プーチン大統領が「核使用」を口に出さなくなった背景にある「中国とインドの存在」

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ジャーナリストの佐々木俊尚と筑波大学教授の東野篤子が12月21日、ニッポン放送「飯田浩司のOK! Cozy up!」に出演。ウクライナ情勢について解説した。

プーチン大統領が「核使用」を口に出さなくなった背景にある「中国とインドの存在」

ロシアのプーチン大統領(ロシア・サンクトペテルブルク) AFP=時事 写真提供:時事通信

ウクライナ情勢について

飯田)2022年2月24日からロシアによるウクライナ侵略が始まり、約10ヵ月が経ちました。ウクライナが押し返しているというイメージのままで(情報が)止まっている人も多いと思うのですが、いまはどうなっていますか?

12月に入り、厳しい戦いを強いられているウクライナ

東野)9月~10月くらいは確かにウクライナが反撃していて、勢いがあったのですが、12月に入り、そのペースを保てていないのが現状です。

飯田)12月に入って。

東野)わずかにウクライナが優勢だという報道もありますし、アメリカ・イギリスの政府関係者はそのように見ていると思いますが、非常に苦しい状況です。

民生インフラへの攻撃で苦しいウクライナの市民生活

東野)2方面で戦っており、東部・南部はもちろんのこと、市民生活もロシアによる民生インフラへの無差別攻撃で大変苦しい思いをしています。この冬をどう越せるかが大きなポイントになります。

飯田)民生(インフラへの攻撃)というのは、停電が起きたりすることなどですか?

東野)水道も使えなかったり、本当に厳しいですね。ウクライナ政府が「不屈スポット」と呼んでいる場所があり、この名前もすごいのですが……。

飯田)不屈スポット?

東野)例えばWi-Fiがつながったり、あるいは充電できたりすることが市民生活にとって大切なのですが、それもなかなかままならない状況です。インフラや電源などが復旧しても、また攻撃を受けてダメになってしまうなど、イタチごっこのように繰り返している状態です。どうやって政府が支えていくのかということで、不屈スポットのようなものができています。

飯田)不屈スポットというのは、「ここだったら電気があって暖かい」ということですか?

東野)そうです。お茶もあり、少し暖かいものがあるのですが、全土に行き渡っているわけでもないので、非常に不便な生活を強いられているのは事実だと思います。

支援の手を緩めたくても緩められないヨーロッパ諸国

佐々木)ヨーロッパ・西側諸国の「支援していく」という姿勢は、いまも変わりないですか?

東野)それも「いつかグラグラするのではないか」とか、「お金が続かない」とよく言われるのですが、確かにヨーロッパはそのようなところがあるのです。

飯田)そうなのですか。

東野)ただ、ヨーロッパが「支援の手を緩めたくなってきた」と思ったら、ロシアが民生インフラへの攻撃を行ったりする。なかなか緩められない状況を、むしろロシアがつくっているところもあるのです。

ウクライナへの関心が遠のきつつある日本

佐々木)日本は北大西洋条約機構(NATO)加盟国でもなく、遠い極東の国なので、ウクライナに対して徐々に世論の興味がなくなっていくことが怖いですね。

東野)それは如実にあります。

佐々木)ヨーロッパとは、やはり当事者性が違いますよね。

東野)ヨーロッパは、ここでウクライナ戦争を押し留めないと、「次は自分たちだ」と思っています。日本では「飽きてきた」というような声を、私も容赦なく浴びせられる状態です。ただ、こんなことが地球のどこかで起こっているということに、我々は鈍感でありたくはないです。

安保3文書にも大きく影響を与えたウクライナ情勢

飯田)安保3文書が改定されました。国家安全保障戦略の最初のパラグラフのなかに、ウクライナ戦争を引いていて、「国際法が簡単に踏み躙られることが起こるのだ」と指摘しています。そして東アジアに波及する可能性もあると。

東野)安保3文書をよく見ると、いろいろなところにウクライナについて書いてあるのです。戦争はどこか遠い世界の話だと、我々も思っていた部分があるのかも知れませんが、このように起こってしまうこともあるし、1度起こってしまうと簡単には止められません。安保3文書をつくる際にも、大きく影響を与えたのではないでしょうか。

