宿泊客が戻りつつも宿泊業での深刻な「人手不足」を打開するには
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ジャーナリストの佐々木俊尚が3月1日、ニッポン放送「新行市佳のOK! Cozy up!」に出演。2022年の宿泊客がコロナ禍前の7割超となった日本の宿泊業界について解説した。
2022年の宿泊者がコロナ前の7割超、全国旅行支援で回復
観光庁が2月28日に発表した2022年の宿泊旅行統計調査の速報値によると、国内のホテルや旅館に宿泊した人は、延べ約4億5400万人で、2021年に比べて42.9%増加した。また新型コロナウイルス感染拡大前の2019年と比べると7割を超える水準に回復。2022年10月から始まった国内観光の需要喚起策「全国旅行支援」などにより、宿泊者数の伸びにつながったとみられる。外国人の宿泊者数は1676万人で、2019年に比べて85.5%減となった。
佐々木)7割まで回復したのはかなり大きいです。なぜ大きいと言えるかというと、大陸の中国人はまだあまり来ていないのです。
中国大陸からの一般のツアー客が来ない時点で7割まで回復は大きい
佐々木)中国からビザを取って日本に来るわけですが、通常我々がビザを取るときは、その国の大使館や領事館に行きますよね。中国の場合は、中国の代理店を通さなくてはならないのです。日本大使館に直接取りに行けない。代理店がビザの発行をある程度しぼり込んでいて、現状、富裕層にしか出していないらしいのです。
新行)富裕層だけに。
佐々木)ですから、一般のツアー客はまだ日本に来られていない。先日も軽井沢に行きましたが、アジア系の人はとても少なかったです。たまにいますが、話を聞いていると、どうも台湾や香港から来ている人のようでした。大陸からは来ていないのです。それでも7割に達している。軽井沢で聞いたところ、最近はベトナム人が多いようです。
新行)そうなのですね。
佐々木)日本に来て、「安い安い」とみんな言っている。ベトナムから来て「安い」と言われるのかと、少し物悲しい部分もあったのですが。
中国大陸からの一般客が来れば1.5倍~2倍に増える
佐々木)これで7割なのですから、もし中国大陸からの観光客が完全解禁になって押し寄せて来たら、おそらく1.5倍~2倍に増えていくでしょう。
新行)大陸からの訪日客が増えれば。
佐々木)日本ももともと訪日観光客の数を7000万人くらいまで増やしたいと言っていて、コロナ禍の前には3000万人くらいまでにはなったのです。ですから、まだポテンシャルとしては相当ある。いま世界中で日本人気が高まっていますし、円安で旅行費が安い利点もあります。
深刻な宿泊業界での人手不足
佐々木)問題は、人手不足が深刻なことです。
新行)宿泊業界でコロナ禍における人手不足が深刻化するなか、訪日観光需要の急回復に加えて、日本人客の国内旅行志向が続いているそうです。「今後さらに需要が伸びてくると、人手不足からくるキャパシティ不足に陥る心配がある」という報道もあります。
佐々木)実際、コロナ禍でホテルも旅館もレストランも成り立たなくなってしまい、かなり人手を減らしたのです。それで「儲かるようになったからもう1回来てくれ」と言っても、すぐには来てくれないですよね。
コロナ禍で辞めた人が戻ってこない ~77.8%の旅館・ホテルが正社員の人手が足りない
佐々木)空港の保安検査場のスタッフも減っていたものですから、福岡空港なども、去年(2022年)の暮れくらいから長蛇の列になっていました。保安検査場に並んでいるせいで、航空便に間に合わないというような事故が頻発したという話もありましたからね。
新行)日本経済新聞にも、このような記事が掲載されています。
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『増える訪日客、足りぬ人手 宿泊業「人員不足」77%』
~『日本経済新聞』2023年3月1日配信記事 より
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新行)帝国データバンクが2023年1月、全国1万社超に行った調査で、「正社員の人手が足りない」と回答した旅館・ホテルが77.8%となっているようです。
タクシーや運転代行の運転手も足りない地方 ~「ライドシェア」を解禁するべき
佐々木)私は福井と長野に家を借りて生活しているのですが、足がないのです。タクシーや地方特有の運転代行も減っています。コロナ禍で儲からず、運転手さんを減らしてしまった。減らした分は、別の職種に転職されているわけですから、急には戻ってきません。
新行)転職されて。
佐々木)福井には敦賀などの大きな街があるのですが、そこで飲み会をしようということになり、晩ご飯を食べに行きました。しかし、帰りに代行を呼ぼうと電話したら、1時間待ちでした。
新行)1時間!
