安全保障アナリストで慶應義塾大学SFC研究所上席所員の部谷直亮が3月29日、ニッポン放送「飯田浩司のOK! Cozy up!」に出演。ロシアが極東ウラジオストク沖で行った対艦巡航ミサイル「モスキート」の発射演習について解説した。
ロシア、日本海で対艦巡航ミサイルの発射演習実施と発表
ロシア国防省は、日本海に面した極東ウラジオストク沖で、太平洋艦隊の2隻の艦艇が対艦巡航ミサイル「モスキート」の発射演習を行ったと3月28日に発表し、映像も公開した。2発の巡航ミサイルを発射し、およそ100キロ離れた敵艦を想定した目標に命中させたとしている。
日本に対する牽制球
飯田)通常の訓練の一環だとロシアは発表しています。ウクライナへ侵攻し、泥沼化しているとも言われますが、こんなことをやっている暇はあるのですかね。
部谷)一塁に牽制球という感じですよね。
飯田)一塁牽制。
部谷)ロシアからすると、日本がうしろにいるというのは、自分たちも昔攻めていった記憶があるので嫌なのでしょうね。日本はそんなことは思わないのですが。
飯田)ヨーロッパ正面で戦っている最中に、「自分たちならここを攻めるよな」とロシアは思う。
部谷)だから「きちんと一塁を見ているぞ」と示したのでしょう。岸田総理がウクライナに行きましたから、それに対する牽制球ではないでしょうか。
デジタル化が進み、ドローンが戦争になくてはならないシステムに組み込まれている
飯田)ロシアの戦況やドローン等々、兵器の使い方はどうご覧になっていますか?
部谷)ロシアとウクライナの両方を見ていると、デジタル化が進んでいますね。いろいろな見方があって、「第一次大戦のようだ」と言う人がいます。
飯田)塹壕戦ですとか。
部谷)でも、第一次大戦をスマートフォンで見られましたか? 大砲が数分で当てられましたか? ドローンがたくさん飛んでいましたか? つまり、見えない部分を見ると、とてもデジタル化しているのです。グローバルにみんなが参加する戦争になってきた。
飯田)かなりの部分が可視化されている。
部谷)ロシア軍もドローンを使わないと戦争できないし、ウクライナもドローンがないと戦争できないと公然と言っています。ドローンが戦争になくてはならないシステムとして組み込まれている感じがします。
ロシアが使うイラン製のドローンには西側の部品でつくられているものも
飯田)ロシアにはイラン製のドローンが相当入っているという話があります。
部谷)いまも入っていますね。ロシア国内に工場をつくるという話もあります。
飯田)イランが、ですか?
部谷)イランのドローンは中央アジアに秘密工場があるのです。飛んできたイラン製ドローンの残骸をウクライナの方々が解体し、「ここから部品が来ている、やめろ」と言っていましたが、去年(2022年)のドローンには一昨年のアメリカの部品がほとんど入っていたのです。
飯田)アメリカ製の部品が。
部谷)日本製の部品も入っていました。
飯田)でも、イランはアメリカから制裁を受けていますよね?
部谷)受けていますが、民生品なので。または第三国の工場でつくれば、西側の半導体や日本の某会社のバッテリーを買ってもわからないですよね。ソフトウェアも民生品です。民生技術ですね。
飯田)制裁の網からは容易に逃れられる。
部谷)制裁が想定していない流れなので、対応が難しいのです。
飯田)制裁よりも現場の方が先に行っている。
部谷)そういうことです。産業構造がデジタル化しているから、デジタル部品ならばできてしまうのです。
ドローンは戦国時代の火縄銃のようなもの ~それだけでは勝てないが、なくてはならない武器
飯田)軍需品として専門的につくるよりも、組み合わせてつくれるようになってしまう。
部谷)よく「ドローンというのは何ですか?」と聞かれますが、「戦国時代の火縄銃」だと答えています。戦国武将がすべての部隊を火縄銃部隊にしたら負けますよね。でも、ないと勝てない。「上手く組み合わせている」という印象です。
イランの設計図とロシアの実戦データを用いて、中国の生産力で製造 ~新たな国際連携が確立
飯田)使う技術は、民生のスマホの技術で全部できてしまう。中国の関わりはあるのですか?