飯田)世の中の空気が少し変わった感じがありましたよね。

佐々木)まさか21世紀のこの時代に、19世紀終わりか20世紀初めのような国際情勢になるなんて、誰も想像していなかったですよね。

飯田)振り返ってみると、いちばん最初は電撃戦のようなもので、それこそキーウが落ちるのではないかというような危機的状況でした。

プーチン大統領が「核使用」を口に出さなくなった背景にある「中国とインドの存在」

クライナの首都キーウ(キエフ)近郊ブチャで大破した車両が放置された道路を歩く住民(ウクライナ・ブチャ) EPA=時事 写真提供:時事通信

キーウ再侵攻の可能性も ~ベラルーシが国土を貸すことはあり得る

飯田)またキーウが狙われているのではないかという噂も出ました。

東野)ウクライナ政府が最近言っています。おそらく動員したロシア兵の訓練が終わるのが、2023年1月末~2月くらいだろうと。そのタイミングに合わせて、次は東部・南部の戦線ではなく、キーウ再侵攻に使うのではないかということです。

飯田)新たに動員したロシア兵の訓練が終わり。

東野)ベラルーシから展開されてしまうと、短い距離でキーウまで到達してしまう恐れもある。そして、プーチン大統領がベラルーシを訪れた際には、ショイグ国防相やラブロフ外相を連れて行ったりしています。

飯田)国防大臣や外務大臣を連れて。

東野)非常に不気味な動きが続いています。ベラルーシが実際に参戦するかどうかは別の問題ですが、国土を貸して、そこから侵攻するという可能性は、残念ながらあり得るのです。

イランから武器の提供を受けているロシア

佐々木)ロシアは東部・南部の戦線で最新兵器を使い果たし、旧ソ連時代の古い兵器を使っているという話ですが、まだ無限に貯蔵されているのですか?

東野)尽きてきているとは言われています。しかし、そう言われるわりには、1週間~10日のインターバルで無差別攻撃を行っているのです。

飯田)尽きてきていると言われるわりには。

東野)だから、あまり尽きているという側面を強調しすぎない、安心しすぎないことが大事なのと、やはりイランから(武器を)買えているのだと思います。

飯田)イランから。

東野)民生インフラに対する攻撃には、イランのドローンが使われています。数百機を購入し、それも使い果たしたと言われているのですが、最近の攻撃ではまたイランのドローンが使われています。

飯田)最近の攻撃で。

東野)つまり、追加購入できているということです。完全に国連安全保障理事会の決議違反なのですが、いろいろな網の目をかいくぐって、ロシアとイランが武器調達に関して強い連携を保っているのだと思います。

ロシア領内を攻撃したドローンは「自前で開発したもの」とウクライナ側は発表

飯田)ウクライナ側も越境してドローンで攻撃しているという話もありますが、あれは西側から入ったものですか?

東野)ウクライナ側の説明によると、ウクライナが自前で開発した、ウクライナの国産ドローンだということです。

あくまでもロシア対ウクライナの戦争だということ

東野)ただ、以前ロシア領内の奥深くにウクライナのドローンとされるもので攻撃がありましたが、本当にウクライナのものなのか、西側のものなのか、はっきりとしたことはわかっていません。ウクライナ側は、「射程距離的にも十分なものをウクライナが自前で開発した」と言っています。

飯田)ウクライナが開発したものだと。

東野)これは米欧にとっても大事な点で、米欧が提供したドローンがロシアを攻撃すると、ロシアはエスカレーションの口実にしてしまいかねない。ところがウクライナが自前で攻撃するということになると、何の国際法違反もしていません。「米欧は何も関係ありません」と言ってしまえば、「この戦争のバックにはやはりNATOがいるだろう」というような、ロシアが好む言い方をしにくくなるのです。あくまでもロシア対ウクライナの戦争に戻ってくるわけです。

9月21日を最後に核使用を口に出さなくなったプーチン大統領

佐々木)エスカレーションがどこまで進むのかは、気になっているところだと思うのですが、どうなのでしょうか?

東野)気になるのは核の使用です。ところがロシア側、プーチン大統領の演説などを見ると、9月21日を最後に、あまり自分たちが「使うぞ」ということを言わなくなってきているのです。

飯田)そうですね。

東野)むしろ、ロシアの防御的に使うのだとか、世界が使ったらどうすればいいだろうかと言うなど、相手が使ってくるというような話に切り替えています。

ロシアが核の使用に踏み切れないのはインドや中国の存在が大きい

東野)裏を返せば、ロシアは自分から積極的に使いたいわけではない。何とか使わずに、しかし戦況を好転させるにはどうすればいいのかを考えているのだと思います。

飯田)ロシアが。

東野)背景として、インドや中国が核兵器の使用に対し、厳しい立場を取るようになってきたことが大きいと思います。変な言い方になりますが、核の使用をロシアがいまだに踏み切っていないことについて、インドや中国の貢献が大きい部分は少なからずあるのです。

飯田)いろいろなところからプーチン氏も圧力を受けているのですね。

東野)そうですね。

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