佐々木)9時に終わって、「では帰るか」と運転代行をお願いしても10時ごろまで待ったので、すっかり酔いも醒めてしまいました。
新行)飲んでいても楽しくなくなってしまいますよね。
佐々木)そのためにも、「ライドシェア」を日本でも解禁するべきではないでしょうか。日本は食べ物を届ける「Uber Eats」はあるけれど、アメリカでの「Uber Eats」は「ライドシェア」により、呼ぶと自分の車にお客さんを乗せてくれるのです。
新行)アメリカなどでは。
佐々木)日本でやると白タク扱いで、道路運送法違反になってしまうのでできませんが、それを「解禁しろ」という話は以前からあります。ただ、タクシー会社が反対するようです。
新行)タクシー会社が。
佐々木)都市部は何とかなるでしょうが、地方の観光地はタクシーも代行も台数が足りずに困っているのです。一方では、暇にしている農業の農閑期の方々がたくさんいるわけですから、そういう人たちをうまく活用すればいいと思います。運転代行を行う人たちにすれば、おこづかい稼ぎにもなります。観光客も便利なら喜ぶ。「ライドシェア」を地方では解禁して、人手不足を埋めるのに活用してもいいのではないでしょうか。
新行)地方へ旅行に行くと、私も車の運転ができないのでタクシーにお世話になります。
佐々木)タクシーだとお金もかかりますよね。
新行)そのなかで会話するのも楽しいのですが、人手不足で難しくなってくると大変ですよね。
車がなければ移動できない地方 ~観光客にとって致命的な問題
佐々木)電車で移動するとなると、2時間1本というようなローカル線が平気でありますからね。ローカル線自体がどんどん減ってきていますし。
新行)そうですね。
佐々木)私は山登りをするので、よく地方の駅まで行き、そこからバスで登山口まで行くことが多いのですが、昔に比べて路線バスの本数も減ってしまった感じがあります。下手をすると、1日2本とか。
新行)1日2本!
佐々木)朝と夕方だけ、高校生を乗せるために運行しているような状況です。それが普通ですよ。車がなければ移動できないところが、日本中にたくさんあります。そこでタクシーや代行の台数が足りなくなっているわけです。観光客にとって致命的な問題だと思うのですが、あまり報道されていません。中央のメディアの人たちは、地方の実態を知らないのでしょうね。
人手不足だからこそ、給料を上げなければいけない
新行)“ゆたぼうず”さんから人手不足について、「人手不足の対応策は賃金上昇に尽きます。安価な労働力を求めるのは愚策です」というご意見をいただきました。
佐々木)日本はかなりの円安です。海外からの富裕層の観光客が日本へ来るようになって、莫大な金を落としています。北海道のニセコなどは、1泊10万円を超えるホテルがたくさんできている状況です。高くて、もう日本人は泊まれません。
新行)そうですよね。
佐々木)まずは賃金を上げなければならない。「高級なサービスを提供します。そのかわり、日本人のスタッフにもきちんと給料を払います」というようなところを起爆剤にして、賃上げと観光客の誘致を同時に行っていくという方向も考えるべきだと思います。
新行)“よっしー”さんからは、「ホテル・観光業だけでなく、清掃業も人手不足が深刻です」といただきました。
佐々木)人手不足だから給料を上げるのです。そうしない限り、いつまでもデフレマインドから脱却できません。「人手不足だ、人手不足だ」と騒ぎながら「給料は上げません」と言っていたら、いつまでも経済は回りません。
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