部谷)中国のある会社が、イランの自爆ドローンとそっくりなものをつくってロシアに供与しようとしていると、アメリカ政府が最近指摘していました。これも牽制球なのですが、その会社のホームページを見ると、イラン製の自爆ドローンのようなものはつくっていないのです。一般的なクアッドコプターのようなものばかりでした。
飯田)プロペラが4つある、よく見るドローン。
部谷)ホームページを見る限りでは、固定翼の自爆ドローンはつくっていないのです。おそらく、アメリカが「イランのドローンに似ている」と情報を出したということは、イランの設計図とロシアの実戦データをもらって、中国の生産力で製造する予定なのでしょう。これだけでも新しい国際連携ができつつあるのです。
飯田)そうですよね。
部谷)日本にとっては嬉しくない。ロシアの実戦データとイランの技術と中国の生産力が合体して、改良したものが投入されたら、さらに改良されるサイクルになる可能性もあるわけです。日本はデータも技術もない状況になる。
飯田)確かにそうですね。「民生品だ」「防衛装備品だ」などと言っている場合ではないかも知れません。
AI技術は戦争になくてはならないものに
部谷)日本は「AIの軍事利用は危険だ」と言っていますが、ウクライナを見れば顔認証AIなど、AIを使いまくっています。
飯田)敵味方識別など。
部谷)捕虜や亡くなった兵士を顔認証し、「これはロシア軍の兵士だ」とサイバーアタックした情報と結びつけ、遺族に電話して士気を落とそうとするのです。
飯田)遺族に連絡して。
部谷)顔をあてると四角形が出て、体温を測る測定器がありますよね。「物体検出」と言いますが、あの技術を応用して戦場に戦車が何台いるのか、どんな方向から来ているかなどを機械に学習させるのです。
飯田)タンクであることが形でわかってしまう。
部谷)ドローンで撮った映像をAIに勉強させて。
画像認識もAIに学習させて精度を上げることができる
飯田)敵味方の識別や、どこに何があるかという画像認識も、画像があればAIが勝手にやってくれるのですよね。
部谷)AIの方が得意です。パッと見て、「いまここに何台あって何人がいる」など、人間の目でわからないところも見つけてくれるのです。
飯田)それが正確かどうかは、経験を積み重ねるほど精度が上がっていく。
部谷)そうですね。試行錯誤して学習させたら。
赤外線を使えば木の枝でカモフラージュした兵士も見つけてしまう
飯田)木の枝などを使ってカモフラージュしても、判別できるのですか?
部谷)画像認識では難しいかも知れませんが、他のものを組み合わせれば判別できます。木の枝などであれば、20万円くらいのドローンに付いている赤外線などでわかってしまいます。
飯田)熱源探知などを組み合わせたデータを、民生のタブレットなどに送ってしまうわけですか。
部谷)そうすれば判別できるでしょうね。
旧式の戦車もドローンと組み合わせて精密に命中させることができる
飯田)実際に使っている兵器が古くても、端末などを新しいものにして補正できるのですか?
部谷)第二次大戦時代の対戦車砲がありますが、それをドローンと組み合わせれば、精密に長距離射撃ができるのです。T64など、60年代~70年代の戦車とドローンを組み合わせて、戦車で間接照準をしているのです。丘の向こうにいる敵をドローンで上から見て、戦車で狙い撃ちする。
飯田)冷戦時代の戦車であっても、座標さえわかれば命中させられる。
部谷)敵が来る前に練習して、「この辺りに落ちる」とセットしておくのです。最近の軍用ドローンもアプリを使えば、「何度ズレている」というように攻撃を補正してくれます。
飯田)補正のためにドローンを使っている。
部谷)両方ですね。敵を発見して撃つ役割もあるし、撃ったあとに外れたら、修正して再度撃つという。
飯田)昔であれば、それを近くにいた斥候が目で見てやっていた。
部谷)いまはドローンで上から安全にできてしまうのです。
複数がお互いに通信して飛行する自爆ドローンもある ~戦争に導入されたAI
飯田)一方で、最近はキーウ近郊でも自爆ドローンの話が出ていますが、それも民生品を使えるのですか?
部谷)民生品でお互いにやっています。イラン製のものも部品は民生品ですし、ウクライナのものは、日本で言えばAmazonのようなところで買える60万円くらいのドローンを改造し、爆弾を付けて黒海艦隊司令部に突撃させるようなことをしています。
飯田)コントロールも最後まで行うのですか?
部谷)いろいろ仮説はあるのですが、コントロールして正確に当てているようです。ドローンではなく、70年代のラジコンにGPSと最新ドローンの管理システムを入れて爆弾を積むのです。それでロシアの戦略爆撃機を破壊する。デジタル化することで、古いものが最新兵器になってしまうのです。
飯田)複数を協調させて飛ばすことも可能なのですか?
部谷)わかりません。ただ、軍用では普通に連携して飛ばしていますね。トルコがつくってアフリカ等で使用されている「カルグ」というドローンは、お互いに通信して飛んで自爆します。
飯田)お互いに通信して飛んで自爆する。
部谷)「AIが戦争に導入されてきた」ということですね。
ドローンを飛ばすためにスイッチをオフにしたら、そこに爆弾を積んだドローンがやってきて、電子戦装置を破壊してしまう
飯田)日本はそれにどう対応していくのか。
部谷)日本では「AIを使ったら危険だ」と一時期言われていました。でも、AIは危険ではありません。
飯田)ドローンは電波で動いていますが、ジャミングなどで防ぐことは可能なのですか?
部谷)AIによる自律型兵器が増えているので、電子戦を行うと「あそこに電波がある」と受信して突っ込むドローンがあるのです。
飯田)電波を発している兵器があれば察知されてしまう。
部谷)電子戦兵器やレーダーは24時間ずっとスイッチを入れているわけではありません。使っている人が寝たり整備したり、移動するときにはオフにします。
飯田)そうですよね。
部谷)ウクライナもロシアもやっていますが、相手がスイッチをオフにした瞬間を遠くからドローンで見ていて、「アンテナを畳んだな」というところでドローンが飛んできて(爆弾などを)落とすのです。ロシアが自分たちのドローンを飛ばすためにスイッチをオフにしたら、爆弾を積んだドローンがやってきて、電子線装置を破壊する。
飯田)電波をオフにした瞬間にわかってしまう。
部谷)妨害電波やレーダー波を受信していたらわかるではないですか。
飯田)確かにそうですね。
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