それぞれの朝は、それぞれの物語を連れてやってきます。
今年(2022年)の夏、九州・福岡県福岡市に、うさぎを保護する施設が開設されました。その名も「福岡市うさぎ愛護センター」と言います。
所長を務める水上怜奈さんは、1995年生まれの27歳。普段は福岡市内にある、うさぎ専門ショップの店員さんを兼任しています。
水上さんは物心ついたころから、自宅でペットとして飼われていた少し小ぶりの白うさぎ・ミミちゃんと一緒に育ってきました。真っ白でモフモフの体毛に包まれ、ちょこちょこ動く、つぶらな赤い瞳のミミちゃん。そのすべてが「かわいい!」と表現したくなるくらいの愛くるしさに魅かれていきました。
動物愛に目覚めた水上さんは、動物の専門学校に進学します。7年前には縁あって、いまも勤めるうさぎの専門ショップに就職。うさぎや関連グッズの販売、うさぎの爪切りやブラッシングといったアフターケアまで、1日中うさぎに囲まれて過ごす充実の毎日を送っていました。
ところが2年ほど前から、お店にある問い合わせが増えてきました。
「あの……他のお店で購入して、我が家にお迎えしたうさぎなんですけど……引き取っていただくことはできませんか?」
どうやら、コロナ禍で在宅時間が増えたことをきっかけに、うさぎを飼い始めたものの、面倒を見きれなくなった人たちが増えてしまったようなのです。
しかしペットショップでは、うさぎの保護まではとても手が回りません。自治体の動物愛護施設も、受け入れてくれるのは犬と猫というところがほとんどでした。
「犬や猫だけではなく、うさぎだって大切な命。何とか守りたい」
水上さんは、「うさぎ愛護センター」をつくるために立ち上がることを決心しました。
うさぎを保護することができる「うさぎ愛護センター」の開設を決心した水上さんは、まず、うさぎ好きの有志や専門学校時代の後輩に声をかけ、何とか人を集めました。一方、施設を運営するためのノウハウは、福岡市が運営する動物愛護管理センターの指導を受けながら、犬と猫で行われている手続き方法を学んでいきます。
しかし、施設を運営するための「お金」という最大の壁が立ちはだかりました。半分は水上さんが勤めるペットショップが工面してくれることが決まりましたが、残り半分ほどは、なかなか資金調達のメドが立ちません。クラウドファンディングにも挑戦しましたが、目標は達成できませんでした。
「このままでは、救える命も救えなくなってしまう。どうしたらいいのだろうか?」
水上さんが頭を抱えていると、ショップの常連さんたちが声をかけてきてくれました。
「ちょっとしかないけど、これ使ってよ」
普段からお店にうさぎの爪切りに来てくれている常連のお客さんたちを中心に、周りのうさぎ好きの皆さんに声をかける形で、だんだんと寄付が集まり始めます。そして、構想から2年あまり経った今年7月21日、九州初となるうさぎの保護施設「福岡市うさぎ愛護センター」の開設にこぎつけることができました。
センターが開設されると、道端に捨てられていたうさぎや、警察で「拾得物」とされていたうさぎたちが続々とやって来ました。なかには、小学校で飼育されていたうさぎたちが、小屋が壊れてしまったために、学校に修繕費用がないという理由で持ち込まれたこともありました。
一方、施設ができたことがメディアで伝えられ、保護されたうさぎの存在が知られると、「ぜひ我が家にお迎えしたい!」と申し出る人たちも増えています。条件が合って譲渡先が見つかると、手にした人はみんな満面の笑みがあふれます。水上さんも、うさぎの里親探しに手ごたえを感じ始めてきました。
「うさぎの命は8年~10年。その間、愛情を注ぐことができて、最期を看取るまでお世話できる覚悟があるかどうか、胸に手を当てて考えてください」
水上さんは「うさぎを飼いたい」と申し出た方に、必ずそう話します。
「福岡市うさぎ愛護センター」は地元の皆さんの善意に支えられ、いまは何とか50羽のうさぎを保護できるように準備を進めています。でも、水上さんには究極の目標があります。
「一人ひとりが責任を持って、最期までうさぎの面倒を見るのが当たり前になり、うさぎ愛護センターが要らなくなる日がきて欲しいんです。そのためにも、まずは保護されるうさぎがゼロになって欲しいと思います」
水上さんはきょうも穏やかな目で、保護されているうさぎたちを見つめます。
番組情報
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