アフター・コロナにおける取材の形は?

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「報道部畑中デスクの独り言」(第320回)

ニッポン放送報道部畑中デスクのニュースコラム。今回は、アフター・コロナにおける取材の形について---

現場取材にはICレコーダーが欠かせない

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新型コロナウイルス感染拡大、いわゆる「コロナ禍」から3年。日本国内ではマスク着用について、3月13日から「個人の判断」に委ねることになりました。その上で、政府の方針では医療施設を訪問するときや、公共交通機関のなかではマスクの着用を推奨しています。

「マスクを外すことで息苦しさを感じる場面は少なくなった」

岸田文雄総理大臣は17日の記者会見で、マスクの着用については、国民の判断に任せ、政府から強制するものではないとした上で、このように述べていました。

「アフター・コロナ」に向けた第一歩と言えますが、個人がどう判断するかが注目されるところです。花粉症でしばらくの間は引き続きマスクのお世話になる人もいそうです。

これにより、メディアの取材環境がどうなるかも注目です。以前、小欄でもお伝えしましたが、取材環境はこの3年間で大きく変化しました。省庁や経済団体の会見は、通常の会見室や会議室から、ひと回り広い講堂やホールに変更になったり、会見者がマスク着用、会見者の前にアクリル板が置かれたりと、さまざまな対策が施されました。

いわゆる「ぶら下がり」「囲み取材」についても、取材対象者と記者の間に“規制線”が敷かれるなど、一定の距離がとられました。また、インターネットを使った「オンライン会見」も増えてきました。そして、同時に増えてきたのは、「一社一名」「代表取材」など、取材者の大幅な絞り込みでした。

記者会見や共同取材というものは、取材の一手法です。本来、何かニュースになる事象が起きたとき、記者は取材対象に取材をかけます。例えば報道機関が10社あり、取材対象が10社それぞれに取材に応じることになれば、どうなるでしょうか?

取材音声は本社で編集され、ニュースとして送出される

取材音声は本社で編集され、ニュースとして送出される

記者の側からすれば、取材対象が1人しかいない場合、1社1社順番に列をつくったり、1人をワッと囲む、いわゆる「メディア・スクラム」が生じます。対象者が同じ質問に何度も答えることもあるでしょう。一方、取材対象から情報を発したい場合もありますが、その場合も1社1社に同じことを伝えることになり、非効率です。記者会見や共同取材はお互いが「効率的」かつ「最大公約数的」に情報の受発信を行うための「便法」であり、双方の利害が一致した「合意の産物」と言えます。

記者会見や共同取材は主催者によってさまざまな形がありますが、いずれにしても極めて重要な取材機会です。聞くべきことはここで聞くべきであり、これまでもそれは行われています。特に当事者の肉声を放送にのせる電波媒体にとっては欠かせないものです。

ただ、一般に記者会見の時間は限られています。質問が尽きるまで会見を続ける例もまれにありますが、手を挙げた記者がすべて質問できるわけではありません。また、記者会見の内容から漏れた細かい事項や背景、意外な盲点を確認する必要もあります。会見が終わると、記者が会見に同席している事務方、現場担当者を囲み、さらに詳しく聞くことが、通常の取材スタイルでした。こうしたスタイルはコロナ禍以降、オンライン会見の増加や、取材人数の絞り込みで大幅に縮小されたことは否めません。

アフター・コロナになっても感染対策については、当事者同士が細心の注意を払っていかなくてはならないことは言うまでもありません。また、ITやデジタル技術が、これまでにない効率的な情報収集を可能にしたのも事実であり、「新しい取材様式」と言っていいでしょう。しかし、取材の原則はやはり現場第一、「フェイス・トゥ・フェイス」であるべきと考えます。

コロナ禍を理由にこれまで容認されてきた現場への取材機会の減少、取材者の絞り込みが、今後も続くことになれば、多様な視点からの情報発信が妨げられることになりかねません。取材という点で言えば、コロナ禍の対応はあくまでも暫定措置であり、前例ではないという認識でメディアも取り組まなくてはいけないと思います。(了)

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