サウジの「上海協力機構への参加」はアメリカに対する1つの「交渉カード」にすぎない

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エコノミストで複眼経済塾塾頭のエミン・ユルマズが3月30日、ニッポン放送「飯田浩司のOK! Cozy up!」に出演。上海協力機構(SCO)に参加する決定を閣議で了承したサウジアラビアについて解説した。

サウジの「上海協力機構への参加」はアメリカに対する1つの「交渉カード」にすぎない

北京でイラン最高安全保障委員会のシャムハニ事務局長(右)と握手する中国の王毅・共産党政治局員(中央)、同席したサウジアラビアのアイバーン国務相[イランメディア提供](中国・北京)=2023年3月9日 AFP=時事 写真提供:時事通信

サウジアラビア、上海協力機構への参加を閣議了承 ~中国との関係強化へ

サウジアラビアは3月29日、上海協力機構に参加する決定を閣議で了承した。 国営サウジ通信によると、サウジアラビアに上海協力機構の対話パートナー国としての地位を付与する覚書を了承した。

次期大統領選で共和党が勝てばアメリカに再び接近する可能性のあるサウジアラビア

飯田)アメリカは安全保障上の懸念を示しています。サウジアラビアはイランと外交関係を正常化するという報道もありましたが、サウジアラビア独自の動きなのでしょうか?

ユルマズ)まず理解しなければいけないのは、いまのサウジアラビア皇太子であるムハンマド・ビン・サルマン氏は、トランプさんの娘婿のジャレッド・クシュナーさんと仲がよく、極めてトランプ政権に近かったのです。ですので、民主党に対しては距離感があります。

飯田)そうでしたね。

ユルマズ)また政権が代われば、サウジアラビアの態度も変わるのではないでしょうか。共和党に戻る、もしくはトランプさんが大統領に戻れば、おそらくサウジアラビアはアメリカに接近すると思います。

飯田)次の大統領選で。

ユルマズ)そうですね。

上海協力機構においての対話パートナー国はオブザーバーのような位置付け ~あくまでアメリカに対する1つの交渉カード

ユルマズ)昨年(2022年)は原油価格が高かったため、アメリカはインフレに悩まされていて、原油価格を抑えたかった。サウジアラビアはそういうレバレッジがアメリカに対してあったのです。

飯田)有利な点というか。

ユルマズ)交渉カードですね。アメリカは「増産してくれ」とサウジアラビアに頭を下げた。

飯田)そういえば、バイデン大統領が直接行きましたね。

ユルマズ)しかし、今年は原油価格が下がっていて、70ドル前後で動いています。

飯田)1バレルあたり。

ユルマズ)ですので、いまのサウジアラビアにはアメリカに対するレバレッジがありません。そこで中国やロシアに接近し、「上海協力機構に参加する」とは言っているけれど、「加盟国になる」とは言っていません。

飯田)対話パートナー国であると。

ユルマズ)非常に緩い、オブザーバーのような位置付けです。対話パートナー国にはトルコなども入っています。しかし、トルコは北大西洋条約機構(NATO)加盟国です。

飯田)そうですね。

ユルマズ)ですので、さほど意味がないと思います。あくまでもアメリカに対する1つの交渉カードでしょう。

飯田)「あまり言うことを聞かないと、向こうに行ってしまうぞ」と。

「イランとの外交関係正常化」は一時的なアメリカに対するポーズ ~サウジアラビアがイランに本気で接近しているわけではない

ユルマズ)同じように、「イランと仲よくする」と言っても、イランとサウジアラビアはまず仲よくなれないのです。サウジアラビアとイランの間には政治的な対立があります。イランはイラン革命以降、イラン革命を周辺国に輸出しようとしているのです。

飯田)イラン革命を。

ユルマズ)イラン革命におけるホメイニさんの主張は、「そもそも王様などあってはならない」ということです。

飯田)王様はあってはならない。

ユルマズ)「それ自体がイスラムに反している」ということを言っているので、サウジアラビアにとって、イランの思想は脅威です。そのため、(「イランとの外交関係正常化」は)一時的なアメリカに対するポーズのような気がします。

飯田)イランと本気で接近するわけではない。

ユルマズ)全然違うと思います。

中国が複雑な中東事情を理解できるとは思えない ~中東で最も新しい喧嘩は500年

飯田)イランとサウジアラビアの間を中国が仲介しました。今回の上海協力機構の件も、中国がある意味ロシアとともに主導している。中国はオイル利権のようなものを、アメリカから奪い取ろうとしているのではないかと思ってしまいますが、どうなのでしょうか?

ユルマズ)中国は覇権を狙っているわけですから、影響力を中東にまで広げたい狙いはあると思います。中東は天然ガスも原油もあり、その他の地下資源もあるので重要です。

飯田)中国の狙いとして。

ユルマズ)しかし、中東事情を中国が理解できているのかと言うと、疑問が残ります。私たちが歴史の授業で言われていたのは、中東で「最も新しい喧嘩は500年」だということです。

飯田)最も新しい喧嘩で500年。

ユルマズ)パレスチナとイスラエルの戦いだって、3000年ぐらいあるのです。

飯田)そうですね。

ユルマズ)最近始まったものではありません。中東では、最も新しい喧嘩でも500年ぐらいの歴史がある。それだけ複雑なところなのです。

飯田)ちなみに、500年の喧嘩はどことどこによるものですか?

ユルマズ)例えば、ペルシャ人とクルド人の喧嘩などです。

飯田)なるほど。イスラエル、ユダヤについてはもともとあって、追い出されるような流れが3000年前から始まっているのですね。

ユルマズ)そういうことです。ですので、いろいろな意味で流動的になっているのではないでしょうか。当然ながら、これらの国々も新冷戦のなかで上手に立ち回り、自分たちのポジショニングを強めたいという狙いがあります。

イスラエルはイランが核兵器を持つことを全力で阻止する

飯田)イスラエルはトランプ政権時代、サウジアラビアやアラブ首長国連邦(UAE)と国交を回復し、接近しているようにも見えました。サウジアラビアがいま、イランと接近しているように見えるとなると、イスラエルは許せないのではないですか?

ユルマズ)イスラエルにとって、イランが核兵器を持つことは絶対に許さないと思います。そこはレッドラインなので、全力で阻止するでしょう。

イラン革命以降、イランとサウジアラビアの利害は一致しない ~すべて王様が決めるサウジアラビアに閣議などない

飯田)「サウジアラビアはそれを許した」というような報道がありましたけれど。

ユルマズ)それは違うと思います。イランとサウジアラビアは、イラン革命以降は宿敵なのです。まず絶対に利害が一致しません。

飯田)イランとサウジアラビアは。

ユルマズ)その前のイランには王様がいました。

飯田)パーレビ王朝の時代は。

ユルマズ)そのときは仲がよかったのです。サウジアラビアは私たちが理解している意味での近代国家ではありません。古典的な王様なのです。「閣議決定」などと言っていますが、閣議などサウジアラビアにはありません。王様がすべて決めているし、いまは皇太子がすべて決めています。

飯田)「これでいこうか」と言ったら、その通りになる。

ユルマズ)もちろん内部にはいろいろな部族や、お互いの同盟、アライアンスや力関係はあります。しかし、私たちが理解している意味での近代国家ではないので、国家体制としては、近代化した国家自体を脅威と感じているのです。

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