摘されています。

佐々木)古代ギリシャの時代に書かれた、アリストテレスの『弁論術』という本がありますが、そのなかに「怒りとは快楽である」と書いてあるのです。

SNSで怒り、相手が謝っているのを見ることが気持ちいい ~「これはエンタメである」ことをツイッターで証明

佐々木)なぜ怒りが快楽なのかと言うと、怒りは普通、義憤や「けしからん」というような意味だと思われています。しかし、怒ることで相手が「すみません」と謝っているのを見るのが、実は気持ちいいということです。

飯田)気持ちいい。

佐々木)所詮、「これはエンタメなのだ」と2000年以上前にアリストテレスが言っているわけです。まさにそれが現代の日本のツイッターで証明されていると思います。

飯田)日本のツイッターで。

佐々木)よく「謝れ」と言っている人がいるではないですか。しかし、謝ったから許してもらえるのかと言うと、そんなことはない。最近よく見るのが、謝っても、「謝るということは、お前は間違っていると自分で認めたのだな」と、さらに怒る人がいます。

飯田)謝ることで。

佐々木)怒りが気持ちいいから怒っているのであって、世の中を変えようとか、正しくしようという気持ちはあまりないのではないかと思います。

解決策を提示するのではなく、気持ちいいから「ただ怒る」

佐々木)目標は解決策を提示して、「このようにしましょう」と言うのがいいことなのです。例えば誰かが覚醒剤や薬物で捕まったとしたら、「では薬物依存をしっかり治療しましょう」と。そのような構造の改修が大切なので、怒っていても仕方がありません。

飯田)そうですよね。

佐々木)でも、ただ怒りたいから「薬物なんか使ってけしからん」と怒り続けている。

人の気持ちが「見える化」されたことがSNSの「負の功績」

佐々木)「これが気持ちいい」という人が大量にいるということです。ある意味、ツイッターなどで人々の気持ちが全部「見える化」されてしまったことは、SNSの「負の功績」だと思います。

何を言っても怒りが収まることはない

飯田)東野さんはロシアによるウクライナ侵略から、さまざま発信されていて、いろいろなことで絡まれています。

佐々木)よく戦っていらっしゃいますよね。

東野)いま言われた「義憤が気持ちいい」というのは、私も納得がいくのです。例えば、ウクライナ戦争がどうなってしまうのかについて、「いまはプーチン大統領が核を使う可能性は低いのではないか」と発信したとすると、「いや、核のリスクを甘くみている」と。「世界を危険に晒している。許せない」と言われたりします。それはそれで、そういった考え方もあるため、「そうとも言えますね」と言うと、「ではお前の先ほどの発言は何だったのだ、許せない」となるのです。

飯田)先ほどの発言は何だったのかと。

東野)何を言っても怒りが収まることはないし、言っている本人としては、正しいことを言っているつもりなのでしょう。なおタチが悪いと言いますか、攻撃的になってしまうのです。

飯田)自分が正義を背負ったと思ったときの快楽のような。

怒りに対して怒りで返さない

佐々木)東野さんの、変なリプライに対する反応は素晴らしいなと、いつも拝見しています。

東野)ありがとうございます。

佐々木)何が素晴らしいのかと言うと、怒りに対して怒りで返さないところです。

飯田)なるほど。

佐々木)これは大事なことで、酷いことを言われたり、特に専門家に対して「お前はわかっていない」などと言うのは、失礼極まりないではないですか。

逆上せず丁寧に説明することが大切 ~そのやり取りを見ているたくさんの人たちが周りにいる

佐々木)それに対して「何を言っているのだ。私は専門家だぞ」と逆上するのではなく、懇懇と説明されているのです。

飯田)怒るのではなく。

佐々木)何か言われると、相手だけを見てしまうではないですか。そして相手に対して腹を立ててしまうのですが、大事なのは、そのやり取りを見ているたくさんの人たちが周りにいるということです。

飯田)私のようなユーザーが、無言でじっと見ている。

佐々木)衆人環視のなかで、2人で対決しているようなイメージです。周りの環境を見ずに相手だけを見ていると、つい腹が立って、怒りに怒りで返してしまうのだけれど、そうではなく見守っている人たち、いわゆるオーディエンスに対してしっかり反応することが大事なのです。

オーディエンスに向けた会話が大切 ~この人はこう言っていますが、皆さんはどう思いますか?

佐々木)それをやらなければおかしくなってしまいます。このやり取りを見ている人たちは、どのように見るのだろうかと考える。怒りに怒りを返したら、「佐々木さんはいつもあんなに冷静なのに、あんなに怒るのだ」と思われてしまうと、得することはないわけです。

飯田)やり取りを見ている人たちがどう見ているのか。

佐々木)「このように言ってきている人がいるけれど、私はこう思います。皆さんはどう思いますか?」というように、オーディエンスに対する会話の仕方がとても大切なのです。まさに東野さんがやっていらっしゃることは、そういうことなのだと思います。

それでも納得しない人がいることも事実

東野)しかし、私に対してリプライを返された本人は、決して納得することはない。残念ながら、それもまた事実です。そして、「自分はこんなに(フォロワーなどが)少数のアカウントなのに、フォロワーが8万人もいる国立大の教授が、自分に反論してくるのはいじめではないか」と言われたりします。

佐々木)そのような人もいますよね。

東野)最初からそのようなことを言わなければ、私も返さないのですが、なかなか難しいです。

いろいろな人の意見を聞いて、どうやって知見を自分のなかに得ていくのか

飯田)今回のロシアによるウクライナ侵略に関して、ネット上での言論を見ていると、過剰なロシア擁護であったり、国際法違反も肯定してしまうような意見に対し、「それはいけないよ」という一線を、必ずカウンターで当てていきますよね。

東野)そうですね。

飯田)その辺りは、「こうしなくてはいけない」というものがあるのですか?

東野)いえ、ないです。攻撃を受けやすい人たち同士でこの話をすることすら、あまりないのです。結局、我々のような人間、例えば私や小泉悠さんなどもそうですが、「やはりここだけは絶対に譲れない」、「それはそうでしょう」ということを訴えていくしかないと思っています。

佐々木)専門家の、今回で言うと安全保障の専門家の皆さんは、例えば慶應大学の方や小泉悠さん、防衛研究所の方々などがいらっしゃいます。そこを横断的にしっかり見ていくことが大事で、そこから外れているところの発信は、あまり相手にしないことが大事かなと思います。

飯田)「おや?」と思いながら見ていく。

佐々木)たった1人の専門家だけを見てしまうと、その人が間違ったときに修正しようがないのです。どうやって知見を自分のなかに得ていくのかということは、今回のウクライナ情勢でもそうですし、新型コロナに関してもそうですけれど、いま試されている感じがします。

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