ロシアのウクライナ侵攻を防げなかったアメリカの「抑止の失敗」
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地政学・戦略学者の奥山真司が2月28日、ニッポン放送「新行市佳のOK! Cozy up!」に出演。これまでのウクライナ情勢におけるアメリカの対応について解説した。
「アメリカの抑止失敗」によってロシアが侵攻 ~ロシアの情報をあらかじめ掴んでいたアメリカ
新行)ロシアによるウクライナ侵攻から1年が経過しました。バイデン大統領に続き、イエレン米財務長官のウクライナ訪問も報道されていますが。
奥山)ここでは、ウクライナとロシアの戦いにおける、いくつかの事実をご紹介したいと思います。まず、いちばん大きいのは「アメリカの抑止が失敗した」という事実です。
新行)アメリカの抑止が失敗した。
奥山)いろいろな方が解説していますが、今回、アメリカの情報機関がロシア側のかなりの情報を得ているのです。「シグナリング」と言われますが、情報機関が持ってきた情報を元に、アメリカは「お前たちのやっていることは知っているぞ」ということをロシア側の当局者に渡す。「ウクライナを電撃戦で侵攻し、崩壊させようと思っているのだろう。わかっているからやめろ」ということをシグナリングとして、何度も言っているのです。
新行)そうだったのですね。
奥山)しかし、結果としてロシアは去年(2022年)の2月24日に侵攻してしまったではないですか。アメリカがロシアのウクライナ侵攻を止められなかったということなので、これは抑止の失敗です。
新行)アメリカによる抑止の失敗。
奥山)ここは冷酷な事実として私たちは受け止めなければなりません。アメリカの軍事関係の専門家は、「アメリカは失敗した。反省しなければいけない」と言っています。情報機関はしっかり情報を取れていたのだけれど、それをうまく活用して止めることまではできなかった。ごく一部ではあると思いますが、アメリカは反省することになるでしょう。
台湾有事の際も同様のことが考えられる
奥山)これは、そのまま台湾有事においても同様です。アメリカは中国に対しても、「お前たち、台湾に侵攻するなよ」ということを言っていると思うのです。「考えていることは知っているぞ」と。
新行)中国に対しても。
奥山)しかし、もしかしたら同じような形でアメリカの抑止が失敗するかも知れない。その恐れがあることは、東アジアに生きる我々も懸念すべきところです。
2014年のロシアのクリミア半島への侵攻に激しいリアクションができなかった当時のオバマ政権 ~「同じ民主党だし今回もいける」とプーチン大統領に思わせてしまったか
新行)抑止しきれなかった原因は何でしょうか?
奥山)完全に「やる」と覚悟を持った人たちに対して、いくら「やるなよ」と言っても通じません。
新行)覚悟を持ったロシアに対して。
奥山)アメリカは2014年の時点で防げなかったところもあります。2014年に侵攻が始まって、ウクライナはクリミア半島を獲られてしまった。当時のオバマ政権はそれに対して激しいリアクションができず、ロシアに「これならばいける」と思わせてしまった部分があるのです。
新行)当時のオバマ政権が。
奥山)今回もプーチン大統領の周辺の人間や、プーチン大統領自身が「またいける。同じ民主党政権だし大丈夫だろう」と考えた可能性はあります。簡単に言えば、アメリカが舐められていたのかも知れません。
逆にアメリカのここまで激しい反応をわかっていなかったロシア ~抑止の難しさ
奥山)でも、その時点でアメリカがどこまでコミットできたのかは、難しい問題です。逆に去年(2022年)の時点で、アメリカ側がこんなに激しく反応することをロシア側が予測できたのかどうかも怪しい。これが抑止の難しさでしょう。どこまでロシア側に「本当にやったら危ないことになる」と思わせられるかどうかが勝負なのです。
新行)その反応が、台湾につながっていくということですよね。
奥山)その通りです。中国がこの状況を見て学習し、「北京側としては、同じことはできない」と学んでいるのかどうかが肝になると思います。
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