現行の憲法を「生きた憲法」に戻すことが必要 ~今国会で初の衆院憲法審査会を開催

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中央大学法科大学院教授で弁護士の野村修也が3月3日、ニッポン放送「新行市佳のOK! Cozy up!」に出演。日本の憲法改正に向けた議論について解説した。

現行の憲法を「生きた憲法」に戻すことが必要 ~今国会で初の衆院憲法審査会を開催

政治 自民党憲法会であいさつする岸田文雄首相=2023年2月25日午後、東京・永田町の自民党本部 写真提供:産経新聞社

今国会で初の衆院憲法審査会を開催

衆院憲法審査会が3月2日、今国会で初めて開かれた。大規模災害や戦争など、緊急事態での対応を憲法に規定するかどうかをめぐり、自民党が憲法改正に向けてさらに議論を進めるよう主張したのに対し、立憲民主党は慎重な議論を求めた。

「どこまで権力を行使してよいのか」を決めるのが憲法という法律

新行)憲法審査会について伺いたいのですが。

野村)憲法という法律は国家権力を行使するときに、その歯止めになる、「どこまで権力を行使してよいのか」を決めるような法律です。

新行)どこまで権力を行使していいのか決める。

野村)これを「立憲主義」と言っています。「権力は憲法の範囲内で行使しましょう」となっているわけです。ただ、憲法という法律ができたときに比べて、世の中は進化していますから、状況に合わない条文が残ってしまうことがあります。

世の中の変化により、憲法改正するのが普通の国 ~戦後の反省から「憲法に触れてはいけない」という極端な議論が続いた

野村)そこを変えず、そのままにしておくと、「条文とは違うけれども、致し方ないのでこのように使っている」という話が出てしまうわけです。それなら「どこまで、どういう手続きで許すのか」をもう1度きっちり書き直していく。これが憲法改正です。憲法改正を行うのが普通の国のあり方ですし、諸外国はみんな憲法を頻繁に改正しています。

新行)憲法改正するのが普通。

野村)なぜか日本だと「憲法改正は悪だ」というような考え方が強くあります。戦争に負けたあと、日本が反省して「二度と戦争を起こさないようにしよう」と誓い合ったところがあるので、それを書いている憲法に対して触れることは、「もう1度戦争を起こすことになるのではないか」という、極端な考え方があるのでしょう。そのため「憲法に触ってはいけない」というような議論が続いてしまったわけですよね。

震災や戦争が他国で起き、国が機能しなくなったときに、「国会議員の人たちの任期をどうするのか」 ~「緊急事態条項」としてそうなったときの規律を決めておく

野村)例えば自衛隊は存在しているけれども、「憲法においてはいいのか、悪いのかわからない」というような状況になっている。結局、「憲法とはズレたところで運用されている」ということがあるわけです。

新行)そうですね。

野村)震災や戦争が他国で起き、国が機能しなくなったときに、「国会議員の人たちの任期をどうするのか」という問題は、他国ではみんな決めているのです。しかし、日本の憲法にはそれが書かれていないので、本当に大震災が起こって国会が機能しなくなった場合、「国会議員の人たちの任期をどうするのか」という問題をそのとき考えなければならない。それではいい加減なことになってしまう可能性があります。

新行)そうなったときに決めたのでは。

野村)あらかじめ手続きなど、「そうなったときの規律をきちんとしておきましょう」というのが緊急事態条項として議論されていて、大きな争点になっているわけです。

現行の憲法を「生きた憲法」に戻すことが必要 ~現行のままでは立憲主義が不十分

野村)それが緊急事態条項ではなく、戒厳令のような形で運用されて、戦争が起こったときに全部の権力を国家に集中させ、かつてのように「国民がすべて国に従わなければいけない」という状況に戻るのではないか、と思っている人たちがまだ反対しているのです。

新行)先の戦争のように。

野村)しかし、いまの世の中はそんなことを許す状況にはなっていないので、やはり合理的な考え方の基に、「憲法を生きた憲法に戻す」ということが必要なのだと思います。それが立憲主義と言われているものでしょう。現在の憲法のままでは、「立憲主義が不十分だ」と言えるのではないでしょうか。

日本の国をどうするのかということを、国民のなかで議論して、毎回、自分たちで国の形を決めていくべき

新行)憲法の解釈の仕方によっては、例えば政権が代わったときなどに「いや、こうも解釈できますよね」となり、安定しないですよね。

野村)それは権力の歯止めが効いていないということです。憲法はどういう状況になっても、「日本の国の形として、絶対にここははみ出ないようにしましょう」と決めておくものです。そこが決まっていないから、その場その場で、日本の国の形がどんどん変わってしまうのではないかと感じる。それは憲法が機能していないからです。

新行)憲法が機能していないから。

野村)新しい人権なども、いろいろ存在しているのだけれど、それも憲法には書かれていないのです。1つの条文のなかに全部押し込めてしまっている。「こんなプライバシーの権利があります」、「こんな環境権があります」などと、いろいろ言っていますが、どこにも明記されていないわけです。

憲法の議論ができる成熟した国になるべき

野村)これまで私たちがみんなでつくり上げてきた日本の国の形や、これからの日本をどうするかについて、国民の手のなかできっちり議論し、毎回、自分たちで国の形を決めていく。もうそろそろ成熟した国になった方がいいのではないかと思います。憲法の議論ができる国は成熟した国であって、それはまさに民主的に自分たちの国の形を決めていくということです。それを経験すれば、日本は成熟した国になれるのではないでしょうか。

同性婚や自衛隊の問題

新行)先ほど緊急事態条項の話もありましたが、憲法改正になったとき、論点になるのは具体的にどんなところですか?

野村)例えば最近の問題としては、同性婚の話があります。

新行)同性婚の問題。

野村)いまは「両性の合意に基づいて婚姻が成立する」と書かれているけれど、この条項が例えば同性婚を禁止しているのか、それとも同性婚については何も定めていないと読むのか。その読み方で争いがあるわけです。

新行)行政の。

野村)憲法を変えなければいけないのか、もしくは憲法を変えずとも、そういう社会をつくっていくことができるのか。あるいは禁止されているのか……それがわからない状態なので、こういうところをしっかり議論し、我が国はどういう方向に進むべきなのかを考える。これは国民が決めるべきことです。

新行)国民が。

野村)これだけ世界情勢が緊迫し、安全保障環境が変わってきているなかで、依然として条文だけを読めば、どうも自衛隊違憲のように読める部分がある。そのような憲法を残しておいてよいのか、命を懸けてもらう自衛隊の方々に対して失礼なのではないか、という議論が当然あると思います。

新行)国民投票に向かうまでに、国民の間でも理解を深めていくことは大切ですね。

野村)それが民主主義の基本なので、憲法改正は民主主義の勉強の素材として、みんなで議論するべきだと思います。

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